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憧れのスカート  作者: 赤坂秀一
第二章 受験
7/52

7 夏休み

今回から第二章になります。

 中学三年生夏休み直前、普段なら海だ、山だ、キャンプだと遊びたい気分ですが、今年ばかりは遊ぶ訳にはいかない。受験なのだ。私と瑞稀は城南高校、久美、玲奈、匠の三人は聖華高校(せいかこうこう)を受験します。瑞稀は塾に行ってるみたいだけど私は上杉先生の紹介で美彩(みさ)先生に英語を教えてもらえるということなので今日からお世話になります。

「こんにちは」

「来たわね。さあ、入って」

 美彩先生は笑顔で迎えてくれました。

「まずはこの問題集をやってみて」

 私は与えられた問題集に取り掛かりました。さほど難しくはなかったけど美彩先生からはかなり指摘を受けました。考え方の違いなのかもしれないけど私は自分なりに難しく考え過ぎてたのかもしれません。でも美彩先生のお陰でなんとなく英語を理解出来たような気がしました。

「どうだった? 少しは考え方が変わったかな」

「はい、なんだか英語が好きになれた気がします」

「英語嫌いだったの?」

「あ、はい…… あまり好きじゃなかったかな」

「どうして?」

「英語はbe動詞のあたりから理解出来なくて…… 英語の先生もあまり好きじゃなくて……」

 美彩先生は笑みを浮かべながら「そういうことってあるよね。でも英語を覚えることで日本人だけではなく外国の人との交流が出来るの! それって凄いと思わない?」

「はい」

「まあ、少しずつ理解していこう」

 その時上杉先生が帰って来ました。

「お、やってるね」

「お邪魔してます」

「あれ、もう終わったの?」

「はい」

「あ、そう」

 そう言うと上杉先生は奥の部屋へ行ってしまいました。

「最近いつもああなのよ」

「なにかあったんですか?」

「よく解んない。偶にあんな風になるのよ」

 美彩先生は両手を広げ首を横に振って苦笑いでした。

「飛鳥さん大学とか考えているの?」

「はい、北山大学に行きたいと思っているんですけど……」

「北山か…… 他は受けないの?」

「医学部のある大学ってこの近くにありますか?」

「医学部志望なの?」

「はい」

 美彩先生は笑みを浮かべて言いました。

「隣の橋本市に橋本大学があるわよ」

「橋本大学ですか」

「そう、ちなみに私の母校なの。私立の学校だけどね」

「私立か……」

 私は俯きながら呟きました。

「どうかしたの?」

「私立の学費は高額なんですよね、私はただでさえ医療費が掛かっているから……」

「うーん、それなら地域医療推薦枠があるわよ」

「なんですか、それ?」

「飛鳥さんも知ってるように医学部の学費は高額でしょ! だから一般の人達でも医学部に入れるように大学や県が六年間の学費を条件付きで肩代わりしてくれる制度よ。地域や大学によって少し異なるけどね」

「条件付って?」

「大学を卒業したら二年以内に医師免許を必ず取得すること、それと大学が指定する病院へ赴任しなければいけないの」

「それじゃ希望の病院には行けないんですか」

「そうね、でも考え方によっては就職が約束されている訳だからね。大学を卒業してもそのまま大学病院に残って研修するひとが多いんだけど、だからといって希望の診療科に行けるか分からないのよ。私は外科志望だったんだけど地域医療枠を使ってたから医療センターの小児内科に赴任することになったの。山間部の外科医の話もあったんだけど……」

 私はそれを聞いて医師になっても希望する精神科医になれないのかもしれないとちょっと残念に思いました。

「それはずっとそこの病院にいなければいけないんですか?」

「そんなことないわよ、ただ六年間学費を肩代わりしてもらった場合九年間はそこで医療をしなければならないの。ひょっとして幻滅しちゃった?」

「いえ、そんなことはないですけど……」

「大丈夫だよ。ほとんどの総合病院は大抵大学病院と何らかの繋がりがあるから第一志望をしっかりアピールしておけば九年間の間に研修させてもらえるから」

 いつの間にか上杉先生はリビングに戻っていました。

「いつ戻って来たの」

「つい、さっきだけど……」

「ふーん、そう」

「それより夕飯は?」

「ダイニングにあるでしょう」

 なんだか美彩先生の機嫌が悪くなったような……

「先生、今日はこれで失礼します。有り難うございました」

「あら、もう帰るの」

「はい」

「それじゃまたね」

 私はクリニックを出たあといろいろ考えました。医師になったあとも思い通りにならないことがあるんだと…… 美彩先生には言えなかったけどやっぱり少し幻滅したかな……


 夏休み、ひとりで勉強してもつまらないので偶に瑞稀達と勉強しました。

「玲奈! こっち」

 玲奈はひとりで図書館にやって来ました。

「あれ、匠君は?」

「先に行っててだって……」

「そう、それじゃ先にはじめようか、何からやる?」

「それじゃ英語からやろうか、瑞稀得意でしょう」

 私は瑞稀の恩恵を受けようと提案しました。

「なに飛鳥、英語苦手でしょう」

「うん、だから瑞稀に教えてもらいたいんじゃん」

「…… なるほど」

 瑞稀は溜息を吐きながら私を見ています。

「どこが分からないの?」

 問題集を見て教えてくれるようです。

「悪い、遅くなった」

「匠君、何やってたの」

「これを買いに行ってたんだ」

 匠君のバックの中には参考書が入っていた。

「これって今評判のやつじゃん」

「瑞稀は知ってるの?」

「うん、塾に来てる人も持ってる人が多いよ」

 参考書ってみんな同じじゃないのかな?

