8 修学旅行
第8話が完成しました。
修学旅行当日、私達は新幹線で広島まで行き平和公園と原爆資料館へ行った後、宮島口へとやって来ました。
「こっからフェリーなんだね」
「この先は一般車は入れないんじゃないかな」
久美と二人で話していると瑞稀の様子が変です。
「瑞稀、どうかしたの?」
「うん、ちょっと気持ち悪くて……」
「え! 酔っちゃった?」
「うん、バスもだけれど…… 資料館で」
「あ、なるほど、かなりリアルだったもんね」
「でもさ、昔あんな事があったことが信じられないよね……」
「うん…… そうだね」
私は気分を変えようと思い瑞稀を船室の外へ誘いました。
「瑞稀、甲板に行こうか少しは楽になるよ」
私と瑞稀が一緒に甲板に出ると潮風が心地よくとても気持ちがいいです。
「飛鳥、あそこに見えてるの鳥居だよね」
島の方向を指差しながら久美も出て来ました。
「うん、こんな遠くから見えるということは結構大きいんだね」
「うん、ところで玲奈は?」
「船室に匠君といるよ」
「相変わらず仲がいいのね」
「ねえ!」
私達は三人で意味深な顔をして笑った。
「ねえ、ここで合格祈願するんだよね」
「久美は気合入ってるね」
「そうかな、でも水族館とかも行きたいんだよね」
「確か自由時間長かったよね」
「でも私は紅葉谷とかも行ってみたいんだよね」
「紅葉谷って?」
「上杉先生の話だと厳島神社の裏の山手の方に行くと楓の木が沢山あってその辺りを紅葉谷っていうらしいんだけど……」
「なんか頼りないな」
「ても、その先にロープウェイとかもあるんだよ」
「それって行ってみたいね! ところで上杉先生って誰?」
「あ! そうか知らないよね、私の主治医だよ」
「GIDの?」
「うん」
そう話している間にフェリーは宮島に到着し、私達は荷物を預けるためにお土産屋さん街を素通りしてホテルへ向かいました。
荷物を預けた後、私達が一番に行ったのが厳島神社です。ここで私達は高校受験の合格祈願をしました。
「朱色に塗られたお社が綺麗だね」
「ここって夜はライトアップされるんだって」
「本当に! 見てみたいね」
「食事の後行ってみようよ」
私達が話をしているとき、匠君と玲奈が鳥居の傍で呼んでるのが見えます。私達も手を振りながら匠君達の傍まで行きました。
「この鳥居ってやっぱり大きいね」
「フェリーで来るとき結構遠くから見えたもんね」
「飛鳥、それより紅葉谷行くんじゃなかったっけ」
「あ! 水族館も、忘れてた」
「でも、そろそろ時間だからホテルに戻らないと入浴時間が短くなるよ」
「えーっ、もうそんな時間なんだ」
久美はちょっと楽しみにしていたみたいでしたが入浴時間が短くなるのは女子としては困るので急いでホテルへ戻りました。
「はい、六時から一階の桜の間で夕食ですからね」
私は急いで部屋へ戻ろうとしたときでした。
「今村さん!」
私を呼び止める声がしたようでしたけど…… あっ、担任の野島先生です。
「はい」
「石川先生の部屋のお風呂を使っていいそうだから」
「はい、有難うございます」
私は返事をしたあと、部屋へ着替えとお風呂セットを取りに行き、石川先生の部屋へお風呂を借りに行きました。
私も本当は大浴場に入りたかったなと思いながら湯船に浸かっていましたが先生の部屋ということもあってあまりゆっくり出来ませんでした。なんか監視されてるみたいで……
「先生、有難うございました」
先生は部屋でテレビを見ていました。
「あら、もういいの?」
「はい」
先生はそう言いながら私のことをジッと見つめています。
「先生、なんですか?」
私が不審そうに尋ねると先生は「こうやって見てると普通の女の子だよね」
そう言われましたけど…… 今の私はTシャツとジャージのズボンを履いてます。
「先生、そう言ってもらうと私も嬉しいです」
「やっぱりそうよね」
「はい」
「それじゃ、食事まで時間があるから部屋でのんびりしてなさい」
「はい」
