4/9
004 吾輩、再び
吾輩、艶ある木の剣である。
呼び方がおかしい? 語呂は悪くないと思うし、誰が呼ぶわけでもなし、吾輩、これでいいのである。
何はともあれ、吾輩、迷宮に再び戻ってきたのである。
どれほど時間がたっただろうか、木の剣であった頃より探索者の目を引くようになったように思う。
目を引くようになっただけでなく、拾われることもしばしばである。
そう、しばしば拾われるということは、また捨てられるということでもある。
拾われるならともかく、たまに剣先に引っ掛けて持ち上げ、軽く確認してそのまま落とす、などという不作法な者もいる。
吾輩が金属ならば、お互いに傷がつくであろうに。 吾輩、傷ついてなどいない。
そうこうしているうちに、またも吾輩を持ち上げる者が現れた。
初級、いや、探索者とは呼べない、貧相な装備をした者だ。
おそらく、たまに現れる見習い探索者とでもいうものだろう。
浅い階層でのみ探索者について歩き、雑務をこなし、より深い階層を目指す探索者には不要なものを拾うことで収入を得るのだ。
そんな見習い探索者に吾輩、拾われたのである。