第10話 ~義に死してこそ華~
グオルグ伯爵の所へ赴くことになったウンディーヌ。そこに確固たる決心を抱いたホークが現れる。
そして、ターハル伯爵との最後の戦いが始まる。
ターハル領兵舎前。今ここに1台の馬車が停車していた。毛並みの良い2頭の馬、豪華な細工の施された車体、いずれもが一級である。
そして、豪奢な馬車から1人の女性が降りてくる。紫色のドレスに身を包み、雪のような白い肌、絹織物と彷彿をさせる黒髪が印象的な女性。それはターハル伯爵の令嬢ことウンディーヌであった。
ウンディーヌが兵舎を訪れた理由、それは今からグオルグ伯爵の所に赴く道中、護衛となる兵士達と合流するためであった。また、これまで現場で頑張ってきた兵士達への労いも兼ねてである。
「我々がお供いたします」
「よろしく頼む」
形式的な挨拶の後、ウンディーヌに対して、敬礼を行う護衛の責任者と部下である2人の兵士。対する彼女もまた形式的な返事をする。
これで全ての準備が整った。後はグオルグ伯爵の所に向かうだけである。後ろ髪を引かれる思いでウンディーヌが馬車に乗り込もうとした時であった。
「待ってください!!」
突然、若い男性のものと思われる制止の声が響き渡る。そしてまた、ウンディーヌは今の声に聞き覚えがあった。
気がつけば、ウンディーヌと護衛の兵士達も視界の先には1人の兵士が立っていた。それは兵士の装備に身を固めたホークであった。
「無礼者!何をしている!」
突然、この場に現れたホークのことを叱責する護衛の責任者。しかし、彼は構うことなくウンディーヌの方に視線を向ける。
「貴方……」
「本当によろしいのですか?」
戸惑うウンディーヌに向かって真っ直ぐな眼差しで疑問を投げかけるホーク。さらに彼は言葉を続ける。
「このままグオルグ伯爵のもとに嫁いでよろしいのですか?」
「わ、私はターハル伯爵家の娘として自らの責務を全うだけだ」
動揺しながらも貴族としての建前で答えるウンディーヌ。しかし、ホークは一歩も退こうとはしない。彼女の本意でないぐらい分かっている。
「罪なき民……そして、ウンディーヌ様ご自身を犠牲になさっても……ですか?」
毅然とした口調で今一度、ウンディーヌに疑問を投げかけるホーク。彼が出立を妨害していることにより、兵舎周辺には何事かと他の兵士達も集まっている。
「何とでも言います!民や貴方様ご自身を犠牲にして、欲深い伯爵の嫁ぐことが本意なのですか?たった一度の人生、今の選択をして本当に悔いが残らないですか!?」
今まで以上に強い口調でウンディーヌに問い掛けるホーク。それと同時に彼女の中でこれまでの記憶が回想される。
生まれつき身体の弱かったウンディーヌ。外に出ることも許されず、屋敷の中で令嬢としての教育と魔法の習得の日々を過ごすばかりであった。
そうした中、ひょんなことで知り合ったホーク。彼はウンディーヌを励まし続けたばかりではなく、自らを投げ打って希少な薬を提供してくれた。そのおかげで彼女は健康な身体を手に入れ、人としての生きる喜びを手に入れることができた。
人として生きたい。それが他ならぬウンディーヌの正真正銘の願いであった。理性ではなく生命そのものが馬鹿げた婚約を拒絶し、自らの選択で人生を生きたいと叫んでいた。
「さっさと去れ!」
「待て!」
ホークにこの場から立ち去るよう怒鳴りつける護衛の責任者であるが、すぐにウンディーヌが制止する。そして、彼女は思いもしない言葉を口にする。
「兵士ホークよ、ターハル伯爵が娘、ウンディーヌとして命ずる。ただちに兵舎の兵を集め、我が父を討伐せよ」
凛とした口調でホークに任務を告げるウンディーヌ。彼女の言葉の端々には覚悟や宿っており、本気でターハル伯爵のことを討伐する気でいるのだ。
これまでの護衛任務から一転、ウンディーヌから発せられた命令。思いもよらぬ事態に兵舎周辺の兵士達は驚きと困惑を隠せない。
「はっ!」
一方、ウンディーヌからの命令に対して、歯切れのよい口調で返答するホーク。最早、今の彼には何の憂いもなかった。
「おいおい、どうする?」
「ウンディーヌ様からのご命令だぞ?」