私は先生の部屋を出たあと一度部屋に戻り、すぐに一階の売店へ行きました。どうせ部屋にいても誰もいないし……
「飛鳥!」
匠君が私のところに来ました。
「あれ、玲奈は?」
「まだ風呂じゃないか、ところでなにしてんだ」
「みんなが来るまでお土産とかを見てただけ」
「なんか良さそうなのあったか?」
「うーん、もみじ饅頭の種類がいろいろあってなんか美味しそうだね」
夕食前の私にはなんでも美味しそうに見えてしまいます。
「飛鳥!」
今度は瑞稀達がやって来た。
「飛鳥、お風呂早くない?」
「だって、部屋に先生がいると思ったらゆっくり出来なくて……」
「そうか」
「ねえ、お土産買ったの?」
「ううん、みんなが戻って来るまで見てただけ」
「おい玲奈、五重塔のライトアップが綺麗だよ」
「本当に?」
私達も玲奈と一緒にホテルの外へ出ました。
「わあー、本当、綺麗だね」
「もう少し暗くなればいい感じになるんじゃない」
私達はしばらくその景色に見惚れていた。
「ほら、あなた達夕食の時間だから早く桜の間へ行きなさい」
私達は仕方なくホテルへ戻りましたが先生はこの綺麗な景色は目に入らないのかな…… こんなに良い感じなのにと思いました。
夕食をおえた私達は九時の消灯時間までは自由時間なのでお社や五重塔が綺麗に見える場所へ行きました。そこには幻想的というか言葉にならない景色がありました。海面に浮かぶお社がライトアップで少しぼやけて見えて私達五人は誰ひとり微動だにせず時間を忘れてその場に佇んでいました。しかし、その沈黙を破り玲奈が言った。
「ねえ、みんなで写真撮らない」
「いいね、厳島神社をバックに」
「えーっ、やっぱりそこは鳥居じゃない?」
「どうでもいいけど綺麗に写るかな?」
たぶん、私達にピントが合えばバックは暗くなり神社も鳥居も綺麗には写らないだろう……
「あとでLINE頂戴ね」
その後ホテルに戻った私達だったが、もうすぐ九時なので消灯を告げられた。しかし、この時間に消灯などありえない。電気は消したけど眠れる訳もなく、しかも友達と一緒なのだから自然と騒いでしまいます。
「こら! さっさと寝なさい」
案の定怒られてしまった。しかし、先生が部屋の中まで入って来た訳では無いのでまだセーフだろう。
「ねえ久美、数学のここ教えてくれない」
「飛鳥、教科書持って来たの?」
「教科書じゃないよ、参考書」
「どっちも変わらないでしょう」
そして、暗がりの中ベッドの脇にある灯を頼りに勉強会が始まりました。部屋の外では偶に先生達の注意する声が聞こえますが、私達はお構いなしに勉強を続けました。一度だけ「ガチャ」と音がしたのでベッド脇の灯りを消して毛布を被りました。先生が見回りで部屋へ入って来たのです。オートロックのはずなのに先生は合鍵を持っていたみたいです。その後も勉強をしましたが深夜一時くらいにはみんな眠ってしまいました。
翌朝、朝食の後は各自フロントに荷物を預けて十一時まで自由時間になります。私と久美は八時前に朝食を食べに行きました。
「飛鳥、ここで食べようか」
私と久美が最初に席に着いた後バイキング形式の朝食を見に行きました。そこには和食のお味噌汁や焼き魚、冷奴などがあります。反対側にはパンやスクランブルエッグ、ソーセージ、サラダなど種類が豊富でどれを食べようか迷ってしまいます。
「飛鳥はどうするの?」
「私はパンにしょうかなスクランブルエッグやベーコンが美味しそう」
「じゃあ私も」
二人でテーブルに戻ると瑞稀が来ていました。
「あれ、玲奈は?」
私が尋ねると瑞稀は指を刺して言いました。
「あそこ!」
その先には匠君と二人並んで朝食を食べてる幸せそうな玲奈がいました。私達はそっと近付いて……
「おはよう、一緒に食べよう」
そう言って二人の邪魔をしに行きました。匠君は顔を少し赤らめ、玲奈は少し嫌な顔をして……「もう、隣のテーブルとか空いてるじゃん」
そう批判的でしたが、匠君は……
「みんなで食べた方が美味しいよ」
