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野良と駄犬のご主人様!?  作者: パンデミック二頭筋
第一部 距離感ガバガバ選手権
4/27

2番

お忘れかもしれないがこの学園は力を付けるための場所でもある。

つまり一日に一度授業としての訓練の時間があるのだ。


今日は初日なので見学だけだが今のうちにどの部門に行くか決めておくのも良いだろう。

まぁ私はもう決まっているが。

明さんは何の部門に行くのだろうか、気になるので是非聞いてみたい。


先生の話が終わり10分の休憩時間になった。

よし、明さんと親交を深めよう。


「…明さん」

「ひいっ何でしょう!」


『ひぃっ』?


「…あの…あなたのお名前を、伺っても、いいかしら…?」

「ひょえっ、いや、その!そんなお聞かせできるような名前じゃ無いですし!」


『ひょえっ』??


「……そう…残念ね」

「ひいいぃぃすいません教えます!教えますから命だけは!」

「…………あの」


………これを友好関係と言うのは…流石に苦しいかもしれない。

それならえっとまずは……

そう、ちゃんと言葉にすればいいんだ。


「…その、こっちおいで……?」

「その誘い文句で着いてくる子はいないと思いますぅ……」


順序を間違えましたね。

まずは怖がらないように……


「……えっと…怖がらないで、大丈夫よ…その、なにも…しないわ……」

「嘘ですぅ絶対なにかする顔ですよぉ……!」


にっこりと笑いながら話しかけるも警戒されてしまう。

おかしい、私のパーフェクトコミュニケーション能力は発揮されているはずだ、顔?顔が悪いのだろうか?


しばらく押し問答を繰り返しているうちにハッキリした。明さんは私に怯えているのだろう。

だとしたら誤解をとこう。


…………いや違う、落ち着こう。

まずは私はやらなければならないことをしなければ。

私はまだちゃんと……そう思ったらいてもたってもいられず、また悪目立ちする訳にも行かないので階段の下の目立たない隠れた場所に明さんの手を繋ぎ引っ張ってきてしまった。


「そのお!こんな影で一体何するきでーー!」

「……その…ごめんなさい!」


そう、謝ることを忘れていた。

さっきは私からぶつかってしまったにも関わらず謝られてしまった事を忘れてしまっていた。

頭を小さな明さんより下に来るようしっかり下げる。


「ひょえっ…え?あっあの?あ、あれ?私謝られるようなことしましたっけ?」

「…その…さっきは、よそ見を、していたせいで、ぶつかってしまって…その、ごめんなさい。」

「えっ…わっわわっ!?あ、頭を上げてください!」

「…いいえ」


私は少し興奮し過ぎていたようだ。

自分の考えを1番かのように振舞ってしまっていた。

もっと相手の気持ちを考えてお互いに尊重できる、そんな関係に生まれるのがきっと友情だろう。だとしたら私はスタートラインにすら立てていなかった。


「……ごめんなさい、怯えさせて…しまった、それに先生にも、私のせいで…」

「あっ…いや…そんな…」


流石に誤魔化していたが心苦しくなってきた、私のせいとはいえあんな態度を取られ続けて気にしないのは無理である。


明さんは間違いなく私に怯えているのだからもう彼女に近ずかない事が1番彼女の為だろう、友人になれないのは残念だが仕方ない。私よりもちゃんと優先するべきだ。


「……………もう…話しかけない、から……安心して……」

「えっ…………あっ!?やりすぎた!?」


そう、これが一番いい方法なはず。彼女とはたまたま会っただけでまだ友達でも何でもない、だからもう近づかなくても悲しくもなんともない。

でも何だか…胸が熱くなる、学園に来た時とは違う嫌な痛みを伴う熱さ。


そんな気持ちを振り払い一人席に戻ろうと後ろを向いた私はきゅっと制服を引かれる感覚に気がついた。


「あっあの!」

「…明さん、その…無理しなくても…」

「光威さんは私に謝りたかっただけですか!?」

「…え……」

「そっその!多分違いますよね!?さ、さっき何か言いたげにしてましたもんね!?」


さっきの話を覚えていてくれたのか、だとしてももう、話しかけてこなくてもいいのに、


「…その…怖いのですから無理はいいですよ…大丈夫ですから、無理しなくても……」

「い!?や、違います!そ、その!私の勘違いで困らせてしまったんでしょう!?ならお互い様です!全部なしなし!もう関係ないですよ!」

「……でも」

「…ううー…はぁ、もう仕方ないか…」


私は……明さんを怖がらせて……

なんて思ってしまう、友達になれたとしても怖がらせてしまう。

そんなのは嫌だ、私は友達には笑っていて貰いたい。だから…


瞬間、ふっと私の体が落ちる


「えあっ」

「おっと」


情けない声と共にぺたんと膝立ちにになってしまうがぶつかる前に明さんに支えられる。

い、今確かにひざかっくんのような…


「…あ、明さん?何を…?」

「光威さんってとっても綺麗な目をしてますよね」

「…ひゃい!?」

「正直最初は鋭い目だなーなんで思ってました。でもそれは私みたいにちっちゃい人から見たら特にそう見えるんだけなんですね」

「!??明さん!?ほっ本当に何を!?」


膝立ちになった事で私の方が低い目線になり明さんに上から覗き込まれる。

そのくりくりとした目はさっきまでとは違い細められ妖艶な雰囲気を持ち今にも吸い込まれてしまいそうだ。

そんな中で急に私を褒め始め段々、段々と顔を近づけてくる、まるでキスされてしまう寸前のように…!


