5 中学校は大変
お待たせしました。第五話です。飛鳥は中学生になり大変なことに巻き込まれました。
中学生になった私はやっとセーラー服を着ることを中学校から特別に許可してもらいました。これで安心して入学式に望めます。だって学生服なんて絶対に無いからです。でもお陰さまでなんとか今までどおりみんなと楽しい学校生活を送るはずでした。しかし、私達の中学校は今、大変なことが起きていました。それはいじめと恐喝です。私達のクラスでも恐喝している者と恐喝されている者がいるようです。私達には今のところ危害は無いのですが同じクラスの松野と梅崎はいつも何かと揉めているのです。
「梅崎、今日は持って来たんだろうな」
「無理だよ。何度も言っているだろう」
「それじゃ困るんだよ、おまえだって分かってるだろう」
いつもの如くあの二人はまた揉めています。
「どうしたんだよ」
匠君が話しかけたときは二人から怒鳴るように「なんでもないよ!」と言われた。
「なんだよあいつら」
匠君は不満そうに二人を見ていますが、そのあと何事も無かったように授業が行われました。しかし、昼休みに三年生が私達のクラスにやって来ました。
「おい、松野を呼んでくれ」
松野は三年生と一緒に廊下へ出て行きました。それを見ていた梅崎も廊下へ出て行きました。
「あの二人なんか変だよね」
久美がそう言ったときでした。
「松野! いい加減にしろよ! いつまで待たせるつもりだ」
大声で怒鳴る声が聞こえました。私は何事かと玲奈が止めるのを無視して廊下へ出て行きました。
「何見てんだよ!」
三年生に怒鳴られてしまいました。どうやら恐喝の現場だったみたいです。そのあと三年生は行ってしまいました。
「松野、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。でも俺にかかわらない方がいいぞ」
そう言って松野も行ってしまいました。そのあと私は担任の野口先生にそのことを話しました。
「今村さん、その件は、大丈夫だから……」
野口先生はそう言って職員室へ行ってしまいました。しかし、その後も同じような場面を見ましたが先生達の反応はありませんでした。そして、梅崎は学校へ来なくなりました。とにかく学校側は何も無かったように穏便に済ませたいようですが……
数日後、被害は私達にも降り掛かって来ました。例の三年生が匠君と玲奈に恐喝をしていたのです。
「僕達はお金を持っていないから」
匠君は玲奈が側にいるので穏便に済ませたかったみたいでなるべく逆らわないようにしています。
「それじゃ、いつ持って来れる?」
「それは……」
匠君も玲奈も流石に困っています。
「匠君、何してるの?」
「飛鳥、来るな!」
私は三年生の先輩にも訊きました。
「何してるんですか?」
「ちょうど良かった。おまえも金を出せ」
私はもう許せませんでした友達にこんなことをする人を……
「あなたに渡すお金はありません」
「なんだと、そんなこと言ってただで済むと思っているのか」
「これは犯罪ですよ」
私は毅然とした態度で言いましたが、それを聞いた三年生は私の言葉が気に入らなかったようです。
「どうやら口で言っても分からないようだな、女だからって容赦しないからな!」
そう言って突然殴り掛かって来ました。私は咄嗟に殴り掛かって来た三年生の腕を掴み一本背負いで投げ飛ばしました。三年生は背中を強打し苦しそうにもがいています。側で見ていたもうひとりの三年生は顔を引きつらせて逃げて行ったあと倒れていた三年生も背中を押さえながら苦しそうに……
「覚えてろよ!」
そう捨て台詞を吐いて逃げて行きました。
「おい、飛鳥大丈夫か? あいつら暴走族と関係あるみたいだぞ」
匠君は少し顔を引きつらせて言いました。
「大丈夫だよ。あいつらのことは…… もう警察にこの中学校で恐喝事件が起きてるって連絡したから」
それを聞いた匠君と玲奈は大慌てで……
「それじゃ学校が大変なことになるよ」
二人はとても不安そうでした。
「そうだけど…… 先生達があれじゃ解決出来ることも出来ないから」
私は、不安だったけどいつまでも私達生徒が苦しい思いをするのは駄目だと思いました。
それから数分後、中学校には三台のパトカーが来て警察官が職員室へ入って行きました。中では先生達が慌てて対応しているようですけど……
「そういう事実はありません」
教頭先生達は事実を否定していますが…… 校長先生はどうやら事実を認める発言をしたようでした。
「飛鳥、大変だよ!」
私の側に久美が勢いよく走って来て息を切らしています。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「あ、あの、梅崎君が屋上から飛び降りようとしてる」
えっ! 梅崎が。
「でも、梅崎君は学校を休んでいるよね」
「でも、今学校に来て自殺しようとしてるの。だから先生に知らせに来たんだけど……」
そう言ったあと久美は職員室へ入って行きました。屋上を見ると男子生徒がフェンスギリギリのところにいます。