ちょっとホッとしたようにそう言ってくれたので私達三人はお言葉に甘える事にした。すると松野や梅崎までもやって来た。
「俺たちもお邪魔しまーす」
狭いテーブルが益々賑やかなテーブルになりましたけど、玲奈はちょっと残念そうでした。
朝食のあと、フロントに荷物を預けた私達は昨日行けなかった紅葉谷へ行きました。そこには青々とした楓が沢山あります。
「秋にここに来たらかなり綺麗だよね」
その時、ガサガサと音がしてちょっと驚きました。
「なに、なんの音?」
「あ! あれだ」
そこには野生の鹿がいました。
「きゃ、可愛い」
玲奈は近寄って触っています。
「玲奈、危ないって」
「大丈夫だよ」
「わあ、本当おとなしいね」
宮島には野生の鹿がどこにでもいます。観光地だから鹿も人に慣れているのかな……
「ねえ、飛鳥が言ってたロープウェイってあれだよね」
「うん、山頂まで行けるって聞いたけど」
「ねえ、乗ってみようか」
久美がそういうので私達はロープウェイの駅まで行きました。
「うあー凄い、本当に山頂まで行けるんだ」
「でも、所要時間とか考えると自由時間無くなっちゃうよ。お土産とかも買いたいし」
「おい、久美、ロープウェイの料金結構するぞ」
匠君が料金表を見ながら言いました。確かに中学生の私達にはちょっとした金額でした。
「しょうがない、諦めよう」
久美の本音は山頂まで行きたかったんだろうけど……
私達は荷物を取りにホテルへ戻りお土産屋さん街へ行きました。
「飛鳥そんなに買うの?」
「うん、家の分と上杉先生の分」
「へぇー、先生にも買うんだ」
「だって、いつもお世話になってるし、餞別もらったしね」
久美は餞別をもらったことは羨ましそうでした。
「飛鳥、荷物になるんじゃない?」
「大丈夫、送るから」
「あ! なるほどね」
お土産を買った後はフェリーで宮島口へ戻り昼食を食べて尾道へ向かいます。
尾道では最初に美術館へ行き、夜は少しだけ勉強会をやり、次の日はしまなみ海道を自転車でサイクリングを楽しみました。昼食後私達は最終目的地である島根県の出雲大社に向かいます。ここは玲奈が楽しみにしていた場所です。出雲大社は出雲市大社町という所にあってここはひとつのまちになっている門前町です。一般的には十月は旧暦で神無月と言って神様がいない月を表しますが、ここ出雲大社では十月に全国の八百万の神様が集う場所ということで神在月と言うらしい。
「あの二人何をお願いするのかな?」
「お願いする事無いんじゃない」
瑞稀も久美も言いたい放題だ。
「はいはい、邪魔しちゃ駄目よ」
出雲大社では私と瑞稀と久美の三人で見て周りました。
「あのしめ縄凄く大きいね」
「わあー本当だ。瑞稀のウエストくらいあるんじゃない」
「失礼ね、私あんなに太く無いわよ」
「あれって、どうやって作ったのかな?」
「それもだけどどうやって飾ったの?」
そんな疑問を持ちながら私達は受験合格のお願いをした。その後私達は出雲で一泊したあと翌日バスで宍道湖などを見た後、広島まで戻り新幹線で帰って来ました。
「飛鳥お帰り」
「お母さん、お土産届いてる?」
「届いているけど沢山買ったのね」
「あ、こっちは上杉先生の分」
「あんた、先生からいくら貰ったの?」
「えっ!」
私は、やばいと思いました。
「ちょっと届けて来るね」
そう言ってクリニックへ避難することにしました。
「先生、こんにちは!」
「あら、いらっしゃい」
「先生、お土産」
「あ! ありがとう。こんなに沢山買ったの」
「はい」
「秀一さん、飛鳥さん来てるよ」
上杉先生がリビングにやって来ました。
「やあ、いらっしゃい。沢山買って来たんだね」
「飛鳥さんありがとう。ところで勉強は?」
「ちゃんとやってますよ。旅行中も参考書とか見てたし、でも今日は疲れたから明日また来ます」
そう言って私はクリニックを後にしました。
次回はいよいよ高校受験です。果たして志望校に合格出来るでしょうか?