29 新学期
お待たせしました。29話が出来ました。
今回から飛鳥達は高校二年生で恵美子ちゃんが新入生として入って来ます。しかし、飛鳥の様子が少しおかしい様です。
高校生になって二度目の桜が咲く頃、新入生が入学して来ました。その中には、もちろん恵美子ちゃんもいます。入学式直後の部活動紹介で私達化学部は甲斐部長と玲華、私の三人で挑みます。もちろん紹介文を読み上げるのは甲斐部長です。
「甲斐君大丈夫? ご入学おめでとうございますだよ! さっきのはちょっと面白かったけど」
甲斐部長は練習で、ご卒業おめでとうございますと間違っていたのです。緊張しているんだろうけど玲華は苦笑していました。
「甲斐君、化学部の紹介私が変わろうか?」
「いや、大丈夫! どこの部も部長が紹介するんだから」
「中島副部長が紹介してくれれば良いのに、副部長はこういうの得意ですよね」
私もそう言ったんですが……
「だから、大丈夫だって」
などと言ってますが果たして大丈夫なんでしょうか? 今、演劇部が紹介をしています。その次が私達の番です。
「続きまして化学部お願いします」
そう紹介され壇上へ…… うわ! ここからだと一人一人の顔がよく見えます。そんな中、軽く手を振っている女の子が一人! もちろんそんな事をするのは恵美子ちゃんです。それをみた途端、違う恥ずかしさが…… その時、どっと笑い声が起きました。玲華は額に手を当てて俯いたまま苦笑いです。どうやら新入生は甲斐部長から卒業させられたみたいです。その後紹介が終わりそそくさと壇上から退散したとき、玲華は私の赤い顔を見て……
「飛鳥も恥ずかしいよね!」
玲華から言われてしまいました。私の顔が赤いのはちょっと違うんだけど……
「全く! だから変わろうかって言ったのに」
「いや、申し訳ない」
私達の紹介は最初の言葉さえ間違えなければ何の問題もなく無事終了出来たのですが…… などと言いながら化学室に戻って来ました。
「甲斐うけるー!!」
中島副部長です。
「そんな事言うなら副部長がやれば良かったでしょう!」
玲華がそういいます。
「何人くらい来てくれるかな?」
瑞稀もちょっと心配しています。
「あの間違いが無ければね……」
まあ、今の三年生が前期で引退したら二年生が五人だけだから今回の新入生獲得によっては研究内容も変更しないといけません。ソーラーカーの研究と風力発電の研究は今の三年生だけでやっているので、たぶん今期で終わりです。私達のバイオディーゼル研究も粗方研究成果がでているので、たぶん私達の代で終わるかも知れません。そう考えるとちょっと淋しいですね。
放課後、早速恵美子ちゃんが化学部の見学に来ました。
「失礼します」
「恵美子ちゃんいらっしゃい!」
瑞稀が声を掛け歓迎しています。
「あれ、飛鳥さんは?」
「飛鳥なら準備室にいるよ」
瑞稀がそう言って準備室の方を指差します。
「飛鳥! 彼女が来てるよ」
玲華からそう言われ私は慌てて準備室から出て来ました。
「玲華、そういうのはやめてよ!」
「良いじゃない別に、いずれ分かる事だし」
事情を知らない三年生からは変な目で見られています。こういうのが最近気になって私は情緒不安定です。
「飛鳥さん、バイオディーゼルを見せて下さいよ」
「うん、いいよ」
私はそう返事をして恵美子ちゃんを化学準備室へ連れて行きました。
「これだよ!」
そこには20リットル用の携行缶が二つありました。
「この中に入ってるよ!」
「やっぱり金属製の容器が必要なんですね」
「うん、流石にポリ缶は駄目だと思うから、ガソリンみたいに揮発性の高いものじゃないからこれで大丈夫だと思うけどね」
その後化学室へ戻ると……
「うちの風力発電班に来て下さい」
矢部先輩が勧誘して来ました。
「何言ってるだ、是非ソーラーカー班にお願いします」
今度は広瀬先輩です。この二班から恵美子ちゃん獲得にアプローチされています。
「飛鳥さんはどっちの班なんですか?」
「私はどっちでもないよ」
すると玲華が……
「私達はバイオディーゼル班だよ! 恵美子ちゃんもうちの班においで」
それを聞いた矢部先輩と広瀬先輩が「如月、俺達が先に声を掛けたんだからな」と一歩も引かない様子です。すると恵美子ちゃんは……
「私は飛鳥さんと一緒の班にします」
恵美子ちゃんがそういうと周りの先輩方からは落胆の声が…… とは言っても、まだ正式に入部は出来ないんだけど、来週早々に手続きできるかな? うちの学校は入学式があった次の週から体験入部が始まり、その一週間後から正式な入部登録が始まります。四月いっぱいまでに新入生は何らかの部活に入部することになっています。だから今日入学した恵美子ちゃんは再来週でないと正式な入部は出来ないのです。
「それにしても入学式当日に部活見学に来る人も珍しいわね」
玲華がそう言い「新入生はもう帰っちゃったんだよね」と瑞稀が訊いています。
「はい、でも何人かは運動部の方へ行ったみたいですけど」
「たぶんそれは推薦で入学した人達だよ」
甲斐部長が言いました。
「私も推薦ですよ」
「……」
私達は黙って彼女を見ていましたが……
「君は、化学部の推薦じゃないよね」
すかさす甲斐部長が突っ込みを入れます。
「エヘ、そうでしたね!」
恵美子ちゃんは、ちょっとおどけて見せます。私達は呆れ顔で玲華に至っては溜息を吐いていますが、他の三年男子は恵美子ちゃんの可愛さにやられてしまった様子です。大丈夫か化学部は?
