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野菜畑の裏事情

「とれたてはとびっきりうめぇな」

 キャベツはレタスの心臓を食べた。心臓を食べると、その分だけ強くなっていくのだ。

 じつは野菜畑では、誰も見ていない夜の間だけ野菜たちが自由に動くことができる。これまでは争いもなく、平和な野菜畑だったのだが、暴君キャベツが来てからはすっかり変わってしまった。

「せっかく夜の間だけ動けるんだ。暇つぶしにみんなで遊ぶってのはどうだ? ……そうだな、たとえば『命をかけたゲーム』とかな」

 こうして始まってしまった毎夜のデスゲームに、反対する野菜たちは多かった。

「キャベツもうやめようぜ! おまえが一方的に殺してるだけじゃないか!」ピーマンはいう。

「うるせえな。カスは黙ってろ、ピーマン」

 一方的に殺戮を繰り返し、己の欲求を満たすキャベツ。だが心臓を食べるたびに大きく、強くなっていくキャベツに、ほかの野菜たちはもう太刀打ちできなくなっていた。

「最近はどいつもこいつも弱っちくて話にならねえ。俺様はもっと命がけのゲームを期待してるんだがな。……そうだ、なら、カスのお前らに一度だけハンデをやろう。明日、朝焼けが始まるまで俺様は一歩も動かねえし、攻撃もしねえ。俺様を倒す絶好のチャンスってわけだ」キャベツはいう。

「こんなチャンスはないだろ? だがお前らのことだ。何もしないってこともありえるな。……なら、俺様を殺せなかったら、次の晩お前らを皆殺しにする」

 野菜たちは絶句した。「意味がわからない」「なんでだよ」という声が次々に上がる。

「あ? 退屈だからだよ」

「そんなの、別に皆殺しにする理由にはならないじゃねえか!」キュウリが怒った。

「理由? そんなものねえさ。ただ、俺様が今そういう気分で、そうしたいと思っただけだ」

 理不尽なものいいだが、今のキャベツは最強だ。誰にも止められない。

「今からスタートだ。朝焼けが来るまでに、俺様を殺せるかなぁ?」

 野菜たち全員の命がかかった戦いが幕を開けた。朝までにキャベツを倒さなければ、全員殺される。

「おい、集まれ、みんな! まずは作戦会議だ!」リーダーのキュウリがいう。

「今日のキャベツは一歩も動かないと断言している。だから、いつもはできない、周りを取り囲むっていう戦い方ができる。……なに、あいつは自分のいったことは意地でも曲げねえさ。それに、もし急に暴れだしたとしても、周りの戦士たちで抑えることだってできるさ。どうだ、みんな?」

「おー! さすがリーダー!」「いいね! それでいこう!」野菜たちも賛同する。

 戦闘力の高いトマト、キュウリを中心に取り囲む。まだ戦えない子供やお年寄りは離れたところに陣取る。遠くからは石をぶつけ、近くからは打撃などで攻撃する。だが、キャベツにはまるで効いていないようだった。

「何だお前ら。何かしてるのか?」キャベツは余裕ぶった声で挑発する。実際痛くもかゆくもなさそうだった。

「まばらに攻撃しても通じなさそうだ! 一点集中にしよう! 投石部隊はキャベツの背面を、突撃部隊はキャベツの正面を、できるだけ同じ箇所だけを攻撃し続けるんだ!」トマトがいう。

 少し手ごたえはあった。だが、キャベツは余裕の表情で発破をかける。

「朝焼けが来るまであと二、三時間くらいだ。せいぜい頑張るこったなぁ」

 キュウリたちはその後も攻撃を仕掛け続けた。しかし、キャベツには効いていないようだ。

 やがて約束の時間がやってくる。朝焼けが見え始めた。日が昇ると野菜たちは動けなくなる。土に根を張り、いつも通りただの野菜の姿になった。

 

 朝になると人間がやってきた。人間は野菜たちに水をやり、収穫、種植えなどの作業をして、夕方になるまで野菜たちの面倒をみていた。

 作業を終え、人間が帰ろうとした時、ふとキャベツが植わっている場所を見た。

「ずいぶん大きいのがあるなぁ」

 人間はキャベツの中でもひと際異彩を放っているキャベツに注目した。

「あれ? でもこれ、背中とおなかちょっと傷んでるな。だめだ、これは売れねえや。捨てるか」

 人間はキャベツを引き抜いた。

「おい、何すんだよ! じじいー!」キャベツは叫ぶ。が、人間には聞こえないので、抵抗する間もなく廃棄ボックスに投げ入れられた。

「え? えぇー!?」ピーマンがまさかの幕切れに驚く。

 効いていないと思っていた一点集中攻撃が、キャベツに変色を起こさせ、人間に「傷んでいる」と錯覚させたのだ。

「無駄だと思ってた攻撃が、まさか効いているなんて! やったー!」ピーマンがはしゃぐ。

「いや、実際キャベツにダメージはなかったと思うよ。ただ内側が腐ったように見えるだけさ。変色したくらいで捨てるのはどうかと思うけどね」トマトが冷静に話す。

「俺もそう思う。だけど、目的は達した。みんな協力してくれてありがとう!」キュウリが野菜たちに礼をいう。

 暴君キャベツがいなくなったその夜、野菜たちは喜びと、ほんの一抹の悲しみを抱いていた。

 次の日から、農薬の量が増えた。

おわり

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