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憧れのスカート  作者: 赤坂秀一
第一章 病気なの?
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2 幼稚園

お待たせしました。第二話が完成しました。これからもよろしくお願いします。

 四月、私は幼稚園に入園しました。私の周りには女の子が多くいつもお飯事をして遊んでいました。

玲奈(れいな)ちゃんどうしたの?」

 山中玲奈(やまなかれいな)ちゃん、斎藤瑞稀(さいとうみずき)ちゃん、そして松本久美(まつもとくみ)ちゃんは幼稚園で仲良くなったお友達です。その玲奈ちゃんが泣きながら私達のところへ来ました。

匠君(たくみ)にいじめられたの……」

 玲奈ちゃんは瞳を真っ赤に濡らし泣きじゃくっています。

「あいつまた女の子をいじめてるのね」

「私、柿内先生を呼んでくる」

 瑞稀ちゃんは先生を呼びに行きました。

「玲奈ちゃん大丈夫だからね」

 私と久美ちゃんは玲奈ちゃんの側で話をしながら彼女を落ち着かせているときあいつが来たのです。私と久美ちゃんは玲奈ちゃんの前に立ちはだかりました。

「おまえなんでスカートなんか履いてんだよ」

 匠君はニヤニヤ笑いながら言いました。

「そんなのどうでもいいでしょう。なんで私達をいじめるの?」

「おまえ男なんだろう?」

 何故、私のことを知っているんだろう不思議に思いながらも……

「何故玲奈ちゃんをいじめるの?」

 お互いに質問の応酬で話が噛み合いません。すると匠君は……

「男女は引っ込んでいろ!」

 そう言って私のことを押し倒しました。私がお尻から倒れ込んだときでした。

「匠君、なにやってるの!」

 柿内先生がやって来たのを見て匠君が逃げようとしたので私は咄嗟に足を引っ掛けて倒しました。

「いてっ! なにすんだよ」

「ほら捕まえた。どうして君は女の子をいじめるのかな?」

 匠君はその場から逃げようとしましたが先生に腕をがっちりと掴まれどうしようもありません。

「さあ、玲奈ちゃんと飛鳥君に謝りなさい」

 しかし、匠君は頑として謝らなかったので園長室に連れて行かれました。その後も何かと言っては私達のことをいじめて来ました。私の顔を見る度に……

「男女はあっちに行け」

 玲奈ちゃん達と一緒に遊んでいると……

「男女が感染るぞ」

 無視していると玲奈ちゃんを押し倒したり髪を引っ張ったりとやりたり放題です。

「匠君いつまで私達のこといじめるつもりだろう?」

「とにかく弱味を見せたらダメよ」

 瑞稀ちゃんと久美ちゃんは断固立ち向かうようですが玲奈ちゃんはかなり不安そうです。何故なら彼女が一番のターゲットだからです。

「飛鳥君もいじめられてるの?」

 玲奈ちゃんが子羊のように震えながら不安そうに訊いて来ました。

「うん、私はスカートを履いているから男女だって」

「でも園長先生から許してもらってるんでしょう」

「そうだけど…… いじめる方はそんなの関係ないのよ。私のことを男女扱いする匠君は大嫌い私は女の子なんだから」

「そうなんだね……」

 玲奈ちゃんは少し複雑そうに私のことを見ていましたが相変わらず表情は硬く不安そうでした。

 その日の午後、またいじめが起こりました。ターゲットは久美ちゃんです。私達が四人でボールを使って遊んでいたときボールがそれてサッカーをしている匠君の方へ転がり彼は邪魔だと言わんばかりにそのボールをおもいっきりこっちに蹴り返しました。そのボールが久美ちゃんに当たってしまい彼女はその場に倒れ泣いてしまいました。