「ところで飛鳥、手に持っているファイルはなに?」
瑞稀が興味深げに訊きます。
「あ、これね…… これは私が描いた天気図だよ、失敗作だけど」
「えっ! 飛鳥が描いたの見せて見せて」
「良いけど、きちんと描けてないからね」
瑞稀がファイルを開けてみると中途半端な天気図が数枚入っています。
「これってどうやって描いたの?」
今度は玲華が天気図を覗き込みながら訊いて来ました。
「これはラジオを聴きながら描いたの、四月五日正午の天気図はその日の午後四時にラジオで放送されたのを描いたの」
「ラジオを聴きながらってどういうこと?」
「ラジオで各地の天気、風向、風力、気圧等を読み上げられるからそれを描き込むんだけどこれがなかなか…… 一応スマホに録音してるけど」
玲華も瑞稀も顔を見合わせる様にしてなにかコソコソ言ってます。
なにコソコソ言ってるのよ全く……
「飛鳥さん、これって確か気象庁の気象通報アプリがあるはずですよ! 過去一週間分くらいあったと思いますけど……」
ちょっと自慢げの恵美子ちゃんです。そこで玲華がスマホで確認すると、ありました。
「飛鳥、これを使えば聞き逃しても何度も聴けるから良いんじゃない」
玲華に言われこれは良いと思いました。でも何故恵美子ちゃん知ってるんだろう?
「こんなのがあったんだね! そしたらラジオの時間も気にしなくて良いもんね」
「ラジオは何時からやってるの?」
瑞稀が少し興味を持った様です。
「ラジオは一日三回、朝九時半と夕方四時と夜の十時にあるんだけどね」
「飛鳥も良くやるね!」
もちろん玲華の感想です。
「これをバイオディーゼルの合間にやろうと思ったんだけど…… なかなか難しくてね」
「私もやってみて良いですか?」
恵美子ちゃんが一番興味を持った様で、アプリを聴きながら描き込んでいます。
「ねえ飛鳥! これ何分くらいあるの?」
「二十分くらいだったかな」
「結構厳しいね」
玲華は顔をしかめています。恵美子ちゃんが描き始めて三十分くらい「出来た!」とペンを置きます。
「どれどれ」
私が出来上がった天気図を見せてもらうと……
「凄い! 完璧じゃない」
「そんなことないですよ! いくつか聞き逃してるし分からなくなったところもありますので」
横から玲華と瑞稀も覗き込みますが私が描いた天気図とは比べ物にならないくらい描けてます。
「恵美子ちゃん凄いね」
「中学二年のときにちょっとだけやった事があるんですよ」
それにしても凄い、私は地名を言われて探してしまうし、緯度や経度を言われてもピンとこないところがあるからです。
今日の部活も終わり四人でバス停へ向かいます。
「それじゃ、今日は私あっちだから」
「あっ、そうか、それじゃね!」
私はひとり反対側のバス停へ向かいます。
「飛鳥さん、何故そっちなんですか?」
「恵美子ちゃん、今日は大学病院に行かないといけないから」
「私も一緒にいいですか?」
「えっ、駄目だよ、治療に行くんだから」
「ええーっ、、つまんないです」
恵美子ちゃんはいつもの様に頬を膨らませます。
「明日の朝は一緒に学校へ行けるから」
「うん……」
恵美子ちゃんは淋しい表情で瑞稀達の方へ戻って行きました。私は、先にバスが来た恵美子ちゃん達を見送り大学病院へ行きました。
この病院にも十三年通っているよね…… そう思いながら上杉先生の元へ向かいます。
「やあ、飛鳥君、変わりはないかな?」
私は表情を曇らせながら……
「…… あの、先生」
「どうかした?」
上杉先生は少し困惑しています。
「私は手術をした方が良いんでしょうか?」
私は真剣な表情で話します。
「それは、前にも話したと思うけど…… 飛鳥君が必要だと思うのなら考えないといけないのかな」
私は自分の性が分からなくて最近よく考えてしまうのです。
「私は、自分の性が解らなくなりました。恵美子ちゃんと一緒にいるとこのままで良いのかどうか……」
私は俯いてしまいました。
「うーん、彼女もちょっと分からないところがあるよね、LGBTなのか、ただ単に飛鳥君のことを慕っているだけなのか…… でも、今のままだとどんな形であれ男子と女子な訳だから問題ないんじゃないかな? でも、あまり深く考え過ぎない方が良いよ、鬱とかになると良くないからね」
「先生、どうしたらいいですか?」
私はちょっと焦ってしまいました。
「飛鳥君が心地良い方が良いんじゃないかな」
私は困惑した顔のまま……
「そしたら、周りのことが気になって考えてしまうんです」
「やっぱり考え過ぎてるようだね」
上杉先生は優しい顔で言いました。
「考え過ぎ…… ですか?」
「他の人達だって女の子同士抱き合ったり、手を繋いだり普通にしてるでしょう! でもそれは仲が良いという事でなにもおかしくは無いんだよ。周りはそんなに気にしてないと思うよ」
「そんなものですか?」
「そんなものだよ! 飛鳥君と彼女がお互い好きならそれで良いんじゃないかな?」
上杉先生はそう言うけど、そうなのかな…… やっぱり気になります。
「もし、気になってどうしようもないときはお薬の処方を考えないといけないかもね、あんまり出したくはないんだけどね……」
私もこれ以上はお薬の力を借りる事はしたく無いかも……
「まあ、今回はもう少し様子を見ようか、それでもまだ考え込む様ならおいで、相談だけならクリニックでもいいから」
「はい、ありがとうございます」
その後ホルモン治療をした私は大学病院を後にしました。
飛鳥は自分の性別と恵美子ちゃんのことで悩んでいる様です。上杉先生に相談して話を聞いてもらっていますが……