「玲奈、あの下って音楽室だっけ」
「そうだけど」
「匠君、技術実習室から長めのロープを三本くらい持って来て」
「いいけど、どうするんだ?」
「音楽室のベランダから屋上に登るから」
「え! なんでそんなことするの?」
玲奈が心配そうに言いましたが「屋上にそのまま行っても梅崎はフェンスの方に逃げるだけでしょう。だからフェンス際から上がって梅崎が躊躇してるところを捕まえてもらうの」
「でも、そんなの出来っこないよ」
「音楽準備室に二段ハシゴがあるからそれを使えばいける」
私がそう言ったとき先生達と警察官が職員室から大勢出て来て梅崎君に大声で声を掛けています。
「お巡りさん、クッションマットとか準備した方がいいんじゃない」
私が言うと無線で連絡をして準備しているみたいでした。そして、私達は授業中の音楽室へ入って行きました。
「あなた達、授業はどうしたの?」
私は先生の話も聞かず二段ハシゴを持ってベランダに出ました。
「飛鳥、ロープ持って来たぞ」
「それじゃ窓枠に結んでロープの反対側をこっちへ持って来て」
しかし、屋上は少し出っ張っていてハシゴを掛けてもかなり鋭角なので危険です。
「飛鳥、ベランダにハシゴを固定しよう」
そう言って匠君がガッチリとハシゴを固定しました。
「あなた達いったいどうしたの? 授業に戻りなさい」
私は音楽の先生に屋上での出来事を説明しました。先生はどうしていいのか分からず動揺しています。
「それじゃ、登るからしっかり持ってて」
「飛鳥、俺が行く!」
匠君がそう言いましたが……
「匠君は高い所は駄目でしょう」
私がそう言うと匠君は忘れていたのか四階からの下の景色を見てゾッとしてその場にしゃがみ込んでしまいました。
「それじゃハシゴをしっかり持ってるから……」
悔しそうに目を瞑ったまま言いました。そして、私は一段ずつハシゴを登り始めました。
「匠、覗くなよ!」
「馬鹿野郎! 今の俺にそんな余裕があるかっていうか、そんなの見ねえよ!」
私は自分の身体をロープで結びハシゴを登ります。屋上のフェンスに手が届いたときもう片方のロープをフェンスの柱に結びました。これで私の身の安全は保証されました。そして屋上のフェンスを乗り越えて私は叫びました!
「梅崎、何やってんの!」
「ええーっ、今村! なんでそこにいるんだ」
梅崎君は驚いてその場に座り込んでしまいました。
「捕まえて!」
私のその声が聞こえなかったのか、みんなが私を見て固まっていました。
「早く捕まえて!」
すると警察官が出て来て梅崎君を取り押えました。それを見て私は一気に身体の力が抜けてその場に座り込みました。先生達も少し落ち着いたみたいでした。
「飛鳥大丈夫?」
瑞稀が一番に私の側に駆け寄ってくれました。
「うん、大丈夫。ちょっと力が抜けちゃった」
先生達も私の側に駆け寄りました。
「今村、無茶しすぎだぞ。とにかく保健室で少し休みなさい」
先生にそう言われ瑞稀が保健室へ連れて行ってくれました。梅崎君はどうなったんだろう?
その日の夕方、私は大学病院へ行きました。二次性徴抑制の注射をするためです。その時私は、梅崎君らしい人を見ました。白衣を着た先生らしい人と一緒だったけど……
「あれ、飛鳥君どうしたの?」
ちょうど上杉先生と出会いました。
「二次性徴抑制の注射を受けに来たんですけど……」
「あ、そうか今日だったね。ちょっと待っててね」
私と先生は診察室へ行きました。
「先生、さっき中学生と白衣を着た先生が向こうに歩いて行ったんですけど……」
「ああ、引きこもりの患者さんだよ。飛鳥君と同じ中学校じゃなかったかな?」
そう聞いた時、私はハッとしました。
「はい、同じクラスの子です」
私は治療を受けながら先生に訊ねました。
「彼はどうなるんですか?」
「あの子は友達なの?」
「そこまで親しくないけど…… うちの学校いじめがあっていて彼はよく虐められて恐喝されていたんです。それで学校にも来なくなって……」
「そうか、だから警察も一緒だったんだ。でも大丈夫だよ霧島先生が治療してくれるから、彼は精神科のエキスパートだからね」
「上杉先生は違うんですか」
「僕は違うよ。そこまで優秀じゃないからね」
「えーっ、私も優秀な先生がいいなあ」
「そうなんだ、でも霧島先生は優しくないよ」
上杉先生は少し笑みを浮かべながら言いました。
「あ、私は優しい先生がいいかな」
「そうかい、有難う」
そういう話をする事で私の気持ちは落ち着きます。でも明日からはこの事件の聴き取り調査が始まります。
翌日から学校では先生と生徒の全員から事情聴取が行われました。その結果恐喝事件の黒幕が街の暴走族だったこと一部の三年生に繋がりがありそこから鼠算式に被害が広がっていったことが判りました。これでやっと楽しい学校生活が戻って来ました。
これから本格的な治療が始まります。次回をお楽しみに!
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