16 悩みどころ
お待たせしました。16話を更新しました。
飛鳥は自分が男性恐怖症なのか単に性的指向が女子なのか分からなくなったようです。
玲華と恋愛の話をした私は少し悩んでしまいました。彼女に抱き寄せられこのまま恋に落ちても…… と真剣に思いましたが、流石にそれは出来ないでしょう。甲斐先輩にも悪いですから……
「玲華、ごめん…… ありがとう、もう大丈夫……」
とにかく今は、気持ちを切り替えシャボン液をやらないと。でも、玲華は私のことが心配な様子です。
「飛鳥、ちゃんと上杉先生に相談しないと駄目だよ。私で良ければいつでも相談に乗るからね」
玲華は心配そうに私の事をみてるけど……
「うん、ありがとう。でもそれより今はシャボン玉!」
恋愛は取り敢えず後回しです。今やる事があって良かった。だってそうでなければ、自分を見失う事になっていたかも…… 考え過ぎて変になっても困りますからね。そう思い私達は甲斐班長のヒントとなるガムシロップのことを試しました。
「どう、消えずに飛んでる?」
「うん、ちょっと微妙かな」
私がそういうと液体洗剤に水と蜂蜜を混ぜ合わせ試しました。こっちも玲華の方とあまり変わらない様子です。
「それじゃこれは?」
今度はさっきの物に洗濯糊を使ってみました。
「やっぱり微妙だね」
そうしている時に瑞稀が戻って来ました。
「はあ、やっと逢えた」
瑞稀は溜息を吐いています。
「え! お手伝いさんは?」
「ここを真っ直ぐ行けば良いですよってことだったから戻ってみるといないんだもん。声のする方に歩いていたんだけどなかなか見つからなくて…… やっと逢えたよ」
「あ、ごめんごめん!」
私達はお茶を飲んだ後、瑞稀を待たずに中庭の方へ移動していました。
「ところで瑞稀は何を使うの?」
「私は飛鳥が蜂蜜を使うって言ってたから似たような物で砂糖を持って来たの」
それから私達は持ってる物を色々混ぜ合わせて試しました。その中でもガムシロップに蜂蜜を混ぜた物はシャボン玉が壊れにくく長く飛んでるような気がしました。
この後は、玲華のお母さんと一緒にお昼をご馳走になりました。普通にお昼からこんなの食べないでしょうと言うような和食のお店へ行きました。すると玲華のお母さんが静かに口を開きます。
「飛鳥さん、瑞稀さん、これからも玲華のことよろしくね! この子は私の所為で寂しい思いをしてるの……」
すると今度は玲華が「お母様、そういうのはやめてください」と俯き加減で言いました。
「そうですね、それではそういうお話はやめましょう」
玲華のお母さんはちょっとだけ寂しそうでした。
「それにしても今村さんは可愛らしいわね」
え! ちょっと…… 玲華はそのことは何も言ってないのかな……
「あ、はい、ありがとうございます」
取り敢えず御礼だけは言いました。私だって可愛らしいなんて言われたら…… やっぱり嬉しいです。ちょっと照れるけど……
会食も終わり、私達は一條駅に戻って来ました。
「飛鳥、瑞稀、今日はありがとう」
玲華が真面目な顔でそう言います。
「どうしたの玲華いつもと違うじゃん」
瑞稀がちょっと心配気味です。
「うん……」
玲華は今まで家がこんな感じなので友達らしい友達はいなかったということでした。入試のときも私と瑞稀が仲良くお喋りしているのを見て羨ましく思ったとのことで、玲華は本当に寂しかったんだよね。
「玲華、私達はいつまでも友達でしょう」
瑞稀は笑顔で言いました。玲華もそれを聞いてとても嬉しかったみたいです。
「ありがとう……」
そして、私と瑞稀は玲華と別れ一條駅を後にしました。
数日後、私達は甲斐班長にシャボン液を見てもらいました。
「これは凄いね、どんな配合をしたの?」
「私達は液体洗剤と水を混ぜた物にガムシロップと蜂蜜と洗濯糊を少々加えました」
それを聞いた班長は驚いた表情をしています。
「いや、予想以上だな。僕の配合はガムシロップに砂糖水をほんの少し加えただけなんだよねさらに良くなってるよ」
班長は私達のことを高く評価してくれました。
「班長! 良いですよね」
玲華は何か訊いています。
「うん、分かったよ」
甲斐班長は何か玲華と約束していたのかな……
「玲華、なんの話?」
「な、い、しょ!」
玲華はとても嬉しそうでした。
「あら、楽しそうね」
青山部長が話に加わりました。
「お疲れ様です」
「お疲れ様、研究熱心なのは良いけどもうすぐ定期試験だからね。勉強も忘れないでね、化学部で赤点は厳禁ですからね」
「はい……」
私達三人は杭を打たれたような感じです。何しろ研究に夢中で勉学が疎かになってたような……
「折角集まったんだからみんなで試験勉強でもしようか」
甲斐班長が提案して来ました。
「でも、文化祭の準備はいいんですか?」
瑞稀は心配な様子です。
「もう、ほとんど出来たから大丈夫だよ」
そして私達はいつも実験しているテーブルで試験勉強を始めました。分からないところはお互い教え合ったり甲斐班長に訊いたりしました。
部活が終わり、久しぶりに北条クリニックを訪ねました。勿論、英語を教えてもらうためです。
「あら、飛鳥さん久しぶり、今日はどうしたの?」
「あの、定期試験が近いので英語を教えて欲しいんですけど」
美彩先生は笑顔で私をリビングへ通してくれました。。そこには久美もいます。
「あ! 飛鳥、久々に来たんだね」
「うん、定期試験が近いから美彩先生に見てもらおうと思って……」
