13番(後半)
私の名前は藍丈 光。
藍丈家の長女にしてこの國の礎となる刀の1人。
そして、この家の為に命を捧げ全てを当主である父に捧げるものです。
私に自由はありません、必要ありません。
……そう、思っていました。
私は藍丈家の長女として生まれ、育ち、鍛えられてきました。
その教育方針は厳しい…そんな生ぬるいものではありません。
ただひとえに死ねと言われれば死に、力を奮えと言われたら振るい、そして決して逆らうことの無い機械になるための教育。
とはいっても、今の私はほとんど覚えていません。今から語る事も…記憶の断片とお母様から聞き継いだ事を話すだけです。
この家の異常に気がついたのは7つの頃。
いつもの様に訓練という名の拷問を終え私が痛みに対して極度に恐怖を持ち始めた頃…家の隣に幸せな家族が引っ越して来ました。
その家は特に裕福でも貧乏でもない、ただ2人の両親に1人の娘という…幸せな、家族でした。
私はその家族を自室から覗き見て思いました。
私にとっての母とは誰なのだろう、と。
訓練の為に居る叔父や叔母。また家事をするお使いの人、そして当主の父…母という存在を私はこの時まで知らなかった。
その日の夜、父の自室でいつもの様に…お母様は教えてくれませんでしたが、何か酷いことをされていたそうです。
その時に聞いたのです。
「私にとっての母とは誰なのでしょうか。」
と、ここの瞬間は私の唯一覚えている記憶です。
激昂した父が殴り掛かり私を痛めつけ首をしめ……最後に言うのです。
「お前は私のモノだ。あの女などにはやらない、ただ私の言うことだけを聞け」
……と。
その日から、父が急に怖くなりました。しかし怖がろうものなら殴られ絞められ、最後にまた同じように「私のモノ」と言ってくるのです。
頭がどうにかなりそうでした、いえどうにかなっていたのでしょうね。その記憶を捨ててしまう程には。
こうして、私は怯えることも許されない。ただ力だけをもった人形となりました……おしまい。
……なんて、そうなっていれば、もう少しマシだったかも知れませんね。
残念ながら怯えた私は、屋敷から抜け出すようになりました。
子供にとって…それだけ怖かったのでしょうね。
そして、向かった先は隣の家の前でした。
母とは、家族とはどんなものなのだろう……と。
その家の前では1人の女の子が立っていました。その家の娘……私より5つ上の女の子でした。
「どっどうしたの!?大丈夫!?」
……私はなんと言えばいいか分かりませんでした。
話したことがなかったから。
どうすればいいかも、そもそも、何を心配しているのかも。
「…!よくわかんないけど!困ってるのは分かった!おねーちゃんが助けてあげよう!」
「…………え」
そう言われた私は手を引かれてその家の中に入ることが出来ました。
……入ってしまいました、取り返しのつかないことを……してしまいました。
「おかーさん!見てこの子外で立ってたの、バンソーコーとかあったっけー?」
その子は私の怪我を手当してくれ、近づく大人に怯える私を抱きしめて、言ってくれた。
「もう大丈夫だよ」
…って。
この日私は生まれて初めて、痛み以外で涙が出ることを知った。
ボロボロと拭くことも止めることもせずこぼれる涙に困惑しながら…抱きしめてくれたお姉ちゃんを抱き締め返していた。
こうして、わたしは一日の訓練が終わるとお姉ちゃんに逢いに行くようになった。
毎日、毎日毎日。
色んな遊びを教えて貰って、色んな服を着せてもらって…幸せってこういうことを言うんだっ…て知ることが出来た。
…………それに父が気が付かないはずが無いのに。
その家の人が全員消えてしまったのは、初めて会いに行ってから2年後。
私の9歳の誕生日だった。
家に行ってインターホンを押しても誰もでず、鍵もかかっていなくて、中に入ると。
変わらない家具に、お母さんがいつも立ってるキッチンに、お父さんがいつもくつろいでるソファーに、お姉ちゃんが、いつも、私を撫でてくれる、一緒に座ってくれる椅子に。
リビングの真ん中に。
大量の血と父が1人、そこに立ってた。
「お前が悪いんだよ、ひかり…お前は私の娘だ。そして藍丈家の娘だろう?こんな家族ごっこをしている暇も無い。そして……お前は私のモノだ。私だけを見ていればいい…分かるね?」
その後のことはひとつも思い出せないし、お母様も教えてくれなかった。
何か……あった、らしい。
逃げ出して雨の中倒れていたところをお母様に拾って貰うまで。
その時私は血まみれで何かうわ言を呟いてた…とか……もう、何も思い出せなかった。
こうして、私に残ったのは力だけだった。
ポイント…くだ……モチベを……お願いしゃす……