「匠君なにやっているの! 危ないでしょう」

 先生はそう言いながら久美ちゃんの側へ駆け寄りました。しかし、匠君は悪ぶれることもなく……

「ちゃんと受け止めないのが悪いんだろう」

 そう言ってそっぽを向きました。それを見ていた私はもう我慢出来ずに匠君の側へ駆け寄り彼の襟と腕を掴み絶妙のタイミングで投げ飛ばしてしまいました。その直後周りはシーンと静まり返りました。匠君は、びっくりして何が起こったのか分からずにキョトンとしていましたが、その後我に返って泣き出しました。それを見ていた先生は久美ちゃんの側から慌てて匠君の方へ走って行きました。

「匠君大丈夫? 飛鳥君こんなことしちゃ駄目でしょう」

 さっきまで匠君が悪かったのに一転して私が悪者になってしまいました。私は今までの匠君の行動をずっと我慢していてそれが今回のことで我慢出来ずに爆発しただけなのに何故私が悪いのか分かりませんでした。

 その後、私は園長室に連れて行かれました。

「飛鳥君は柔道が出来るの?」

 園長先生から怒られると思っていた私は一気に力が抜けました。

「柔道ってなんですか?」

 それを聞いた園長先生は呆気にとられ立ち尽くしていましたがその後柔道のことを説明してくれました。

「あなたが匠君にしたことは柔道の技なのよ」

「そうなんですか……」

 私はテレビの刑事ドラマとかを見て悪い人がよく投げられていたので見よう見まねでやってみただけなのです。今後こういうことをしないようにと園長先生から注意を受けたのは言うまでもありません。

 この事があってから匠君が私達をいじめるようなことはありませんでしたが私達が楽しく遊んでいるとこっちをジッと見ていることがよくありました。そんな匠君に瑞稀ちゃんが近づいて行きました。文句を言いに行ったのではないかと私は内心冷や冷やものでした。匠君もちょっと身構えていたみたいでした。

「ねえ、匠君も一緒に遊ばない」

 瑞稀ちゃんが匠君に言った言葉を聞いて私達はびっくりしました。勿論、匠君も驚いていました。

「いいのか?」

「うん、だって匠君も一緒に遊びたいから私達のことずっと見てたんでしょう」

 そして、私達は一緒に遊びました。

「玲奈ちゃんごめんね! 俺、本当は一緒に遊びたくて……」

 匠君は話し声が小さくなり顔が次第に真っ赤になっていました。しかし次の瞬間……

「飛鳥君って強いんだな」

 顔を赤くしたまま話題を変えて話して来ました。

「え、なにが?」

「なにがって俺のこと投げ飛ばすんだからな」

「私はテレビドラマの真似をしただけだよ。刑事さんが悪い人をよく投げ飛ばしてるでしょう」

「飛鳥君は柔道やったら凄い選手になるんじゃない」

 玲奈ちゃんが話に加わり優しく微笑みました。でも私はちょっと困惑して……

「私はどっちかと言うとピアノの先生がいいかな」

 私がそう言ったとき、匠君は玲奈ちゃんの笑顔に見惚れていました。

 それからというもの私達はいつも一緒でした。みんな私のことを普通の友達として受け入れてくれましたし、私のことを悪くいう人がいれば匠君が私のことを守ってくれましたのでちょっとは匠君のことを見直しました。その後も幼稚園では何不自由なく生活することが出来ました。ただ、身体検査のときはちょっとだけ大変でしたけど……


 もうすぐ小学生になる二月の終わり頃、私はお雛様に魅入ってました。

「飛鳥、お雛様綺麗でしょう」

「うん、でもお姉ちゃんいいな」

「なにが?」

「だって、こんな綺麗なお雛様を持っていて……」

「なに言ってんの、二人で準備したり片付けたりしてるんだから私ひとりの物じゃないでしょう」

 姉は呆れたように微笑みました。

「それじゃ私の物でもあるの?」

「そうよ、今村家のお雛様よ」

 姉はそう言ってまた微笑みました。

「それよりも毎年二週間くらいしか飾れないのが問題なのよ」

「うん、確かにそうだよね」

 私も姉につられて相槌を打っていました。

「あなた達なにいってるの! こんな大きなお雛様ずっと飾っていたら邪魔になるだけでしょう。たった二週間くらいだから良いのよ。そしたら毎年飾り付けをするのが楽しみになるでしょう」

