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憧れのスカート  作者: 赤坂秀一
第一章 病気なの?
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4 不覚

お待たせ致しました。第四話です。お楽しみ下さい。

 二次性徴抑制治療を始めてから二ヶ月が過ぎた頃、私の思春期はピタリと止まったような感じがします。

「うん、順調みたいだね」

 そう言って皮下注射をしている時、私は先生に訊きました。

「先生は何故お医者さんになろうと思ったんですか?」

「うーんそうだね、僕が怪我をして入院していたことがあってそのとき先生や看護師さんの治療している姿がカッコ良かったからかな。飛鳥君はどういう仕事をしたいの?」

 先生にそう訊かれて私は何も考えてないことに気づきました。

「私は……」

「まあ、まだ何も決めていないのが本当かもね。まだ小学生だから」

「先生、お医者さんってどうしたらなれるんですか?」

 私は少し医師に興味を持ちました。

「医者になるには一生懸命勉強しないと駄目かな。大学も医学部に六年いかないといけないんだよ。医師の国家試験も必要だし、でも、まずは大学受験だね」

 私はその話を聞いてとても難しいと思いました。

「まあ、焦らずにゆっくり決めていいんじゃない。僕は医師になっていなかったら技術開発者になりたかったな」

「私は…… よく解らないけど人の役に立てる仕事がしたいです」

「だったらいろんな仕事があるよ。コンピュータのシステム管理なんかは会社や病院でも必要だからそういうのもいいんじゃないかな。普段会社でいろんな物を作ったり販売したりしている物も僕達には必要なことだからね立派に人のためになっている仕事だと思うけどね」

 先生はいろいろアドバイスしてくれたけど私の中では医師という職業にとても興味が湧いて来ました。


 二次性徴抑制治療を始めて半年が過ぎた頃、私は不覚にも風邪を引いてしまった。

「熱があるわよ」

 母が心配そうに横にいました。

「今日は学校休みなさい」

 姉の唯香も心配そうに私の側にいます。

「飛鳥大丈夫? お母さん、この間のクリニックに連れて行ったら」

 姉が以前行ったクリニックのことである。女医さんで親切に対応してくれたらしいのだ。

「今日は、お母さんついていけないけどひとりで大丈夫?」

「大丈夫だよ。このまえお姉ちゃんが行ったクリニックでしょう。すぐそこじゃん」

 母は私のことを何かと子供扱いする。私の病気のこともあるんだろうけどいい加減にしてほしい。

「それじゃ、お金と保険証を置いとくから後で行きなさい」

 母はそう言うと仕事に行ってしまいました。母は私が小学生になった頃から保険の外交員をしているのだ。

「はあー、朝食は無理かな……」

 私は食欲も無いのでベッドで横になってもう少し楽になってから病院へ行こうと思いました…… そしてしばらくしてから時計を見ると十時半を回っていました。さっき横になったばかりだと思っていましたが、いつの間にか眠っていたようです。あれから三時間経っていたとは…… いつまでもこうしてはいられないので着替えをして北条クリニックへ行きました。


