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003 吾輩、折れた
吾輩、剣である。
よって、意識なるものがあるのかはわからないが、気が付いたときに見えてきたのはいつもの迷宮である。
吾輩をスライムに突っ込み、ウサギの頭でたたき折った初級探索者の姿はもうない。
ただでさえほっておかれていた木の剣、それがさらに溶けて折れてしまったのだ、捨てていくのも当然である。 吾輩、悲しくなどない。 当然、ない。
だがしかし、今の吾輩の姿を見てほしい。
持ち手部分にはなにがしかの動物の革が不格好ながら巻き付けられている。
刀身は油を塗ったかのように艶やかで、その形も先端がとがり、扁平になっており、シルエットだけでもしっかりとした剣に見える。 吾輩、元から剣である。
そう、吾輩、生まれ変わったのである。
なぜかは知らぬが、一度折れた吾輩はいつの間にやら姿が変わっていたのである。
いうならば、吾輩、艶ある木の剣である。