「しかし、我々はターハル伯爵に仕える兵士……」
そんなことを口々にしながら狼狽している兵士達。一体どうすれば良いのか、身動きができないでいるのだ。
「ええい!小娘の言うことなどまやかしだ!我々の主はターハル伯爵様だけだ!」
すると、兵舎の指揮官の1人が困惑している兵士達に向かって、怒鳴りつけるように命令を出す。実はこの指揮官はターハル伯爵に取り入っており、熱心な信奉者と言っても過言ではなかった。
指揮官の言葉を真に受けて、兵士達がホークの目の前に立ち塞がる。このままでは多勢に無勢と思われた時であった。
「全くしょうがないですね」
「あいつはそういう奴だからな」
何人かの兵士達を打ちのめした後、ホークの戦列に加わる者達がいた。それはそれぞれの武器を構えたナオとライトであった。
「ナオ、助かる!ライト様、ありがとうございます!」
「いいですって、何だかんだでホークさんとはいつも一緒でしたし!」
「部下の尻拭いをするのも上司の仕事だからな!それにこうして表立って行動ができることは良いことだ!」
いつもと変わらぬ軽口で返答してみせるナオとライト。彼等はそれぞれの理由でこの戦いに加わっていた。
特にライトに関して言えば、ターハル領で治安維持を担う立場にありながらも、領主である伯爵の思惑により、民を傷つけかねない行為を見過ごさざるを得なった。従って、ウンディーヌの命令はまさしく絶好の機会であった。
「ウンディーヌ様、私にブジンの鎧の使用許可をください」
「ブジンの鎧?」
「はい。この兵舎に納められている鎧のことです。かなり特別な代物できっと戦力になるはずです」
「うむ。許可しよう」
「はっ!ありがとうございます」
ウンディーヌから下されるブジンの鎧の使用許可。早速、一刻も早く鎧を手に入れるため、ホークは大急ぎで兵舎の方へと向かっていく。
「ホークだけでは不安だ。ナオ、お前もついていけ!」
「はい!」
単身ホークだけを兵舎に向かわせることは危険だと判断してライト。彼はナオに後を追うように指示を出す。
部下2人を送り出した後、ライトはたった1人で大勢の兵士達と対峙することになる。しかし、この状況下でも彼の闘志が揺らぐことはなかった。
「ラ、ライト様……本気ですか?」
「我々で勝てるのか?」
「何をしている!相手は1人だ!早く行け!」
ターハル領でも数多くの武勇で知られるライトと対峙する中、兵士達は困惑と怯えを隠し切れないでいる。そうした中、現場を知らず、ターハル伯爵と癒着してきた指揮官が怒鳴る。
「ウンディーヌ様、ここは危険です。お下がりください」
「無用だ。私の力を見せてくれよう……」
ライトからの進言を退けた後、その場で詠唱を開始するウンディーヌ。それと同時に彼女の周囲には水分を含んだ大気が集まり、やがてはいくつかの大きな水の塊となる。
「水の槍を我が敵を貫け」
ウンディーヌが詠唱を終えた途端、いくつかの水の塊はそれぞれ槍の形と変わり、後方にいる高慢な指揮官へと向かっていく。まるで自らの意思を持っているかのようだ。
「ひ、ひぃっ!!」
次の瞬間、水の槍で両腕と両脚を貫かれ、痛々しい悲鳴を上げる高慢な指揮官。そのまま彼は地面でみっともなくジタバタしている。
「無用な殺生はしない。しかし、邪魔をするのであれば排除する」
転げ回る高慢な指揮官を見下ろしつつ、冷徹とも言える口調で告げるウンディーヌ。その姿には威厳さえ感じられた。
実はウンディーヌは幼い頃より、ターハル伯爵から魔法の教育を受けてきた。その中でも水魔法の扱いに長けていた。ただ、彼女自身、病弱の身であったが故、心身に負担がかかる魔法の使用は控えていた。
しかし、ウンディーヌが健康な身体を手に入れた今、魔法の使用に伴う負担を考える必要はなくなっていた。
「ま、まずいぞ!」
「このままでは……」
ウンディーヌとライトを目前にする中、酷く動揺している兵士達。確かに相手はたったの2人である。しかし、その相手はターハル領でも屈強の水魔法使いと将兵であった。
◇
巨大なターハル領兵舎内の通路、今この場所を大急ぎで駆け抜けている者達がいた。ホークとナオの2人である。
