33 救急対応
お待たせしました! 33話を更新しました。今回は題名通り緊急対応です。文化祭が始まると同時に人が倒れています。最初に動いたのが玲華でした。流石は病院の娘です。
突然、私達の前で男性がうつ伏せに倒れて驚いています。私はどうしていいのか分からなかったけど、玲華が最初に動いたので私も玲華の指示で動きます。まずうつ伏せになっているので玲華と私と祖父で仰向けにします。息が無いことを確認した私達は……
「玲華、心臓マッサージ出来る?」
「うん」
「それじゃお願い! 私は事務室にあるAEDを借りに行ってくる。お爺ちゃん救急車を呼んで!」
「うん、分かった」
玲華は気道を確保した後心臓マッサージを開始しています。私はAEDを借りるため事務室へ走っています。
「おい、今村廊下を走るんじゃない!」
古澤先生に注意されましたがそんな事を守っている暇はありません。
「先生、緊急事態です。中庭で人が倒れています。今、玲華が心臓マッサージをしています。先生も応援をお願いします。私はAEDを持って直ぐにもどりますので」
そう言うと、先生の返事を聞く前に私は走り出しました。ようやく事務室に到着です。
「はあ、はあ……」
息を切らしながら事務室の窓口へ……
「すみません! AEDを貸してください。中庭で人が倒れていて意識も呼吸も無いんです」
すると事務員さんが顔色を変えて……
「救急車の手配は? 誰か先生はいますか?」
そう訊かれたので私は古澤先生がいることを伝え、救急車もお願いする事にしました。祖父にも手配してもらってますが、学校側からも手配してもらった方が良いと思ったからです。私はAEDを持って急いで中庭へ戻りました。
「ちょっと、ちょっと、どいてよ、道を開けて!」
中庭は沢山の人が集まっていて私は人混みをかき分けながらやっと玲華のところまで辿り着きました。
「玲華、どんな感じ?」
玲華は何も言わずただ首を横に振るだけです。古澤先生が心臓マッサージをしていますが……
「私が代わりましょう」
そう言って突然ひとりの男性が古澤先生と入れ替わります。
「上杉先生?」
「飛鳥さん、AEDの使い方は判る?」
「美彩先生! あっ、はい! スイッチを入れて音声ガイドの言う通りに操作すれば良いですよね」
美彩先生は男性の上半身の服のボタンを外しながら……
「その通り! それじゃよろしくね!」
そう言うとバッグの中から空気を入れて使うクッションを膨らませ、男性の頭をクッションの上に乗せます。しかし、この二人はいつの間に来たんだろう? 私はちょっと不思議でした。
「飛鳥さん片方のパットをこちらに」
「はい」
私はAEDのパットを一つ美彩先生に渡し先生はそれを右肩に貼りました。もうひとつを私が左の脇腹に貼りました。
「先生、ここで良いんですよね」
美彩先生はちょっと微笑んで……
「ええ、そこで良いわ」
美彩先生がそう言った直後……
『電気ショックが必要です。体から離れて下さい。オレンジ色のショックボタンを押して下さい』
音声ガイドが流れました。上杉先生は心臓マッサージをやめました。
「みんな体から離れて、飛鳥君ショックボタンを押して」
「はい」
私はAEDのショックボタンを押しました。
「バン!」という大きな音と共に男性の身体が少し浮き上がったようでした。私は大きな音に驚いて仰け反ってしまいました。
「よし! 呼吸が戻ったわ、意識も朦朧としてるけど大丈夫みたいね」
そう言って美彩先生は男性の身体を横にしながら声を掛けます。
「大丈夫ですか! 直ぐに救急車が来ますからね」
「挿管した方が良いよね」
「うん、でも簡易呼吸器でいけると思う」
美彩先生は上杉先生にそう言ってます。その後上杉先生はスマホで何処かに電話をしてます。たぶん大学病院だろうけど…… 私達と男性と一緒に来ていた女の子も何も出来ないまま立ち尽くしていました。
「オーライ、オーライ」
その時掛け声と共に救急車が中庭に到着しました。
「ストレッチャーと簡易呼吸器を持って来て!」
美彩先生が救急隊員に指示をしますが隊員は怪訝そうに美彩先生を見ています。
「私は医者です。急いで!」
美彩先生がそう叫ぶと隊員は慌てて準備しました。
「ストレッチャーに乗せるわよ」
美彩先生はそう言ってイチニサンの掛け声で男性をストレッチャーに乗せました。
「美彩先生、AEDは外さなくて良いんですか?」
私が美彩先生に訊くと……
「これは、心電図の役割もしているからこのまま病院へ持って行くのよ」
そう私に教えてくれました。
「飛鳥さんも玲華ちゃんも頑張ったわね」
美彩先生はそう言ってくれました。その時上杉先生は救急隊の隊長さんと何かを話しています。患者さんは速やかに救急車に乗せられ一緒にいた女子も救急車に乗りました。
「玲華ちゃん、心肺停止時間は分るかな?」
上杉先生の問いに玲華はちょっと考えて……
「十分くらいだと思います」
玲華はそう答えました。たぶんそれ位だったでしょう。男性が倒れてすぐに駆けつけ私がAEDを取りに行ってだから…… その後、救急車は病院へと行きました。
「上杉先生は一緒に行かなくても良かったんですか?」
私が訊くと……
「病院には救急救命科に連絡してるから大丈夫だよ」
私は俯きながら上杉先生に訊きました。
「先生、あの男性は助かりますか?」
上杉先生はちょっと考え表情を曇らせましたが……
「大丈夫だよ!」
一言そう言ってくれました。
「助かってくれないとみんなの働きが……」
上杉先生は小さな声でそう言いましたが、最後は聞き取れませんでした。実際のところ心肺停止時間が十分間あったということは極めて難しいということを私は後から知る事になります。
それにしても、この二人はいつ来たんでしょうか? 来るなりスマートに心臓マッサージを代わり、美彩先生はAED装着の準備をしていましたし、まあ医師なんだから手馴れたものでしょうけど…… でも、先生達のお陰でスムーズに事が進んだと思います。それにしても美彩先生の真剣な顔は初めて見たんじゃないかな? ちょっと失礼かな!
