1 制服
あまり文章は上手ではありませんが、リアルでコミカルな物語にしたいと思います。どうかよろしくお願いします。
私は四月から幼稚園に行きます。今日は幼稚園に制服のサイズを測りに行くことになっていて今から楽しみです。
「飛鳥、幼稚園に行くよ」
「はーい」
私は元気いっぱいに返事をして母と一緒に幼稚園に行きました。
「はーい女の子はこっちにお願いします」
「男の子はこっちでーす」
私は男の子の方に行きましたがそこには私が望む制服がありません。
「飛鳥君これを履いてみて」
手渡されたのは半ズボンでした。
「嫌、私スカートがいい」
幼稚園の先生達は私の言葉を聞いて呆然としていました。
「飛鳥君は男の子だからスカートは可笑しいよ」
先生達は苦笑しています。
「でも半ズボンは可愛くないもん」
幼稚園の先生達は困り顔で何度となく説得しますが私は納得出来ませんでした。その状況を奥の方で黙って見ている先生がいます。母は困り果て恥ずかしそうに私の手を引きました。
「飛鳥、男の子は半ズボンに決まっているのよ」
母からそう言われて私は頬を膨らませて……
「それじゃ私、幼稚園行かない!」
私は我がままを言ってしまいました。でも、本当に半ズボンは嫌なんです。
そのとき、奥で黙って見ていた先生から声を掛けられました。
「お母さんちょっといいですか?」
声を掛けて来た人は園長の篠宮先生です。私と母は園長室に呼ばれました。
「あのー、すみません。うちの子が我がままを言って」
「お母さん、あまり無理をさせない方が良いかもしれません」
園長先生は真面目な顔で言いました。
「でも、飛鳥は男の子ですので……」
園長先生は、母の言葉を手で制して話始めました。
「私が園長になる前に同じようなことがありました。あのときは女の子でしたが男の子の制服を着たいと駄々を捏ねていました。でもその子は無理やり女の子の制服を着せられて、その後幼稚園に来なくなってしまいました」
母はその話を聞いて困惑しました。
「あの、それがうちの子と関係があるんでしょうか?」
「ええ、あとで分かったことなんですがその子は病気だったそうです。身体は女の子なんですけど心は男の子だったそうです。詳しいことは分かりませんが飛鳥君も一度病院に相談された方がいいかもしれません。大きなお世話かも知れませんが折角入園してもらって幼稚園に来なくなってしまわれても困りますので……」
「飛鳥も病気だということですか?」
母の表情は一段と硬くなりました。
「それは分かりませんけどあまりにも以前と同じような状況でしたので……」
「それでその子は何処の病院へ行かれたんですか?」
園長先生は言い辛そうにちょっと俯いていますけど……
「あの、北山大学病院精神科の上杉先生に相談されるといいと思います」
園長先生にそう言われ母はびっくりしたように反論しました。
「せ、精神科ってうちの子は頭に異常はないんですよ」
「あ、お母さん勘違いしないでください精神科というところは心のケアをするところだと聞いています。今はストレスとかで悩んでいる人が多いそうです上杉先生は私もよく知っていますし、さっき話した女の子の主治医だった方ですので」
その後も園長先生と母は話を続けていましたが段々母の表情は暗くなっていきました。
その日の夜、母は幼稚園での出来事を父に話しています。父はかなり驚いていました。
「飛鳥がそんなことになってるなんて…… とにかく一度病院に相談した方がいいのかも知れないなあ、問題が無ければそれで安心出来る訳だし」
「でも、本当にそういう病気があるのかしら?」
母は、不安で仕方が無かったようです。当時の私はことの重大さが分かっていなかったので父も母もなにを大袈裟に思っているんだろう病院なんて私は熱もないし何処か痛い訳でもないのに、それに病院は注射があるので行きたくありません。大体なんであんなのがあるんだろうお薬で充分なのにと思いました。しかし、あの頃はまだ嫌いな注射を待ち遠しく思うようになるなど考えもしませんでした。勿論まだ先の話ですけど……
翌日、私は母と一緒に病院へ行きました。かなり大きな病院です。私と母は受付をしてから待合室へ行くと沢山の患者さんで溢れていました。しばらくすると私の名前を呼ぶ声がします。
「今村飛鳥君1番へどうぞ」
看護師さんが手を挙げて私のことを探しています。
「はい」
私は返事をして答えました。
「今村さんですか、こちらへどうぞ」
私は注射を打たれるのではと気が気でなりません。そう不安に思いながら診察室へ入って行くとそこには三十代くらいの若い先生がいました。
「初めまして、精神科の上杉秀一と申します」
先生は丁寧に挨拶をしてくれました。
「幼稚園の園長先生からある程度の話は聞いていますけど、もう少し詳しく訊きたいのでこちらにお願いします」