現在、ホークとナオが向かっている場所。それは武器や鎧が保管されている保管庫であった。ここにターハル領最強の装備であるブジンの鎧が保管されている。
「あっ!あそこです!」
通路を駆け抜けている中、前方を指し示してみせるナオ。そこには巨大な扉が待ち構えていた。そう、この先に保管庫があるのだ。
「待て!」
「ここは通さんぞ!」
すると突然、ホークとナオの前に2人の兵士達が立ち塞がる。恐らくは保管庫の警備を担当している者達であろう。
既にホークとナオがターハル伯爵に反抗し、ウンディーヌの命令で行動していることは兵舎内にも知れ渡っている。このため、2人は兵士達に協力をお願いする一方、敵対する者はこの手で打ちのめしてきた。
「邪魔だ!」
「先に進みます!」
それぞれ愛用の剣と長槍で警備の兵士達を打ちのめすホークとナオ。2人の攻撃を受けて相手側は気を失ってしまう。
その後、警備の兵士達から鍵を奪取すると施錠を解除するホークとナオ。そのまま2人は足早に保管庫の中へと足を踏み入れる。
広大な保管庫の中、そこは武器や甲冑類が折り目正しく並べられていた。いつでも使用ができるよう、常に整理整頓を行っているのだろう。
そして、保管庫の奥に台座に架けられている鎧があった。重厚感溢れる厳めしい納紺色の鎧。間違いない。これこそがホーク達の求めていたブジンの鎧であった。
「俺が着る!手伝ってくれ!」
「はい!」
早速、これまで身につけていた防具を外しつつ、ブジンの鎧を着込もうとしているホーク。傍らにいるナオも彼の手伝いを行う。
ほどなくして、ブジンの鎧の装着が完了する。両腕には小型の盾が装備されており、さらに携行武器として長い片刃の剣がある。従来の騎士とは大きく異なる出で立ちだ。
「似合っていますよ」
「ありがとう。それにしても、この鎧……まるで力が漲るようだ」
ナオからの賛辞の言葉に感謝を述べつつ、ブジンの鎧についての着心地を口にするホーク。まるで鎧が力を与えてくれるかのようだ。
「行くぞ」
「分かりました」
ブジンの鎧を手に入れた今、ここには最早、用事はない。早速、保管庫の中から出るホークとナオ。しかし、彼等の前には全身を鎧で武装した大柄の男が待ち構えていた。
「裏切り者め、始末してやる!」
「どけっ!!」
ここでモタモタしている場合ではない。ホークは大柄の男の顔面に強烈な右ストレートを打ち込む。
「ぐへえっ!?」
情けない叫び声を上げつつ、殴られた衝撃で地面に叩きつけられる大柄の男。そのまま彼は意識を失ってしまう。
「凄いですね」
「ああ、何というパワーなんだ」
これまでの一連の様子を目の当たりにして、それぞれに驚いているナオとホーク。これほどまでにブジンの鎧の力は圧倒的なのだろうか。
その後、兵舎の外にいるウンディーヌとライトのいる場所に戻るべく、再び通路の中を駆け抜けるホークとライトであった。
◇
兵舎の外に出たホークとライトの視界の中に入ってきたもの、それはたった2人で兵士達と対峙しているライトとウンディーヌの姿であった。そう、彼等は物量の差をものともせず、戦いを互角以上に進めていたのだ。
「ウンディーヌ様、ブジンの鎧を回収してまいりました!」
「うむ」
開口一番、ウンディーヌに首尾を報告するホーク。対する彼女の方も満足そうに頷いている。
「お前達、投降しろ!ブジンの鎧もこちらに揃った今、最早、勝ち目はない!!」
強く口調で目の前の兵士達に降伏を勧告するライト。対する兵士達はどうしたものかと慌てている。
「これから我々はウンディーヌ様の命を受け、ターハル伯爵を討伐しにいく!この者こそ、我々をこき使い、守るべき民を傷つけてきた……そんな者の手先で終わっていいのか!?」
さらにライトは煮え切らない兵士達に向かって言葉を続ける。現場の指揮官としてターハル伯爵の行為に従わざるを得なかったからこその言葉であった。
「俺、投降します」
「俺も……」
「俺もです……ウンディーヌ様に従います」
すると、兵士達は次々に武器を捨てることにより、投降とウンディーヌに従うことを意志表示する。その後も投降する兵士達は増えていき、兵舎に所属する過半数を上回るのであった。
