たとえば私は彼女をお話の中でよみがえらせることが出来る。
たとえば私は彼女をお話の中でよみがえらせることが出来る。
週末にスケートをして遊ぶことが出来るし、二人でデザインしたステンドグラスを実際にスケートシューズのブレードの曲線だけで表現することだって出来る。
月面のように灰色に濁った氷の上をどうやって撮影しているかを誰かに聞かれてもそれは秘密だからと答えることだって出来る。
私は彼女の良き友人の一人としてそう話すのだ。あるいは彼女の葬儀で他の参列者にそう話し、彼らの頭の中に思い描いてもらうため、そう語ることだって出来るのだ。
「週末になったら、いつものように私たちはスケートしに行く約束をしていました」
でも実際にはそうしなかった。
私はそれほど勇敢ではなかった。何も子供だったから、というそんな単純明快な理由などではない。
私は彼女のことを夢見るぐらいしか出来なかったのだ。双葉さんと一緒に参列し、彼女の死を悼む。それだけで精一杯というより、それ以外に出来ることが思い浮かばなかった。
とはいえ私がもう少し勇敢であれば、彼女の両親を励ましたり、彼女の友人たちをより前向きにしたりすることで、そのこわばっていく表情を和らげられただろう。
それはあまりにも急にやってきた別れであるが故に、他のクラスメイトから急転した話として聞かされたが故に、私は彼女の死を上手く捉えられることが出来なかったのだ。
彼女のことをすごく友達だと思っていたのに、ほとんど交流のないクラスメイトが担任の先生と彼女の両親が話をしていたのを聞いていたのだ。
「あの子死んじゃったの、知っている?」
「そうなんだ」私が何も言い返さないのを見て、その子は私を慰めてくれた。そう聞いたら落ち込むのも無理はないよねと言って慰めてくれた。私はそれに対してうん、ありがとうありがとうと返した。
どうしてこういうときに限って、私は相手の気使いや優しさよりも自分の感情がどこにあるか見つけられないことを優先するのだろう。
でもそれは私が自惚れているだけだった。私はその穴に入って引きこもっていた。あるいはモグラ男がいるかもしれないその穴の中に。
本当なら今にでもその穴から駆け抜けてそのことに対して誰かに何かを聞いてそれがどんなに酷いことかを聞くべきだったのだ。
「酷いってどうしてそうなったのかわからないってことだよね」
「本当に酷いね」クローゼット探偵メロディ=アリスはそう言った。
「だからあんたさ、そこにはモグラ男がいるんだって。早くその穴から出てきなさいよ」
確かにもう出て行くべき頃合だった。
引きこもっている場合じゃない。
しかしどうやって私がその穴から上がっていったのかはわからない。梯子もないのにどうやって上がったのか。あるいは踊ったのかもしれない。天使のようにそれは優雅に。
それなら私が踏み出したステップを誰かに見せられればいいのに。そうすれば誰かが穴に落ちたときに、こうすればいいでしょって胸を張って言える。
私が本当に言いたかったことはもしかしたらこのことだったのかもしれない。