「ほら、光威さんはちょっと目付きが悪いだけで今はこんなに可愛い顔してるじゃないですか」

「……!!」


なななななな!?な、なっなんてその!わ、わ〜!?か、可愛いとかそんな正面から…その言われると!


顔が真っ赤になっていくのが分かる。

もうごましきれないのもはっきり分かる。

さらに近ずいてくる顔を見て思わず目を閉じてしまう、こ、こんな時どうすればいいのでしょう!?


「…その、私悪い癖があるんです。」

「…へ…?」

「普段…怖がりだし、あんまり話すのも得意じゃない…振りをしてます。」

「……?」

「なんでかって言うと、昔からか弱いふりをすれば皆が優しくなるからです。」

「ひゃっ!?」


明さんの手が私の顔に添えられる、私の手よりも一回り小さい筈なのにとても存在感を感じ私の熱くなった顔を少し冷ましてくれる気持ちよさがあった。


「…なんでこんな事をするか分かりますか?」

「…ひえっそにょっ、わからないですっ!」

「……それはですね?私…欲しいものが我慢できなんです。」

「……?」

「例えどんな手を使ってでも欲しい、卑怯でも罵られてもそう、どんな手を使ってでも、昔から我慢できないんです。今でもそうなんですよ……例えば……今なら、光威さんとか」

「…へえっ!ひゃっの?!」

「静かに、ちっちゃい私にいいようにされてるのが見られても良いんですか?人生、終わっちゃいますよ?」

「……!!」


もう鼻先が当たりそうなほど近くで囁かれると体から力が抜けてぺたんと腰を落としてしまい、手もだらんとなってしまう。


わかっています、力関係が絶対の世の中でこんなだらしない所を見られたら私は力のないただの女の子…いや皆のペットにされてしまいます。


そう分かっているのに、顔も赤を通り越してもうどうなっているのか自分でも分かりません。


「ふふ…いい子ですね。」

「…………ぅ…」

「本当は最初から光威さんの事を狙っていました。だから、ね?もう近づかないなんて言わないで下さい。」

「……ひゃい……」

「ふふふありがとうございます。……じゃあ…最後に、光威さん?私に言いたいことがあったんじゃないですか?」

「……えっ!?そ、そのっ…!?」


い、今言わせるんですか!?

散々明さんの目論見と魂胆を聞かせられ、挙句に『狙っていた』なんて言われたのに、私から言わせようとしている彼女はとても嬉しそうにしていました。


それに何故か分かってしまいます、私に拒否権は無いのだと。

そして、今私が言わなければ彼女にもう二度と逆らえない、そんな関係にさせられるとはっきり分かります。

そ、それは…友人関係とは言えません!


「…その、あっ明さんと…」

「……私と?」

「ひゃんっ!?……ぅう…その……」

「どうしたんですか……?早く話さないと私が我慢できなくなっちゃいますよ……?」

「…そっその!明さんは!」

「…どうしたんです?」

「…!私が欲しいんですか!?そ、そのそれとも!私と仲良くなりたいんですか!?」

「……え?」


ぴたっと明さんの動きが止まる。


「…その、もし私の事が欲しいなら、あのだ、ダメです……まだ、その知り合ったばかりです、それに、その……」

「……あぁ、大丈夫ですよ、その、分かってますから私が女の子が好きな事が変だなんて。嫌なら、はっきり言ってください。」

「…え……?」

「……昔から気がついていましたから、それに性格が悪い事も。大丈夫です、私は欲しいものは手に入れたいです。けど、それ以上にそれで傷つくのはもっと見たくないですから、だから」

