13 研究成果
お待たせしました。13話を更新しました。
前回の実験の成果からです。最初の実験で失敗してるだけあってとても気になるところです。はたして成功してるでしょうか?
前日の実験結果を確認するため私は一本早めのバスで学校へ行きました。化学室に行ってみるけど、前日の失敗が脳裏にあるので、今回もまた…… と気になるが確認しなければ始まらない。
「飛鳥!」
「玲華、早いんだね」
「飛鳥こそ…… やっぱり気になるよね」
「うん」
私達はそう言って化学室の中へ入りました。
「なんだかドキドキするね」
そう言いながら私と玲華は実験結果を確認しました。すると……
「これで良いんだよね」
「たぶん」
目の前のビーカーにはオレンジ色の液体その底に茶色っぽい物が沈澱しています。
「これって成功だよね」
「うん、たぶん」
私は何となく嬉しくてニヤニヤが止まりません。
「飛鳥、なんかいやらしいよ」
いやいや、玲華も同じようにニヤニヤしているから……
「おはよー飛鳥。あれ、玲華も!」
「瑞稀、早く来て見て。成功してるから」
玲華が笑顔であんなにはしゃいでいるのを見るのは初めてかもしれない。
「おい、朝っぱらから騒がしいぞ」
古澤先生が何事かと化学室に入って来ました。私達そんなに騒がしかったかな?
「先生、これで良いんですよね」
先生はビーカーを見て「うん、よく出来てる。やったな、後は精製するだけだな」
「精製! ですか?」
「うん、まだ不純物があるから取り除かないとディーゼルエンジンは壊れてしまう」
「それってどうしたら良いんですか?」
「それは、放課後やるからそろそろ教室へ戻りなさい」
古澤先生に促され私達は教室へ戻ります。ホームルームの後、授業が始まりますが私の心は化学室にあって、もう授業どころではありません。
昼休み、三人で食事をしながら「精製ってどうするんだろうね」と私が訊くと二人は考えます。
「ろ紙で濾したりするのかな」
玲華の意見はそれらしく聞こえます。
「意外と水で洗い流すとか」
「瑞稀ふざけないで!」
瑞稀は理科の実験とかするのは好きみたいだけど昔からちょっとふざけるところがある。
「でも、瑞稀の意見は満更でもないみたい」
玲華がスマホでネットを見ながら答えました。
「どういうこと?」
「バイオディーゼルに含まれる不純物は水に溶けるみたい。やり方までは分からないけど」
「それじゃ、やっぱり放課後のお楽しみか」
でも、私は気になって仕方がなく午後の授業も集中することは出来ませんでした。
放課後、化学室では古澤先生が男子生徒と一緒に準備をしています。
「お疲れ様です!」
私達が化学室へ入って行くと「お疲れ様、君達が例の一年生か」と声を掛けられました。
「君達は確か初めてだよな」
「はい」
「彼は君達より一年先輩の甲斐君だ」
「初めまして二年の甲斐真司です」
「私は……」
「今村さんだよね」
「はい、今村飛鳥です」
甲斐先輩は私の顔を見ながらニコリと笑顔を見せました。
「君は、斎藤さんだよね」
玲華は少しムッとしながら「如月玲華です」と答えた。
「私が斎藤瑞稀です」
「あ! ゴメンね如月さん。よろしくね」
甲斐先輩は頭を掻きながら玲華に謝っているけど玲華はムッとしたままでした。その後、北野さんと徳永さんも紹介され研究が始まります。
「今日は甲斐君が君達と一緒に実験をするからな」
すると青山部長が壇上に立ちました。週一回の活動日は恒例のようです。
「みなさん、今日は最初に新入部員の紹介をします。一年生は前にお願いします」
私達は部長の横に並びました。
「では紹介します。左から四組の今村飛鳥さん、斎藤瑞稀さん、如月玲華さん、二組の北野史華さんと徳永彩乃さんです。あと一組の永山遥香さんは今日は欠席みたいです。それでは次に但馬班紹介をお願いします」
すると男子部員が立ちました。
「私達の班はソーラーカーの研究をしています。実物大では無いですけど…… メンバーはすべて二年の中山、広重と私、但馬です。よろしくお願いします」
「次、中島班お願いします」
「はい、私達は風力発電を研究しています。メンバーは大島、矢部と私、中島それと長野先輩に手伝ってもらってます。よろしくお願いします」
紹介も終わり各班研究が始まりました。
「それじゃ始めようか」
「はい」
「まず、分離しているバイオディーゼルを別の容器に取り出そう、これから精製するからね」
「この底に残った茶色いのは?」
珍しく北野さんが質問しました。
「これはグリセリンだよ石鹸の材料になるけど…… これはちょっとね」
甲斐先輩は取り出したバイオディーゼルに水を入れました。
「え! そのまま水を入れるんですか?」
「そうだよ、そして撹拌すると不純物が水に溶けて沈澱するんだ。ほら、下の方に白い物が溜まって来てるでしょう。これが不純物だよ」
私達五人は甲斐先輩の行動をずっと見ていました。