私は先生に言われた通り椅子に座りました。しかし不安と緊張で身体が硬直しています。
「先生、注射はしないよね?」
そんな私を見て先生はにっこり笑いました。
「飛鳥君大丈夫しないよ。先生はね、注射が下手なんだよ」
先生のその言葉を聞いて私は安心しました。
「やっと笑顔を見せてくれたね」
そう言って先生は二種類のステッカーを机の中から取り出しました。ひとつはスーパーライダーのステッカーで、もうひとつは魔法少女プリティのステッカーです。
「飛鳥君はどっちのステッカーが好きかな?」
先生に訊かれて私は迷わず……
「こっち!」
そう言って魔法少女プリティのステッカーを指差しました。
「あれ、飛鳥君はスーパーライダーのステッカーじゃなくていいの? こっちの方がカッコいいだろう」
先生はそう言いましたけど……
「プリティの方が可愛いよ」
私はそう答えました。先生は私の言葉を聞いた後プリティのステッカーを手渡し少し考えたような表情をしました。
「先生ありがとう」
その時の私は、とっても嬉しそうに笑顔で微笑んでいたそうです。
「それじゃ今度は幼稚園のことを教えてもらおうかな」
「うん、いいよ」
私はプリティのステッカーを眺めながら嬉しそうに答えました。
「幼稚園の制服は女の子用の方が良いって聞いたんだけどそうなの?」
「スカートの方がいいの、だってその方が可愛いもん」
「そうか、幼稚園の制服ってどんなのかな」
「うーんとね、上着はみんな一緒なんだけど女の子はタータンチェックのスカートなの可愛いんだよ」
「そうなんだ、タータンチェックなんて知っているんだね」
「うん」
「それじゃ色は何色が好きかな?」
そのとき私は目の色を輝かせながら……
「ピンク!」
真っ先そう答えました。上杉先生はちょっと圧倒されながら「他に好きな色は?」と訊きました。
「うーん、赤とかオレンジかな…… でも、やっぱりピンクが一番好き!」
先生はかなり難しい表情をしていました。
「それではお母さんこちらにお願いします」
今度は母が先生に呼ばれました。
「飛鳥君はこっちで遊んでいようか」
私は看護師さんに誘われたので一緒に遊んで母を待つことにしました。
「お母さん、飛鳥君はやっぱり性同一性障害の疑いがあります。ただ、まだ幼いので断定することは出来ません。ひょっとしたら女の子の服装とかピンク色が好きなだけかもしれません。それに性同一性障害と認定するには他にも検査が必要になりますし二人の医師が認定しなければなりません」
「それでは、どうしたらいいでしょうか?」
母は不安で仕方がありませんでした。
「飛鳥君は経過観察ということにします」
「あの、幼稚園の制服はどうしたらいいでしょうか」
「そうですね、女の子の制服にしておいた方がいいかもしれませんね、無理に拒んだりしたら違う症状が出る場合があるかも知れませんので」
「あの、違う症状というのは……」
「例えば登校拒否とか引きこもりです。ひどくなると別の人格を作り出して多重人格障害になることもあるかもしれません」
「もし、先生が言う病気だった場合治りますか?」
「…… これは、病気というよりは障害と言った方がいいかもしれません。身体は男の子ですが精神的には、いや内面的には女の子なんです。なんらかの障害があって先天的にそうなってしまっています。しかしこの病の原因はまだ分からないことが多いんですよ。ですからこの病気は一生つき合っていかなくてはいけません。飛鳥君のような子をMTFといいます。治療としてはホルモン療法がありますが年齢制限があって条件付で十五歳からでないと治療が出来ません。その後希望によって豊胸手術とか性別適合手術をすることも出来ますがそのためには認定を受けなければなりません」
「女の子として生きるということですか……」
「はい、しかしこの事はあまり考え過ぎない方がいいでしょう。これは彼の個性だと思って下さい。もう少し時間が経てば彼の考えが分かってくると思います。診断はその時改めて判断します」
その後、私達は病院を後にしました。母の表情は硬く悲しそうです。その反面、私は幼稚園の制服が女の子用になりスカートを履くことが出来て上機嫌でした。
「飛鳥可愛いじゃない」
「でしょう!」
姉は何気なく言ったつもりだったけど母はそれが気に入らなかったのか……
「可愛くなんかありません! なんでこんな事になったのかしら……」
相変わらず悲しいそうな顔をしています。
「しょうがないでしょう。そうなったんだから」
「……」
母は黙り込んでしまいましたが三つ上の姉は私と一緒にお洒落が出来るかも知れないと嬉しそうでした。
これから幼稚園、小学生と成長していく様子を書いていきます。よろしくお願いします。