この後、文化祭は再開して発電機も無事動き出しました。
「はあ! 物凄い始まり方だったね」
溜息が出てしまった私です。
「飛鳥は中庭と事務室を全速力で走ったから疲れたんじゃない?」
「でも、そんな事言ってる場合じゃ無かったでしょう」
まあ、そうですよね! 人の命が消えかかっていた訳だから。
「でも、玲華だって大変だったでしょう私が戻るまでずっと心臓マッサージをしてたんだから」
「大した事ないわよ、こっちには二人いたし、そこ十分ないくらいだったんだから」
私達がお喋りをしていたら……
「お楽しみのところ悪いんけどシャボン玉を手伝ってもらって良いかな?」
甲斐部長です! 部長の周りには小さい子供が集まっていました。
「はいどうぞ!」
私達は次々にストローを配りました。ストローをもらった子供達は次々にシャボン玉を飛ばして楽しんでいました。中庭は沢山のシャボン玉に包まれとても綺麗です。
「飛鳥!」
瑞稀が来ました。展示の方はどうしたのかな?
「どうしたの?」
「すぐに化学室行って、飛鳥の先生が来てるから」
先生達の姿が見えないと思っていたら化学室に行ってたんだ。
「それじゃ玲華、瑞稀よろしくね!」
そう言って私が化学室へ行くと上杉先生はエンジンテストの映像を見ていました。
「飛鳥さんこっちです」
恵美子ちゃんからも呼ばれてしまいました。
「あっ、先生お待たせしました」
「飛鳥君、すまないね、わざわざ来てもらって」
「いいえ、せっかく来て頂いてますので、ありがとうございます」
「この映像なんだけどテストの時、何か問題があったの?」
「この時は、交換したばかりのエンジンオイルがかなり汚れて煤混じりの真っ黒い排気ガスが出てたんです」
笑顔で説明をしたら……
「エンジンに何か問題があったの?」
そう訊かれて、私はまずバイオディーゼルの特性を説明しました。
「いいえ、そうじゃないんですよ。バイオディーゼルはエンジン内部のクリーニングをする効果があります。そこでこの時使ったエンジンは今まで軽油を燃料にしていたのでエンジン内部はかなり汚れていたんです。だからバイオディーゼルを使った最初の時に一気に汚れが取れてエンジンオイルとエレメントが真っ黒いになって排気ガスから煤が出たんです」
「それでこの映像ではみんな慌てているんだね!」
上杉先生は何となく納得したみたいでした。
「この後、オイルとオイルエレメントを交換してエンジンを回してテストは終了したんですけど、その後もオイルとオイルエレメントはもう一度交換しているんです」
「そんなに汚れていたの?」
「あとから聞いた話ですけどオイルとオイルエレメントは全部で四回交換したそうです。だから、いかにバイオディーゼルのクリーニング効果が凄いかというところです」
「それじゃ、今日も交換するの?」
上杉先生は興味深く訊いています。
「いいえ、今使っているエンジンがこのテストの時のエンジンなので交換の必要はないと思います。一応チェックはしますけどね!」
上杉先生は感心したように「エンジンのメンテナンスとかも飛鳥君がするの?」と訊かれてしまいました。
私は手を振りながら……
「先生、そんなこと出来ませんよ! だから祖父に来てもらっているんですから」
するとそこに反応した美彩先生が……
「お爺さんはエンジンの整備とか出来るの?」
そう訊かれて……
「簡単なメンテナンスしか出来ませんよ! オイル交換くらいは簡単にやっていますけどね」
美彩先生は何だか興味深げでした。
「手作り石鹸はいかがですか?」
バブル班の手作り石鹸も売り上げ好調のようです。今回は新入生三人も販売をしています。
「あれって去年秀一さんが買って来た石鹸よね?」
「うん、そうだよ」
「あの石鹸、患者さんに好評だったのよ」
「それじゃいくつか買っとく?」
「そうね」
美彩先生は手作り石鹸をかなり購入していました。
「飛鳥先輩交代ですよ」
一年生の秋野悠香が交代に来ました。
「うん、それじゃよろしくね」
私がそう言うと恵美子ちゃんが……
「えっ、飛鳥さん行っちゃうんですか?」
ちょっと淋しそうに私にくっ付いてくる恵美子ちゃんですが、今日はひとりずつの交代ですので仕方ありません。
「ほら恵美子駄目だよ」
秋野さんに引き離される恵美子ちゃん、私ももう少しこのままで…… いや、だめだめ!
「このあと飛鳥さんはどこに行くの?」
美彩先生に訊かれて……
「私のクラスで喫茶をしてるので、そこでお昼です」
「今年もやってるんだね!」
そうか、上杉先生は去年一緒に食べたもんね!
「それじゃ僕達もあとで行こうかな」
「はい、今年は二年生の教室なのでお間違いなく」
そう言って私は淋しそうな恵美子ちゃんに手を振って休憩に行きました。それにしても今朝救急車で運ばれた男性は大丈夫なのかな…… ちょっと気になります。
救急搬送された男性は助かるのでしょうか? AEDも一回の電気ショックで呼吸が戻ったみたいでしたけど…… 普通は一回で戻るのは稀だと聞いた事があります。でも女子高生二人が今回は頑張った回でした。