そして、過半数の兵士達がウンディーヌに従う意志を示したため、軍事力の要である兵舎を占拠することに成功したのであった。
◇
ターハル領の兵舎を制圧後、ウンディーヌは兵士達を引き連れ、街中を進んでいく。なお、参加する兵士達は彼女に恭順・投降した全員である。あまりにも異様な光景に領民達は何事かと驚かずにはいられなかった。
「これより、領内の問題を片づけてくる。心配する必要はない!」
大勢の兵士達と一緒に行軍する中、毅然とした口調で街中を領民達に語りかけるウンディーヌ。あまりにも凛とした彼女の姿に領民達は落ち着きを取り戻す。
そして、行軍の末にターハル伯爵の屋敷前に到着するウンディーヌと兵士達。既に屋敷前には武装した騎士達が守りを固めている。彼等は主君に付き従う上級騎士である。
「この反逆者共め!」
「ここは通さぬ!」
強気の口調でウンディーヌと兵士達に吠え立てる騎士達。しかし、彼等も流石に圧倒的な兵力の差は認識せざるを得なかった。
しかし、ここで退いては騎士の名折れである。あくまでも抗戦の意思を示している上級騎士達。どうしたものかと兵士達が考える中、ウンディーヌが指示を出す。
「ホーク!」
「はっ」
「貴方には特別にブジンの鎧を貸し与えた。今ここでその力を示すのだ」
「了解しました」
ウンディーヌからの命令を受領した後、立ち塞がる上級騎士達の方に歩み寄ってゆくホーク。その歩みには一切の迷いが見られない。
もしも、無闇に兵士達を向かわせれば、上級騎士達に返り討ちになる。これ以上、ターハル領の人間同士を傷つけることはウンディーヌの本意ではない。だからこそ、圧倒的な力を有するブジンの鎧を装備したホークを向かわせたのだ。
「たった1人で相手にするというのか?」
「侮られたものだな!」
今、ホークの前には2人の上級騎士達が立ち塞がる。1人は全身を重々しい鎧で包み、巨大な斧を装備している騎士であり、もう1人は巨大な盾と長剣を装備した騎士である。いずれも重武装であるのが特徴だ。
「こい!ブジンの鎧の力を見せてやる!」
左腕に装備された小型の盾を掲げるホーク。丸みを帯びた小型の盾の中心部には4つの赤い玉が埋め込まれている。
すると次の瞬間、盾に埋め込まれた赤い玉が光を発し、そこから4つの光の玉が同時に発射される。玉の正体は火属性を宿した魔石であり、火炎攻撃を行える機構が組み込まれていた。
「うおっ!?」
襲い掛かってくる火の玉を巨大な盾で防御しようとする上級騎士。しかし、その攻撃力は想像した以上であり、受け止めた衝撃で地面に叩きつけられてしまう。
「この!」
同僚を攻撃されて怒り心頭の上級騎士。彼は巨大な斧を構えてホークを迎え撃とうとする。余程、自身の腕力と装備に自信があるようだ。
「ならば!」
対するホークは携行装備である片刃の長剣を鞘から抜く。この武器は太刀と呼ばれる代物であり、特に斬撃力に秀でていると言われる。
「ふんっ!!」
「ぬん!!」
渾身の力を込めて太刀を勢いよく振り下ろすホーク。一方、上級騎士は自慢の斧で受け止めようとする。
次の瞬間、何かが宙を舞ったかと思えば、そのまま地面に突き刺さる。その正体は上級騎士が装備している斧の破片であった。そう、ホークの斬撃は硬い斧さえも容易く真っ二つにしたのだ。
「こんな……」
「まさか……」
ブジンの鎧を装備したホークに圧倒され、驚きと戸惑いの声を上げている2人の上級騎士。そうした時、戦いの様子を見守っていたウンディーヌが口を開く。
「お前達も分かったであろう?これ以上、戦いを続けることは無意味だ」
「……」
「……」
暗に降伏を勧告するウンディーヌに対して、何も言い返せないでいる2人の上級騎士。最早、相手の進軍を止めることなど不可能であった。
そして、上級騎士達は渋々ながらもウンディーヌ達に道を明け渡す。そう、彼女の思惑どおり、最小限の戦闘で歩を進めることができたのであった。
◇
ターハル伯爵邸の大広間。ここに今、ウンディーヌは足を踏み入れていた。彼女のすぐ傍にはホーク、後方にはナオとライト、さらに大勢の兵士達の姿がある。