 クリニックには沢山の患者さんがいました。かなり好評のようです。

「今村さんお熱を測って下さいね」

看護師さんが体温計を持って来てくれました。

「顔が赤いし辛そうだけど大丈夫? お熱もありそうね」

 体温を測ると三十九度の熱がありました。

「あら大変! ちょっと待って下さいね」

 そう言うと看護師さんは診察室へ入って行きました。

「今村さん大丈夫?」

 姉が言っていたとおり優しそうな女医さんが待合室に来てくれました。

「ちょっとフラフラします」

「華奈、処置室のベッド空いてる?」

「はい」

「それじゃベッドで休んでもらって今見てる患者さんが終わったら診るから」

 そう言うと先生は診察室へ、私は看護師さんと一緒に処置室へ行きました。ベッドで横になりしばらくすると先生が来て診察を始めました。

「はい、口を大きく開けてね」

 喉の奥を確認した先生は……

「ちょっと炎症があるね」

 そう言うと今度は鼻に綿棒みたいな物を突っ込まれました。

「ちょっと痛いけど我慢してね」

 私は痛いとか言うよりも身体が怠くてそういう状態ではなくやられ放題でした。そのあと聴診器で胸の音を聴いています。

「うん、インフルエンザじゃなさそうね胸の音も綺麗だし喉からの風邪だね。お熱が高いので点滴をしますからね! そのまま寝てて下さいね」

 そう言うと先生は次の患者さんを診察室へ呼んでいます。看護師さんが点滴の準備をして私の側に来ました。

「あの、順番は?」

「今村さんはお熱があって辛そうだったから救急扱いにしました。点滴が一時間くらいかかるから安静にしていてね」

「え! なんですか?」

「点滴するからね」

 私はフラフラ状態で看護師さんの言うことがよく判りませんでした。

 ある程度楽になったとき私の腕には、いつの間にか嫌いな点滴が打たれていて、お昼過ぎまで点滴治療のためベッドで横になっていました。

 午前の診察時間は一時までだけど受付が終わる十二時半にはほとんどの患者さんがいなくなり辺りはお昼休みの雰囲気です。

「遼子ちゃん、今日のお昼はなに?」

「あ、先生今日は早かったんですね。お昼はオムライスですよ」

 男性の先生と看護師さんがお昼ご飯の話で盛り上がっていますけど私はまだそれどころではありませんでした。

「ちょっと秀一さん、まだ患者さんいるんですよ」

 さっきの女医さんが注意してるけど私のことなら別に構わないけど……

「今村さん少しは楽になったかな、もう一度お熱を測りますね」

 耳元で「ピッ」と音がしました耳元で熱を測るタイプです。

「三十七度五分です。熱は下がったみたいね、もうすぐ点滴も終わりますからね」

 そのとき、男性の先生が私の名前を呼びました。

「あれ、飛鳥君?」

「え! 上杉先生…… なんで?」

「ここは僕の自宅なんだよ」

「でも、北条クリニック…… ですよね」

 女医さんは、少し照れたように……

「あっ、私は上杉先生の妻なの北条は旧姓なのよ、みんなは私のことを美彩みさ先生って呼んでるけどね。でも、どうして秀一さんが知ってるの?」

 美彩先生はそう言って上杉先生を見ています。

「飛鳥君は僕の患者さんなんだよ」

「そうなの? でも女の子に君付けは失礼なんじゃない」

「え、女の子? あ! そうだね……」

 上杉先生が私の顔を見ながら困っているので私が言いました。

「あ、いえ、その…… 戸籍上は男です……」

 私も、ちょっと困った顔をして小さい声で言いましたけど美彩先生も戸惑っています。

「え、でもスカートだし、髪だって長くて綺麗だし…… あれ?」

 美彩先生はさらに混乱しているみたいに上杉先生を見ています。

「飛鳥君はGIDなんだよ。お母さんは今日は一緒じゃないの」

「はい、母は仕事なので今日はひとりです」

 それを聞いた美彩先生は混乱していたことも忘れ……

「あの状態でひとりで来たの?」

 そう驚いたように言いました。かなりフラフラの状態だったのでそう思われても仕方がありません。

「それじゃお昼はどうするの」

「あんまり食欲が無いので食べなくてもいいかなあ……」

「駄目よ! 風邪引いているときこそちゃんと食べてお薬飲まなきゃ」

 美彩先生は私の言い分も聞かずに……

「遼子、お粥を作ってもらっていい?」

 看護師さんにそうお願いしました。

「美彩先生、またダイエットですか?」

 美彩先生は苦笑しながら……

「私じゃなくて飛鳥さんのよ!」

 そう言うと看護師さんは理解したみたいで……

「あ、そういうことですね」

 そう言って休憩室へ行き調理に取り掛かったようでした。

 点滴治療も終わり、私達も休憩室に移動するとそこには美味しそうなオムライスが人数分準備されていました。

「さあ、どうぞ特製玉子入りお粥です」

「ありがとうございます」

 私が丁重にお礼を言った時……

「あら、そっちも美味しそうね」

 そう美彩先生が言いました。

「美彩先生は、なんでもいいんですよね」

 看護師さんがいたずらっぽく言いました。

「あら、そんなことないわよこのオムライスも美味しそうよ」

 上杉先生は苦笑しながら……

「さあ、みんなで頂こうか」

 作ってくれた看護師さんに気を使っているみたいです。

「美味しい! 食欲はあまりないけど不思議と食べられます。有り難うございます看護師さん」

「そう、良かった。でも、遼子さんでいいよ」

「あ、はい……」

 そして、もうひとりの看護師さんが休憩室に来ました。

「美彩先生、午後からの準備出来ましたので」

「あ、華奈有難う。あなたも早く食べてね」

「はい! あら、今村さんもだいぶん良いみたいね」

「はい、点滴と遼子さんのお粥のお陰です」

「それは良かったわ」

 お昼ご飯は楽しく頂くことが出来ました。こういう気兼ねなしに仕事が出来る環境は良いなあと思いました。


 三月、私は小学校を卒業します。式にはみんな中学校の制服を着て参加しますが…… 私は制服の件で中学校との話合いが難航して制服が卒業式までに間に合わなかった為、私ひとり私服で参加します。卒業式のコーデは黒のワンピースに淡いグレーのボレロです。そのため私ひとり目立ってしょうがありません。しかし、お気に入りの服を着て式に望めるのはとても嬉しいです。

「飛鳥、いいねそのワンピー」

「うん、お爺ちゃんに買ってもらったの」

「でも、制服どうするの?」

「中学校からの連絡待ち」

「でも、飛鳥の学生服っていうのも想像出来ないけどね……」

「でしょう!」

「ありえないよね」

 瑞稀達はそう言ってくれてるけど……

 卒業式が始まり校長先生の話が終わった後、卒業証書授与が行われます。私のクラスは『あ』で始まる名字の人がいないので『い』で始まる私が一番最初です。

「今村飛鳥」

 そう呼ばれて卒業証書を受け取り壇上から降りるとき母の姿が目に入りました。母は嬉しそうにハンカチで涙を拭いているのが分かり私もつられて胸にくるものを感じ、それを我慢しながら壇上を降りました。

 卒業式が終わり教室へ戻った時でした。

「やっぱり飛鳥はずるい!」

 突然、玲奈に愚痴られました。

「なんでよ!」

「だってひとりだけワンピーはずるい。私もそっちがよかった!」

「私だってセーラー服を着たかったけど…… 仕方ないでしょ」

 玲奈は黙っていたけどみんなで写真を撮るときには機嫌を治してくれたので安心しました。これで私の小学六年間が終わりました。


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