そのあと私は、英語のテストを受けました。テストはそこまで難しくはなかったけど細かなミスが多かったのです。
「教科書をみせて」
先生は教科書を基に問題集を一緒にしながら教えてくれました。
「うん、忘れてはいないけどケアレスミスが多いから落ち着いて問題を解きましょうね」
そう注意を受けました。
「ねえ飛鳥! 文化祭はいつあるの?」
「文化祭があるの?」
美彩先生の目が輝きました。
「はい、七月の第二土曜から日曜に掛けてあります」
まあその前に定期試験があるんだけれど……
「一般の方も入れますので、良かったら来てください」
その時、上杉先生が帰って来ました。
「やあ、いらっしゃい久美さん、飛鳥君は久しぶりだね」
「上杉先生、相談したい事があるんですけれど……」
「うん、ちょっと待っててくれるかな着替えてくるから」
「はい」
その後、上杉先生が来るまで英語の試験勉強をしていました。しばらくして先生はリビングに戻って来ました。
「やあ、お待たせ何処がわからないのかな?」
私は苦笑して「先生、そうじゃなくて相談事なんですけど……」
「あ! ごめんごめん、それじゃダイニングの方へ行こうか」
私は早速上杉先生に男性恐怖症のことを話しました。
「そうか、思ったよりも症状が重かったみたいだね」
「薬とかで改善出来ますか?」
「うーん、そうだね。日常的には問題ないんでしょう?」
「はい」
「それだったら経過観察かな、抗鬱剤を使うまでも無いだろうし」
「なんですか? それ」
上杉先生の話だと抗鬱剤という薬は即効性は無く飲み始めて二週間くらいで効果が出て来るそうです。それを飲むと脳内のセロトニンとノルアドレナリンの分泌を良くしてセロトニンが効率よく働けるように作用するそうです。しかしながら日常的に問題が無いのならこれじゃ無いだろうし、頓服薬として抗不安薬でも良いのかも知れないけど、これも副作用とか考えればそこまで無理に服用することはないということでした。
「それじゃ何も出来ないということですか?」
「今の状況では何もしない方が良いかな…… でも何かあったらいつでも相談においで、人に話をするだけで意外と気分は良くなるんだよ」
私は、その話を聞いてやっぱり上杉先生に相談して良かったと思いました。
「それともうひとつ訊きたいんですけど……」
「うん、いいよ」
「私みたいなMTFは女子を好きになることは可笑しいでしょうか?」
「いや、可笑しくはないよ。飛鳥君は、だから手術はしないということだったでしょう」
「はい」
上杉先生は少し考えたように性別違和者の中には人によっていろんな性的指向を持っている人がいることを教えてくれました。
「飛鳥君は検査のとき男子が好きになれないからということだったけど、それは男性恐怖症だからなのか性的指向が女子だったからなのかのどっちかだよね」
私はどっちなのでしょう男子と二人っきりは怖いけど女子と二人っきりはとても気分が良いです。このあいだ玲華に抱き寄せられたときは、とても心地良かったし本当に恋に落ちそうになった訳だし……
「先生、私、友達に抱き寄せられたとき恋に落ちそうになりました」
「それは女子の友達?」
「はい」
先生は表情を少し硬くして言いました。
「まさかと思うけど、それって玲華ちゃんじゃないよね」
「え! そうですけど……」
先生は玲華を知っている様子でした。
「僕は彼女が小さい頃から知ってるんだよ四月に病院に来たときはびっくりしたんだ。それに飛鳥君も玲華ちゃんのこと話してたでしょう。でも彼女はやめといた方が良いよ」
「はい、玲華にはもう彼氏さんがいますから」
「え! そうなの? こりゃ大変だ」
上杉先生はちょっと頭を抱えてます。この話はここで終わりました。
「先生、ありがとうございました。なんだかスッキリしました」
「うん、どうやらいつもの飛鳥君に戻ったようだね」
やっぱり上杉先生は私のことを一番よく理解しています。
七月、定期試験です。試験が終われば文化祭が始まります。
「玲華、試験どうだった?」
「バッチリ、余裕よ。飛鳥は?」
「私は半分くらい出来たかな……」
あれ、瑞稀の姿が見えません。そういえば最近いないことが多いよねどうしたんだろう。私と玲華は最終日の試験勉強をするため化学室へ行きました。
「あれ、今日は三人じゃないんだ」
長野副部長が何かプロペラのような物を持っています。
「甲斐班長もまだですか?」
「さあ、何も聞いてないよ。今日は活動日じゃないから」
ちょっと寂しいそうな玲華とテーブルに座り最終日の試験勉強を始めました。最終日の試験は演習数学と理科の二教科です。数学がちょっと怪しいところですがいざとなれば上杉先生に訊けば良いから。
「遅れてすみません」
「瑞稀!」
「斎藤さん今日は活動日じゃないから無理しなくて良かったのに」
そう言われた瑞稀は頭を掻きながら私達の方へやって来ました。
「瑞稀、何処行ってたの?」
私はちょっと微笑んで訊きました。
「ごめん、ちょっとね」
「なに、私達にも言えないことなの?」
玲華は自分のことを棚に上げて聞き出しています。でも表情もなんとなくいやらしいです。とくに目が……
「え! そんなことないよ……」
「玲華! 別に良いじゃない」
私は何となく瑞稀にも良いことがあったんじゃないかと思いました。明日は定期試験最終日です。
文化祭を前に玲華には甲斐先輩、瑞稀にも彼氏が出来たような…… 飛鳥は本当にどうするのでしょうか?




