11番
11番
「っ!!ダメよ!飛び込んだら!」
私の姿を見て暫く混乱したのでしょう、雑兵共がまとめてかかってきます。
いいんですか?こんな狭い教室で…同時に来るなんて。
「ぐっ!」
「ぬおっ!?」
当然、何人かがお互いに邪魔し合うことになるでしょうね。そんな隙…逃すわけがないです。
「………っ!」
「ぐぉっ!?」
「一撃だと!?」
……居合…猫跨ぎ……やっぱり素晴らしいネーミングセンスですねお母様!
教室の床を思い切り踏みしめ教室の端まで飛ぶように居合を放つ。
首。
首をよこしなさい。
この空間では急所判定をしっかり吸ってくれる。
首を斬ればそれだけで終わる。
刃こぼれもない血糊もない。
まさに理想の状況!
「そっちよ!遠距離持ちは今すぐひいてっ……!?」
今の私には少しの距離なんて関係ない。この四隅の部屋の壁は味方!
思い切り壁を蹴り跳ねる、跳ねる、撫でるように道の途中に居る物を切っていく。
「……歩法猫脚……」
「……!?嘘でしょ!?早すぎるわよちょっと!第一第二!全員壁際に行きなさい!」
流石に私をはめただけあって……いえ、私がちょろいんじゃないです。彼女が優秀なのです。
はめただけあって直ぐに私の作戦というか戦い方に気がついた。
筋肉達を壁際に寄らせ中央にスペースを開け、私の足場を奪っていく。
嫌なことしてきますね……
「今よ!第三!3人ずつ掛かりなさい!」
「……むっ……」
……本当に嫌なことしてきますね……なんで直ぐに私の剣術の基本がバレるんで……
「彼女簡単よ!顔に全部作戦が出てる!あんた達もよく見なさい!」
……おかしいです。これでもポーカーフェイスを極めていると自負してたのですが……
でも、私は止められませんよ。
この剣術を平野で使える様に改良するのに2年もかけたんですから!
私はぐっと脚に力を込め飛ぶ……様に見せかけた。
足に込めた力は前に!下に!
飛び上がると思い込んだ男達は武器を透かして降っている……が1人。しっかり見てますね。
まずはあなたからです。
「……歩法猫搔……」
飛び回るのでは無く地を這う様にかけてゆく、するりするりと足元股座全てを避けていく。
私が下に行くことを予想していた3人のうちの1人は当然下にその大槌を叩きつけてきますが、そんなもの当たるわけありません!
するりと避け股下を通り抜け……すれ違いざまに下から股を打ち上げておきます。峰打ちです。
「ぐおおおおおおお!??!???」
「……よし!」
「うわっ……」
「えぇ……ないわ……」
「ガチの急所狙いかよ……」
おお…完全に倒れ伏してる……そんなに痛いんですか?
そこの筋肉達!引かないでください!次はあなたたちですよ!
残った2人も今切ってあげますからね!
その2人の大振りな武器は当たるはずもなく、周りからくる小ぶりな武器なら真正面からたたき落とす。
まさに理論上は!
「……無敵!」
「ええい!物量!波状攻撃よ!第三!第二!行きなさい!」
「……ぐぬ」
……本当に嫌なことしかしないですね……
押し寄せる筋肉共を避けつつ下がります。
こいつら無駄にHPが高いせいで急所意外だと斬れません!
……んっ!?しまった!?
波状攻撃だと思い込み真正面の敵を切り伏せようとした瞬間後ろの筋肉が襲いかかってくる。ブラフでしたか!
無造作に後ろに刀を振るも意味はなくこのままでは挟まれる……!
波状攻撃だけでも嫌なのに後ろからの奇襲付きですか!
「とった!」
しかもお付の子が弓を引いてますね!?あああ!流石にどうしようもない!
くっ……仕方ありません!力を借りますお母様!
これは、このシステムができるまで決して日の目を見なかったであろう剣術。
真剣でしか意味が無いが真剣では使えない矛盾した多対一剣術……お母様らしいですよ…ほんと……
光威流……魅せてあげましょう!
「……光威流猫火鉢……」
飛び回る。
まさにこの表現が一番正しいと思います。
飛ぶと同時に後ろの筋肉の首をなで斬りに、そのままそいつを土台に跳躍を開始する。
壁、天井、床、壁、筋肉、天井……着いてこれますか!このスピードに!
「……火鉢・灰均」
「……くそっ!あんないちいち技名呟いてるような奴に負けたくないわ!」
「ダメです彩さん!今飛び込んだら思う壷ですよ!」
……技名は……言うものなんじゃ……?
しかしなんやかんやでもう人がだいぶ減ってきましたよ。
急所を蹴られた筋肉が多数。首を斬られた筋肉と女の子が数名。
残るは精鋭筋肉とキングとお付のメガネっ子!
「……覚悟!」
「嫌よ!筋肉!一体一!」
「了解!」
「!?」
こ、ここで一体一!?残った人全員をぶつけるとかやけになってくださいよ!
「うおおおおおお!」
「……っ!」
くっ!お互いに避け合いになる!
私の剣はつまるところ不意打ち、一体一の状況では使いずらいことありません。
しか、もっ!
「っづ!」
「よし!当たった!」
当たってません!掠っただけです!
なんと言っても矢が飛んできます!
さっきまでは筋肉に当たるのを恐れたのか打ってこなかったんでしょう。減ってきてからバカスカ打ってきます!
わあ髪が!
「今よ!囲い込みなさい!向かってきたら1人で立ち向かって各個撃破!」
「「「イエッマアアアム!」」」
「くぅっ!」
動きずらい!
