12 化学部ハプニング
お待たせしました。12話を投稿しました。いよいよ実験が始まりますが、なかなか簡単では無いようです。
私達のバイオディーゼル研究は、昨日薬品が一部無かったため出鼻を挫かれたような感じだったが材料の天ぷら油も全然足りなかったので結局は材料準備の日ということで一応今日からが本番です。
翌朝、化学室へ行くと古澤先生が薬品庫の整理をしていました。
「おはようございます」
「おはよう、今村。昨日は済まなかったな」
「いえ、天ぷら油も足らなかったので持って来ました。ここに置いてていいですか」
「ああ、そこで良いよ。それと水酸化ナトリウムとメタノールも多めに購入出来たから今日から研究出来るからな」
「はい、ありがとうございます」
そう言って私は化学室を後にして教室へ向かいました。そこでは玲華と瑞稀が何やら話をしています。
「おはよう!」
「あれ、飛鳥遅かったね」
「うん、化学室に行っていたから」
「化学室で何してたの?」
玲華が不審そうに訊きます。
「使用済みの天ぷら油を持って来たから」
「そうか、必要だよね。私も明日持って来ようかな」
「天ぷら油とか取ってあるの?」
「うん、たぶんお手伝いさんに言えば出してくれると思うから」
「お手伝いさん?」
瑞稀が不思議そうな顔をしています。
「前に言ったでしょう。家は病院だからって…… だから料理とかはお手伝いさんがやるの」
「玲華ってお嬢様なの?」
「瑞稀、本気で言ってるんなら怒るよ」
どうやらそこは、玲華にとってあまり触れて欲しくないとこなのだろう。
放課後、化学室では古澤先生が準備をしていました。
「お疲れ様です」
そう言って化学室へ入ると「みんなそろったかな?」と声を掛けられました。
「いえ、もう一人がまだです」
私と玲華は化学室に来ていましたが瑞稀がまだです。
「あれ、瑞稀は? さっきまで一緒だったのに全くどこに行ったのかしら」
そのあと瑞稀が遅れて化学室へ来ました。
「どこ行ってたの?」
「ごめん、ちょっと……」
「それじゃ始めるぞ、まず、保護メガネとマスク、手袋を必ずすること。エステル交換反応はそんなに難しくはないが、間違ったやり方をすると危険だからな」
古澤先生はそう言うと私が持って来た天ぷら油を温め始めました。温められた油はサラサラになり、これをフィルターで濾していきます。
「廃油は天ぷらのカスとかがあるからきちんと濾さないと駄目だからな」
今度は大きめのビーカーにメタノール200ミリリットルを入れ、そこに苛性ソーダ7グラムを入れてかき混ぜますがなかなか溶けてくれません。そこで予め準備していたガラス瓶に溶液を入れ直し蓋をしてから激しく振り始めました。
「こうした方が簡単に溶けてくれる。この溶液をナトリウムメトキシドという」
ナトリウムメトキシドをビーカーに戻し温めながら少しずつ温めた廃油を混ぜていきます。
「今村、ハンドミキサーで混ぜてもらっていいか」
「はい」
「如月は温度を確認してくれ大体55度位を目安に、64度は超えないようにしてくれ、メタノールの沸点が64.5度だから……」
「はい」
「それと斎藤、君は記録を取ってくれ、それがあればあとで原因究明が出来るからな」
そう言ってる間に廃油を入れ終わり、あとは私がハンドミキサーでよく撹拌します。茶色の廃油が少しずつ色が薄くなってきました。
「よし、それくらいでいいかな、あとは分離するのを待つだけだ」
「これで終わりですか?」
瑞稀が古澤先生に尋ねると「うん、分離するのに時間が掛かるから、うまく反応してくれればバイオディーゼルとグリセリンに分離してるはずたから」と教えてくれました。
「それじゃ明日の朝に結果を見るから」
そして、後片付けをして部活は終わりました。
「明日が楽しみだね」
その日の夕方メールが来ています。誰だろうと宛名を見ると白衣の天使と書いてあります。内容は『受験が終わってから来てないね! 忙しい? 今日ちょっと来てもらって良いかな?』とありました。どうやら美彩先生みたいだと思い帰りにクリニックへ行くことにしました。
「こんばんは!」
私が入って行くと「いらっしゃい。秀一さん飛鳥さん来ましたよ」と声を掛けています。
「やあ飛鳥君、会えて良かったよ。治療はいつ来るのかと思っていたから」
「あっ!」
私は研究のことで治療のことをすっかり忘れていました。
「すみません。ここのところクラブ活動に夢中になっていたので……」
「クラブ活動? 何部に入ったの?」
「化学部です」
「そうなんだ! あっ、とりあえず診察室にいいかな」
「えっ! 診察?」
「もうとっくに二週間過ぎてるからね今回は特別にここで治療するから」
「いいんですか?」
「今回は特別だからね」
「はい、ありがとうございます。でもここで治療出来たらとても良いんですけどね」
上杉先生は苦笑しながら「今回だけの特別だからね」と強調されてしまった。