 母はお雛様を見ながら微笑みました。

「ところで飛鳥、ランドセルの色どうするの? お爺ちゃんに訊かれてて返事しなきゃいけないんだけど」

「私、ピンクがいい」

「ピンクねえ……」

 母は溜息を吐いていました。

「お母さん、お爺ちゃん達は飛鳥のことしってるの?」

「…… まだ、話してない……」

「え、なんでよ!」

「だって、なんて言うのよ」

 母は困った顔をしたまま俯いています。

「でも、ピンクのランドセルとかお爺ちゃんに言える?」

「だから困ってるのよ」

 母はもうひとつ溜息を吐きました。

「私が言おうか?」

 私は笑顔一杯に言いました。

「そうね…… それじゃお願いしようかしら」

 母は祖父に電話を掛けて私にスマホを渡しました。

「もしもし、お爺ちゃん」

「もしもし、飛鳥か?」

「うん」

「飛鳥、ランドセルは何色がいいの?」

「あのね、私、ピンクがいい」

「えーっ、ピンク!」

「そう、ピンクだよ」

「…… なんでピンクなの?」

「だって、可愛いでしょ」

 祖父はしばらく無言でした。

「…… 分かったよ、ピンクだね」

 祖父はそう言うと電話を切りました。でも、かなり驚いているみたいでした。

「どうだった?」

 母のその言葉に私は……

「うん、分かったって」

 そう答えたら母は不思議そうな顔をしていました。


 数日後、祖父母が家にやって来ました。

「お義父さん、お義母さんどうしたんですか? 言ってくださればお迎えに行きましたのに」

「それより裕子さん、飛鳥のランドセルは本当にピンクでいいの?」

「あ、それは……」

 母は困って祖父母の顔を見ることが出来ませんでした。

「あ、お爺ちゃん、お婆ちゃんいらっしゃい」

「おお、唯香(ゆいか)大きくなったな」

 私も姉の後ろから姿を見せると……

「唯香、お友達が来てるの?」

 お爺ちゃんは、まだ私だと解っていないみたいです。

「お爺ちゃん、飛鳥だよ」

 私の姿を見た祖父母はとても驚きました。それもそのはずです。私は髪を肩くらいまで伸ばし女性用のニットを着てチェック柄のスカートを履いていたからです。

「裕子さん、これはどういうことなの?」

「お義父さん、お義母さんここではなんですからとにかくお上がりください。奥で説明しますので……」

 その後母は、私のことをすべて祖父母に説明しました。その説明を訊き祖父母の表情は段々硬くなりました。

「裕子さん、飛鳥は治るの?」

 祖母が恐る恐る訊きました。

「これは病気というより障害に近いものだそうで治らないそうです」

「それじゃ飛鳥は女の子になるということね」

「性別違和と認定されればそういう治療をすることになるそうです」

 すると祖父母は私の顔を見ながら覚悟を決めたみたいです。

「よし、分かった裕子さん、治療費とか足りない時はいつでも言いなさい私達も力になるからね」

「有り難うございます」

 母はようやく笑顔になりました。

「飛鳥、それじゃランドセルを買いに行こうか、ピンクのランドセルあるといいね」

「うん」

 私は元気よく返事をして祖父母と一緒にランドセルを買いに行きました。その日の夜、父が私のことで祖父から叱られたことは言うまでもありません。何故ならずっと黙っていたのだから……

なんとか幼稚園を卒園し、小学校へ入学することになりますがこれからが大変なことがまだまだ続きそうです。お楽しみに。

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