逃げられる場所がどんどん減っていき、矢の精度も上がっていきます。
「…ね、猫搔!」
「させるか!」
「きゃんっ!?」
しかも!なんでか分かりませんが私の次に出す技に合わせて攻撃してきます!
「やれるわ!この子馬鹿よ!」
「うおおおおおおお!」
「くぅ……」
むっ!油断しましたね!
トドメを刺そうとした筋肉の体を壁にして蹴り下ろします!これでも倒れませんか!
しかしこれで後ろに回れました、これなら!
「……ていっ」
「ぐああああああああああああ!??!???」
「よし!」
あと5人!
即座に斬りかかってくる筋肉の攻撃を股座を抑えてるやつを踏み台にして飛び避けます。
あっ股ぐら筋肉が味方の攻撃で……
やばいっ!?
「……ぐぅっ……!」
「直撃!今です!」
逃げ場が完全に読まれてました……!いっ……たい……しかもよりにもよって右足に……
「……っ!甘いです!」
それでもまだ左足も地の利もこちらにあります!
「猫火ばちぃ!?ああっ……うぅう……!」
襲ってくる筋肉の中の1人を斬った所で全く違う痛みが走ります、これは……
「本命の登場ってね!」
敵のキング!ショートさん!
使う武器は槍!脇腹を掠めただけで良かったです。
残り4人!
「……づっ……う……!猫火鉢・銅壺!」
「ぐぉっ!?」
痛む右足を無理矢理動かし力押しの形にして目の前の筋肉の首に刀を刺しこみます。
残り3……!?
刀が抜けない!?
そんな!?この空間でそんな再現が起きるんですか!?
……あ゛っ!
「ぐう…あっ……」
「……直撃。終わりです!」
にほん……め…………おなか……に……
ぅぅぅ痛い……痛、うう……あ……貫通……してな……
私のHPゲージは……もうほぼ残りなし……
「これで終わりよ…とんでもないバケモノね……」
……槍が振りかぶられて……あ……まけ……
「私たちの……!」
……ごめ…………なさ…………
「負けることは許されない。お前は藍丈家の娘だろう」
「…っうあああ!?頭…頭がっ……!」
「勝ち……!?」
「そこまでよ?」
ギィン!と弾けるような鉄と鉄を打ち付ける音が聞こえる。
この声は、
「……あ……し…じょ……さ……」
「!?兵がいたのですか!?させません!」
「それもこっちのセリフです……」
メガネっ子が弓でトドメを刺そうとした瞬間彼女の体がふっと浮き、首がつられた形になる。と、思った時には胸からナイフの様な……クナイですね……2度ほど刺して完全にHPバーを削りきります。
この声は……
「……あ…から……さっ…げほっ……」
紫条さんと明さんが私の兵として現れていました。
私は王冠には誰も登録してないはずなのに……!?
「……な…んで……」
「ああもう!やっぱりこんなに無茶して!もう喋らないでください!本体のダメージはそのままなんですよ!?」
「……ごめっ……な……」
「喋らない!」
…………そっか……私の…………考えなんて…………読まれ……ちゃうよね………………
安心感と痛みが襲ってくる。
痛みから逃れるためか…急に頭の中にひびき出した声から逃げるためか…私はそのまま眠りに落ちた____
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「……くっやってくれるね!まさか最後の最後に不意打ちなんてね!流石に想像してなかったよ!」
「そもそもこの状況になることすら想像してなかったでしょう?」
「そうっ!だよ!」
「効かないですわ」
槍を打ち込むも全て弾かれてしまう、キングの子とは全く……いや真逆の剣術。
まさに防御の完全系を体現している剣術だった。
「…紫条さんだっけ?」
「あら、ご存知で?」
「そりゃ!っ!紫条財閥をっ!知らない人はっ!ほとんどいないよっ!」
踏み込みから最速の打ち込みをしてみるも当然のように弾かれる……しかも全て同じ方向に。
振りも突きも……だめか……これは……
勝てない、な…しかも……
「……っ!分かっててやってる?」
「なんのことですの?」
「とぼけっ!ちゃって!」
勝てないのをわかった上で……!手加減してる……!
なんで?なんでこんなことを……
「理由にっ!心当たりが多すぎる!ふっ!」
「それは良かったわ、もし分からないなら明さんに相手させてたわよ!」
「ははっ!やっぱり怖いんだあの子!」
お互いの剣戟が激しくなってくる。
私も釣られるようにいつもより実力が出せている、がそれも全て弾かれてしまう。
……っ!下手したらキングの子より強い!
「安心なさい!私は少ししか怒ってないわ!」
「怒ってる!じゃっ!無いか!」
「ひとつっ!」
「ぐぅっ!」
ガードの上から弾き飛ばされた……!単純な膂力が全く違う!
「貴方が!こんな馬鹿な子を騙して責任を押し付けたこと!」
「くっ!ふっ!」
「ふたつっ!」
「…かはっ!」
しかも…!上手い!小手先だけじゃない!全てが次の動作に繋がってる…!
間違いない……この子、キングより強い!
「あなたのせいで!こんな無茶な作戦で!光威さんが大怪我を負うほど責任を感じさせたことっ!」
「ぐっ……ああっ!」
……っっっ!腕を……!切られた……!
「ぐううう…!」
「ふぅ……最後は……はいはい、任せるわよ…」
……ははっ……私の1番の間違いが分かったよ……
「…最後はですね、里崎さん。」
「………成程………」
「私のモノを…利用して……手を出したことです……」
「………これは……怖いね…………」
するりと首の周りに糸が絡まってくるのが分かる。ああ……寄りにもよってトドメがこれか…くそ……
私達の……まけ……