「ところで化学部で何やってるの?」
「今、バイオディーゼルを作っているんですよ」
「そりゃ凄いね」
「ねえ、バイオディーゼルってなに?」
上杉先生は分かってるみたいだけど美彩先生は分からないよね。
「バイオディーゼルはディーゼルエンジンの代替燃料だよ」
上杉先生が説明してくれた。
「それって軽油の代わりになるの?」
「はい、使用済の天ぷら油で作るんです」
「それってエコで凄く良いじゃない。秀一さんのトレイルブレイザーに使えるのかな」
「おいおい、僕の車はガソリンだから」
ひょっとして美彩先生はバイオディーゼルを使ってみたいのかな……
「飛鳥君、身体の異常は無いよね。例えばちょっと体が怠いとか、目眩がするとか、胸が苦しいとか……」
「いえ、そういうのはありません」
上杉先生は私の表情を確認しながら一応問診的なことをしました。
「うん、それじゃ大丈夫かな。次回は大学病院で検査をするからね」
「はい、ありがとうございます」
これで治療は終わりました。
「それで、バイオディーゼルはどれくらい作ってるの?」
「まだ始めたばかりで今日エステル反応させたから上手くいけば明日の朝には分離出来てると思うので確認するんですけどね」
「そうか、それじゃまだテスト段階だね」
「はい」
「でも、応用として石鹸とかも出来るんじゃないかな?」
「そうですね、まだそこまで余裕がないのでいずれはやってみたいですね」
やっぱり上杉先生や美彩先生と話が出来るととても気持ちが和みます。
「ところで美彩先生、白衣の天使ってなんか良いですね」
「あ! それは……」
美彩先生は、ちょっと照れています。
「なんだい、それ」
「あ、なんでも無いのよ」
「誰からのメールか分からなかったから……」
「なんだ、メアドの話ね」
上杉先生も笑顔で美彩先生を見ています。
「もういい加減にやめて!」
美彩先生は顔を赤くして照れていました。
翌朝、もうすぐ学校の校門というところで玲華から電話があった。
「玲華、どうしたの?」
「飛鳥、今どこ?」
「学校の校門だけど」
「すぐに化学室に来て、大変だから」
玲華の慌て振りから私は急いで化学室へ行きました。
「玲華! どうしたの?」
「これを見てよ!」
そこには昨日エステル交換反応させたビーカーがあります。その中にはドロドロとした物質がありました。それを見て私は絶句しました。
「おはよ! どうしたの?」
このタイミングで瑞稀が来ました。ビーカーを見て手を口元にあてて驚いています。
「なにこれ!」
「おう、おはよう! みんな早いな」
古澤先生が入って来ました。
「先生、これってなんですか?」
玲華が気持ち悪そうに先生に訊きました。
「ああ、ケン化しちゃったか」
先生はちょっと残念そうに言いました。
「ケン化! ですか?」
「うん、エステル交換反応が上手く出来て無かったようだな」
「このドロドロはなんですか?」
瑞稀は相変わらず口元に手をあてたまま訊いています。
「これは石鹸だよ。固まらずにドロドロ状態だけど……」
「何故、こんなことになったんですか?」
「たぶん、天ぷら油に水分が含まれていたか、苛性ソーダが水分をより早く吸収したかだろうね。まあ、どっちにしても失敗だ!」
「天ぷら油に水分が溶け込んでいるんですか?」
「いや、そうじゃなくて水分の層を油が包み込んでいるんだよ。どっちにしても水分を飛ばさないと駄目だろうね」
私達が項垂れていると先生は「こんなことで落ち込んでいると先がおもいやられるな! 化学には失敗はつきものだ。放課後またやり直そう」
そして、私達は教室へ行きました。先生の言う通り化学に失敗はつきものだとは分かってはいるけど…… まさか、最初からこうなるとは…… それだけ期待していたのかも知れません。
放課後、もう一度やり直すため化学室へ行きました。すると私達と同じ新入生がいました。永山遥香、北野史華、徳永彩乃の三人です。
「実験をしてるなら何故呼んでくれないんですか?」
三人とも不快な顔をしながら言って来ました。
「何言ってるの? この研究は私達三人で顧問の古澤先生と青山部長に許可をもらって始めたの。あなた達もやりたいなら自分達で研究材料を探してやりなさいよ」
玲華はそう言って彼女達を受け入れようとはしませんでした。
「何故よ、同じ化学部でしょう一緒にやっても良いじゃない。それに一組の私がいた方がいろいろと良いんじゃない」
永山遥香は何が言いたいのか信じられない挑発をして来た。私はそのことに嫌味さえ感じたが、私の横で顔色を変えながら耐えている玲華を見て、ここはひとまず一緒にやってみても良いかと思いました。一組の生徒がどれだけのものかお手並拝見というところだ。
「わかったわ、そこまで言うのなら一緒にやっても良いわよ」
「ちょっと飛鳥! 何言ってるのよ」
「そっちの彼女は話が早そうね」