「違います、明さん」


明さんの顔が段々沈んでいく、暗く何か諦めているようなそんな顔に。


違う。それは……違う。

朝とは違う、今ならちゃんとはっきり言える。

それは間違っていると。


「…明さん、私はそんなことで明さんを嫌ったり、拒絶したりしません。」

「……え……?」

「…私は、その、友達になりたいのは本当です、でもそれはまだ会ったばかりだからです。私はその、最終的には…あの、しっしんゆぅ…とかになれたら嬉しいと思ってした。」

「……………」

「でも、でもですね、それは道のひとつで、その、えーーっと……」

「…………光威さん?」

「…ぅ〜、そのっ!つまり!私は!まだ明さんの事をよく知らないんです!」

「……えっと?」

「…わ、私が欲しいなら!ちゃんと本当の明さんの事を教えて下さい!私は、もしそれで、その明さんの事が、好き、になったら、その…明さん、に奪、われても…いいです…」

「……!」

「…だから、そんなふうに諦めないでください。ちゃんと、私は待ってます。だから、その……ま、まずは…」

「……光威さん…」


彼女はさっきまでの暗い顔ではなく何か新しい、綺麗な憑き物が落ちたようなそんな顔をしていた。

きっと私の言いたいことが伝わったのだと安心する。


「…光威さん」

「…はい……」

「ありがとうございます。そのっ…私は…確かに心のどこかで諦めていました。」


抑えきれないのだろう、ポロポロと涙を零しながら話を始めた。


「でもっ、でも!本当は諦めたくなかった事も、沢山、あります。」

「…うん」

「光威さんも本当はその中の1人でした。だけど、だけど…本当に……本当に奪ってもいいんですか!?私は…私利私欲の為にあなたが欲しいんですよ!?」

「…大丈夫だよ、私はそんな簡単な女じゃないし。それに、その、この私を好きできるなら、きっとその時は、わ…私も明さんの事が好きになってるから。」

「〜〜〜!!!」

「…そ、その……なので…まずは……とっ友達から…始めませんか……?」


私の思いを込めてちゃんと正面から伝える、きっと伝わる、きっと届く。

でも…私には受け取る準備は出来ていないから…少しだけ待って欲しい。

私に明さんの事を好きにさせて欲しい。


「…光威さん。それがさっきの質問の答えですね…?」

「…えっ…あっ、そっそうです…!」

「…よく出来ました…♪」

「ひゃんっ!あっあっあかっらむさ……ひんっ!?」


明さんは囁くと同時につーっと耳をなぞり、空いた手で私の頭を撫でてくる。

油断していた私は腰が抜けてしまいへたりこみ完全に明さんを見上げる形になってしまう。

もうこれ以上私を溶かしてどうするつもりなのだろう、すっかり溶けきった脳内でぼんやりとそんな事を考えていた。


「…ふふふ、私は(あからむ) 志星(しほ)です。これからどうかよろしくお願いします。光威…ちゃん?」

「……ぁい……」


私の砕けきった腰では立つことも手を伸ばすこともできず、ただ明さんの笑顔を眺めることしか出来なかった。



_____________



side明華


私は(あからむ) 志星(しほ)

今年春からこの國立銅頭鉄額学園高等学部に通う15歳の高校生です!


ちっちゃくても高校生です!


……なーんて可愛こぶるつもりはあんまりないです。


この世の中私のように小さい子供は真っ先にバカにされ必要とされず、当然欲しいものも得られないやりたい事もできないんです。


それが、私にはどうしても我慢できなかった。


欲しいものは手に入れたい。

やりたいことは全部やりたい。

何でもかんでも全部私の手に入れたい。


……そう思っちゃったんです。

だから私はそのための努力を怠らなかった。

なんでもやってやる、どんな卑怯でも罵られても蔑まれても絶対に辞めない。


そう決めた。


その為に可愛く見せる方法も覚えたし、この姿でか弱いふりをすればどんな人でも最初は躊躇う。

どんなに力社会でも、力なきものにその力を振るうことは無いから。


そうして、騙して手に入れて騙して手に入れて騙して騙して騙して……気がついたら、もう欲が消えていました。

もう、満足しちゃったんです。

騙す事に疲れちゃったんです。


これからは普通に弱い事を受け入れて生きていこう、そう思った矢先だった。

合格発表の日に見つけちゃったあの子、光威光ちゃん。


綺麗で可愛くて美人さん、それなのに何処か怖い雰囲気と少しバカっぽい雰囲気を持った不思議な女の子!


その時分かったの。

満足したんじゃなくて、本当に欲しいものが分かったんだって……


だから絶対手に入れるって決めて、また騙すことを決めて…


最初から全部予定通りだった。

ぶつかったのもまくし立てて時間が来るのも、席が横に来ることも全部ぜーんぶ。


でも、一つだけ想定外のことがあった、彼女は私の考えていた何倍も優しい子だった。

私の計画に引っかかったばかりにその事をずっと気にしていて。


私はぶつかられたことなんてすっかり忘れていたからびっくりしちゃって、謝られた時に思わず我慢できなくなった。


想像の何倍も何倍も欲しくなっちゃったから


無理矢理しゃがませて、耐性のない15の少女に恥ずかしい事を散々やって。


……ちょっとやりすぎたって後悔してます!


でも、彼女はこんな私におとされずにちゃんと友達になる事を選んでくれた。

私の思いも全部いつか受け止めてくれると、約束してくれた。

とっても嬉しかったです。

彼女から友達になりたがってくれたこと、本当の私を見ても友達を選んでくれたこと。


本当に…嬉しかったです。



だけど……私は満足するつもりはありませんよ?

いつか本当の私を見せきって、ちゃんとちゃーんと。


私を好きになってもらうんですから。

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