「これってさ、かなり詳しく解説されているんだよ」

 私達は問題集と匠君の参考書で勉強しました。

「飛鳥、少しは英語良くなったんじゃない」

「そうかな?」

 私は美彩先生に教えてもらっていることは内緒にしています。だってちょっと恥ずかしいから……

「文章問題とか苦手だったでしょう。ひょっとして塾に行き始めたとか」

「まあ、そんなとこかな」

「なるほどね…… 飛鳥もとうとう塾に行ったか」


 私達は昼前まで勉強してその後お昼ご飯を食べに行くことにした。

「何食べる?」

「私パスタがいいな」

「玲奈、それじゃ匠君足りないんじゃない」

「俺なら大丈夫だよ。そんなに腹減ってないし」

「大丈夫なんだって」

 匠君はいつも玲奈に合わせているのかな? そう思うとなんとなく愛おしくなりました。

「飛鳥はパスタでいいの?」

「うん、私はなんでもいいよ」

「ところで、久美は昼から来るんだっけ」

 瑞稀が笑顔で訊きます。

「うん、そうだと思うけどなんで?」

「数学の解らないとこがあってさ、久美は数学得意じゃん」

 そうだ、久美は私達の中では数学が一番得意だよね。瑞稀は英語だし玲奈は社会、特に歴史は凄い。匠君は国語だよね…… 私は理科が得意かな、こう考えると私達五人はそれぞれ得意科目が違うから一緒に勉強するととても便利だ。

「ねえ、出雲大社ってなんの神様だっけ」

 いきなり玲奈が訊いて来た。そういえば修学旅行で行く場所だ。

「玲奈や匠君には大切な神様だよ」

「えっ、それってなに?」

「縁結びの神様だよ」

「そうなの? でも私達はもう結ばれてるけど、ねえ匠」

「え! うん……」

 匠君は顔を赤くして無言のままだった。

「玲奈、見せつけなくていいから」

 まったくです!


 私達が食事を終えて図書館に戻ると久美が来ていた。

「おーい、久美」

 久美が私達に気づき手を振って応えた。

「ごめんね、やっと塾が終わったから」

「塾に行ってたんだ」

「うん、私は国語と英語が苦手だから特に英語はチンプンカンプンだしね」

「私と同じだね」

 私がそう言うと久美が徐に(おもむろ)訊いて来た。

「ところで飛鳥は修学旅行どうするの?」

「どうするって行くよ同じ部屋じゃん」

「いや、そうじゃなくてお風呂とか…… 流石に一緒という訳にはいかないでしょう」

「そうだね、私達だけならいいけど他の人達もいるからね、それに飛鳥だって気になるだろうし」

「でも、それは先生の部屋のお風呂を使わせてもらえることになったから」

「やっぱりそうだよね、いくらなんでも男子と一緒という訳にいかないしね」

 久美は私の胸を見ながら言った。私はホルモン療法を始めてから嬉しいことに胸がほんの少しだけ大きくなった。しかし、胸が大きくならなくても男子と一緒なのは嫌だけど……

「やっぱりホルモン療法をやればおっぱい大きくなるの?」

「そこまで大きくはならないよ。私もまだ三ヶ月くらいしかやってないけど精々大きくなってもAカップくらいかな」

「そうなんだね」

「なあ、そういう話は俺がいない時にしてくんねか」

 匠君は照れ臭そうにちょっと顔を赤くしていた。

「本当は気になるくせに」

「そんなことねえよ」

「匠君は玲奈だけで充分だよね私達の中では玲奈のおっぱいが一番大きいしね」

 こうなってしまうと匠君には悪いけど女子に囲まれている訳だから勝ち目は無いのだ。

「もう、ちょっとやめてよ! 私そんなに大きくないよ」

 玲奈は顔を赤くして私達の発言を否定した。でも、そんなにムキにならなくても……

 その後私達は三時過ぎまで図書館で勉強して解散した。


 私は大学病院へ女性ホルモンの注射を受けに行きました。まずは修学旅行の前に一度行っておきたかったからです。

「あれ、飛鳥君今週はちょっと早くない?」

「はい、明後日から修学旅行なのでちょっと早いですけど」

「そうなんだ何処に行くの?」

「広島の宮島に行って尾道、そして島根の出雲大社です」

「いいね、もみじ饅頭買って来てよ」

「いいですよ」

 すると先生は机の中から鞄を取り出し何か探しています。

「それじゃ、これ餞別ね」

「いいですよそんなの」

「お土産買って来て貰うんだからいいよ」

「あ、有り難うございます」

「楽しんで来てね」

「はい」

 私はその後、北条クリニックでもお小遣いを貰いました。

「美彩先生、上杉先生から貰っているからいいですよ」

「秀一さんが出しているんだから私だって出すわよ」

 なんか理由になってないと思うけどいいかな……

「それじゃ豪勢なお土産を買って来ますね」

 そう言って私は美彩先生の監視のもと試験勉強に取り掛かった。


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