そう言われたとき玲華の怒りはピークに達していた。
「おまえ達、まさかこの研究を乗っ取るつもりじゃないだろうな」
副部長の長野先輩が変なことを言ってきました。私はそれを聞いて怒りを覚えましたがこの人達にいったい何が出来るのかと思いました。
「どういうつもりか知らないけど足だけは引っ張らないでね」
その時の私の顔は今までに見たことも無いくらい恐ろしかったと後で玲華から聞きちょっとだけ恥ずかしかったです。
その空気の悪いなか瑞稀が遅れてやって来ました。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「瑞稀、今日から一緒に研究することになった一組の永山さん、二組の北野さん、徳永さんよ」
その雰囲気の悪いのを流石の瑞稀も感じたみたいでした。
「玲華、なんかあったの?」
「瑞稀、ひょっとして飛鳥って怒らせたらいけない人?」
「なんで?」
瑞稀のこのひと言が私達の心を和ませてくれた気がしました。
そして、私達は実験に取り掛かりました。副部長の長野英一先輩の立会で行います。
「それじゃまず廃油の水分を取り除こうか」
「それじゃ永山さんそっちお願いしていい? 私はナトリウムメトキシドを作るから」
永山さんはどうしたらいいのか分からずに迷っています。
「永山どうした、早くしろよ一組なんだろう」
長野先輩はちょっと嫌味っぽく言っています。
「永山さん廃油を100度まで温めて軽くかき混ぜながら水分を飛ばしてもらっていい」
「ちょっと、100度って危ないでしょう!」
私達は彼女の言葉に呆気にとられました。
「永山、天ぷら油を100度に熱したからってなんとも無いよ。それに天ぷら揚げるときは180度位まで熱するだろうおまえ料理とかしないの」
長野先輩はニヤニヤ笑いながら言いました。永山さんは少し恥ずかしそうに作業をしてましたけど、そういえば私も料理らしいことはしたことないかな…… 瑞稀は料理とかするのかな……
「今村、こっちの方はそろそろいいぞ」
「え! あ、はい、それじゃまず油を濾して温度が60度くらいまで下がったら混ぜていきます」
私は準備したナトリウムメトキシドをビーカーに入れ少しずつ温めていきます。
「60度まで下がったよ」
玲華が温度をチェックしていてくれた。いろいろ言ってたわりに永山さん達はあてに出来ないと思いました。
「飛鳥、油を入れていくけど良い?」
私はハンドミキサーを準備しながら「玲華良いよ。北野さん温度をチェックしてもらっていい?」
北野さんは、あたふたしながら温度計を手にして何をして良いのか分かっていません。
「北野さんこのビーカーの液の温度をチェックするの60度以下だからね」
私がそう言ったあと玲華は難しい顔をしながら油を少しずつ注ぎ入れます。それを私が撹拌し、北野さんが温度を測ります。
「入れ終わったよ」
「北野さん温度は?」
「56度です」
「分かった。ありがとう」
あとは私がきちんと撹拌出来れば終わりです。
「そろそろ良いんじゃないか」
長野先輩が混ぜ終わったビーカーをチェックしています。昨日と比べて違ったところはありません。という事は今回も失敗!?
「色がほんの少し薄くなったかな」
私と玲華と瑞稀は不安な気持ちを隠しながら後片付けをしました。
「あの、これを作っていたんですか?」
永山さん達がそう訊いています。
「永山、これはまだ途中だよ。分離、沈澱させて成功してればバイオディーゼルとグリセリンに分かれているはずだから、明日の朝にな」
長野先輩が説明したその時、古澤先生が化学室に来ました。
「長野どうだ、上手くいきそうか?」
「はい、今度は大丈夫だと思います」
先生は微笑みながら「今村、成功するといいな」と言ってくれました。
「あれ、永山なんでおまえ達がいるんだ?」
「あっ、それは……」
「私達の研究を一緒にやりたいということでしたので」
私は玲華や瑞稀の顔を見ながら言いました。しかし、先生は一言「一緒にね……」と呟いています。
「永山、分かってるよな……」
「はい」
そう言って永山さん達は黙り込んでしまいました。
「明日は活動日だから二年のソーラー組と風力組も来るな」
「ソーラーと風力って発電してるんですか?」
「うん、ちょっと微妙だけどな」
古澤先生は微笑みながら言いました。長野先輩は私達が作ったバイオディーゼルが気になるみたいでずっとビーカーを見ています。
「長野先輩は何の研究をしているんですか?」
私は気になって訊きましたが先輩は……
「俺は二年の風力発電を手伝ってるよ、もう前期が終われば引退だしな」
長野先輩はちょっとだけ寂しそうに見えました。
最初から失敗してしまいました。果たして今後どうなることか……
この実験に詳しい人は、ちょっと気になることもあると思いますが、フィクションですのでそこも含めてお楽しみください。