前方を眺めているウンディーヌとホークの視線の先、そこには1人の男が立っていた。年を重ねながらも若々しい佇まいをした白髪の男、この屋敷の主であるターハル伯爵であった。
「よく来たな……裏切り者」
実の娘であるウンディーヌ、彼女に従うホーク達を目前にして、忌々しげに吐き捨てているターハル伯爵。最早、彼の野望は阻止されたのも同然であった。
「お父様は間違っています。自らの野望のために民を犠牲にするなどもってのほかです」
真っ直ぐな眼差しのまま、実の父であるターハル伯爵に断言するウンディーヌ。凛とした佇まいは威厳を感じさせる。
「よくもまあ、この私に意見するようになったものだ……。それにしても……」
自身の視線をウンディーヌからホークに視線を移すターハル伯爵。一介の兵士でありながらも彼はブジンの鎧を装備している。この男の存在が今に至るきっかけを作ったことは間違いないようだ。
「お前に聞こう?何故、反逆の道を選んだ?金は、地位は、名声は、生命は惜しくないのか?」
「私はホーク……ウンディーヌ様をお守りすると誓った者、義に死してこそ華だと思いませんか!?」
ターハル伯爵の呪詛めいた問いに対して、威風堂々とした様子で答えてみせるホーク。彼にしてみれば、他の何よりもウンディーヌを守ることが最優先であった。
しかし、ホークの抱く信念であるが、一般的な常識とは大きくかけ離れており、ターハル伯爵は勿論のこと、同行している兵士達でさえも驚きあるいは呆れの表情を露わにしている。
それでもなお、ホークのことをよく知る者達は彼の信念を理解しており、相棒とも呼べるナオはニコニコと笑っており、上官のライトは腕を組みながら何度も頷いている。
「お父様、悪いことは言いません。大人しく縛について罪を清算すべきです」
「断る。私にも貴族としての意地がある」
ウンディーヌからの勧告を断った後、懐の中から何かを取り出すターハル伯爵。彼が取り出した物、それは小瓶であった。
「っ!あの者を捕えよ!」
小瓶の中身に気がついたのか、兵士達の命令を出すウンディーヌ。しかし、それよりも早くターハル伯爵は小瓶の中身を一気に飲み干す。
「ぐふっ!?」
小瓶の中身を飲み干して数秒後、苦しげな呻き声を上げ、口から血を流しながら倒れ込むターハル伯爵。実は小瓶の中には猛毒が入っていたのである。
「お父様!」
「伯爵!」
倒れ込むターハル伯爵の元に駆け寄るウンディーヌ。傍に控えているホークも後に続いた。
「何てことを……」
「ふん、私の野望もここまでだ……ならば……この手で潔く幕を引こう」
父親の思わぬ行動に動揺を隠せないでいるウンディーヌ。一方、途切れ途切れに自らの心境を語るターハル伯爵。
これまで貴族として策謀に明け暮れていたターハル伯爵。しかし、自身の娘とそれに従う者達によって断罪されることになった。そう、彼は自らの終焉を悟っていたのだ。
「ウンディーヌ……そして、ホークか……」
次第に意識が霞んでいく中、娘であるウンディーヌ、隣にいるホークへと視線を移していくターハル伯爵。この時、彼は自然と2人に対する憎しみの感情は湧かなかった。それどころか、安堵の感情さえ覚える。
「なかなかの……人生だった……」
最期に呟くように言葉を発した後、瞼を閉じるターハル伯爵。そして、彼が目を開けることは2度となかった。
「お父様!お父様~!!」
父の最期を看取り、泣き叫んでいるウンディーヌ。いくら、討つべき相手であったとはいえ、実の父親の死は彼女にとって辛く悲しいものであった。そして、ホークは泣き続ける彼女の姿を静かに見守っていた。
自身の野望が阻止され、死を選んだターハル伯爵。このことは同時にターハル領の終焉、さらには愚かな貴族達の馬鹿げた野望が終結しようとしていることを意味していた。
皆さんお疲れ様です。
今回は怒濤の急展開でターハル伯爵との対決も描きました。それに伴って主人公のホークも半ば無双状態でした。とは言うものの彼の場合は装備ありきですけどね(笑)
実は後2話ほどで本作品も終わりになります。完結まで頑張りますのでよろしくお願いします。