「不純物を取り除いて終わりですか?」
瑞稀が訊くと先輩は「そうだけど一回じゃ取れないから何回かやって分離した水の部分が透明になったら不純物が取れたことになるんだ」
「結構時間が掛かるんですね」
「まあ、研究なんてそんなもんだろう」
私達は沈澱するのを待っている間にもう一度、エステル反応させてバイオディーゼルを作ることにしました。
「手際がいいね」
甲斐先輩に言われちょっとだけ機嫌が良い私です。そのとき北野さんがいきなり言いました。
「あの、私達は石鹸を作っても良いですか?」
「なに、どうしたの?」
北野さんはちょっと俯き加減で「私と彩乃は永山さんに誘われてバイオディーゼル研究に割り込みましたけど、やっぱり自分の研究をするのが楽しいと思って……」
北野さんと徳永さんはやっぱりずっと考えていたんだね。
「それじゃ、あなた達二人だけでは厳しいでしょうから私が手伝うわね」
青山部長が石鹸研究の手伝いに入りました。なんか良いな、うちの研究は日替わりの手伝いなのに……
「飛鳥! なにボーッとしてるの」
「え!なに」
「撹拌はそれくらいでいいんじゃない?」
わたしはナトリウムメトキシドに油を加えた物をこれでもかというくらい撹拌し、かなり泡立たせていました。
「あーあっ、こんなに混ぜちゃって」
瑞稀からは溜息をつかれ玲華からは「なにやってるの! さっきからもういいよって言ってるのに」と心配された。
「ごめん、これもう駄目かな?」
「いや、たぶん大丈夫じゃないかな、それで水分が出る訳でもないから」
甲斐先輩は平然と言ってくれました。
「ところで甲斐先輩は研究は何もしてないんですか?」
瑞稀が興味本位で訊いています。私もちょっとだけ気になるところです。
「僕の研究は消えないシャボン玉を作ることだよ」
「消えないシャボン玉?」
私達三人はちょっと驚きました。
「そんなこと出来るんですか?」
私は不思議に思いました。
「出来るよ!」
「でも、それはそれで出来たシャボン玉の処分に困るわね」
玲華らしい意見だと私は思いました。
「あ、いや、例えが悪かったね。正確には消えにくいシャボン玉と言うべきかな」
「どうしたらそんなこと出来るんですか?」
私は興味津々です。先輩はそんな私の顔を見たあと微笑みながら言いました。
「そうだな、僕とデートしてくれたら教えてあげるよ」
えっ! デート? 玲華も瑞稀も目を見開いて驚いている。
「ちょっと甲斐君、部活中にナンパしないのよ」
「甲斐、おまえそんなに飢えてんの?」
先生と部長からおもいっきり突っ込まれています。
「あ、いや、すみません」
甲斐先輩は恥ずかしそうに俯いています。
「今村さん、ごめんなさいね甲斐君は偶に変なこと言うのよ。シャボン玉の研究とかロマンチックなことやってるくせに……」
この人は本気でそう言ってるのかしら? 私のことはたぶん知らないんだろうけど…… でも、男性恐怖症の私にはとても無理な話だ。玲華や瑞稀が一緒にいてくれるなら…… いや、その前に私はこんなんだけれど戸籍上はまだ男なのだから…… やっぱり無理だ。
「あ! ごめん、冗談だからね」
甲斐先輩は誤魔化しました。そこで話は終わってしまい、消えないシャボン玉の正体も分からず仕舞いでした。
部活が終わり雨が降るなか傘をさし三人でバスを待っています。
「甲斐先輩、本気だったのかな」
瑞稀が恐ろしいことを言い出しました。
「あの人、意外と飛鳥のこと本当に好きなんじゃない」
「玲華、やめてよ」
「だって飛鳥は女子の私から見ても可愛いと思うもの! GIDだという事を黙っていればね」
私は焦りと恥ずかしさから「私、そんなに可愛くないよ」と言ったけど二人は聞いていません。
「でも、甲斐先輩には飛鳥のこと教えてあげた方が良いんじゃない」
「うーん、そうだけど……」
玲華が珍しく私のことで考えてくれています。
「でも、黙っていた方が面白いかもよ」
「あんた達ね!……」
玲華も瑞稀も私のことを楽しんでいるみたいでした。
「ねえ、あの人永山さんじゃない」
学校の校門を出て傘をさしてこっちに歩いて来ます。玲華が話し掛けました。
「ねえ永山さん、どうして今日来なかったの?」
彼女は私達を見るなり「あ、私、化学部辞めたから」と平然と言いました。
「私、コンピュータ部に入ったから」
そう言って彼女は私達の前を通り過ぎて行きました。
「それじゃ北野さんと徳永さんが可哀想だよね」
玲華は永山さんに聞こえるように言いましたが彼女はそのまま行ってしまいました。
「あの娘、何様のつもりかしら」
玲華は帰りのバスの中でもグチグチ言っていました。本当にあの娘はトラブルメーカーだ。それより私は甲斐先輩のことが気になります。本当に冗談だったのかしら……
なんとか2度目の実験は成功しましたが、そのあとが続きません。それに加えて甲斐先輩のあの言葉は本当に冗談だったのか……




