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 慣れない道をたどったことで、予定より少し時間はかかってしまったが無事に目的のネットカフェに到着することができた。既に多くのゲーマーが出入りしており、時折人が集まっている理由を知らない通行人が店内の中をそっとうかがっている。

「いっぱいいるね」

 想像以上の人混みに愛梨は少し顔が引きつり気味だ。そしてそれは志軌も同じで、いかに由夢たちが人気あるとしてもこれだけの人数は想定外だった。

「なんでこんなに……って、ああ……そういうことか」

 その理由を探ろうと店内を探っていた志軌だがすぐにその理由が判明した。今日イベントを行う予定の由夢たち以外のプロゲーマーがきているのだ。店内に見えたのは少し前に由夢と愛梨が話題に上げていた中学生のプロゲーマーや、その恋人であり所属するチームは違うものの同じくプロゲーマーである女子高校生だった。

 プロゲーマーではあるものの、まだ年相応にあどけない顔立ちをした少年ということで、母性本能をくすぐられるのか周囲に女性が集まっていて、それを見た彼女の方がむすっとむくれた表情で視線を送っているのが何とも微笑ましい光景だ。

 彼女である女子高生の方も顔立ちが整っていて、スタイルもいい。そんな彼女がいて中学生でプロゲーマーという立場は嫉妬の目で見られそうなものだが、あるエピソードのおかげか彼らは暖かく見守られていた。

「そういえば知ってるか? インタビュー告白」

「知ってるわよ。当然でしょ」

 インタビュー告白――それはまだ二人が付き合う前、彼女の方がまだプロゲーマーになっておらず、プロになれるかなれないかをかけた試合で無事に勝てた後に行われたインタビューでの内容からそう言われている。支障なくインタビューに答えていた彼女が最後に何か一言と言われ、答えた内容が少年への告白だった。

 ネット上でその様子は生中継されていて、当時それを見ていた人たちは度肝を抜かれた。事前に告白の内容は決めていたらしく、恥かしさに顔を真っ赤に染めながらもしっかりと想いを告げ、またその場に対戦相手として居た少年もしっかりとそれを受け止めて無事に恋人同士になる瞬間が全国に流れた。

 そのため二人のことは暖かく見守ろうというのがファンたちの中で勝手に結ばれた約束ごとだった。

「あの二人は心配しないで応援出来るな。最近は問題を起こして辞めていくプロゲーマーも多いし」

 ここ数年でe-sprotsを日本でも広めようという傾向が増えてきている。その一環なのかプロゲーマーの人数を増やそうとしているように志軌は感じていた。そのこと自体は賛成なのだが、一方で性格に難のあるプレイヤーが、プロゲーマーになってしまうということが見られるようになってきていた。

 SNS上で問題を起こしたり、ファンへの対応が突拍子もなかったりネットで炎上騒ぎになり、結果プロゲーマーとしての資格を失う者が少なからずいるのだ。実力は確かな者たちではあるのだが、それだけでプロゲーマーを続けていける訳ではない。スポンサーについている企業の目的は自社の宣伝にあり、益にならないプレイヤーのスポンサーを続ける理由はない。

 だがプロゲーマーとして問題を起こした場合、責任を取って引退すればそれで解決という訳ではない。周囲からはプロゲーマーが問題を起こしたという記憶が残るからだ。そうなればe-sprots全体のイメージが悪くなってしまう。未だにe-sprotsの文化が根付いておらず、偏見の目で見られやすい日本ではそれは避けるべきことだ。

 そういった中、宣伝塔として注目されているのがこの二人や、由夢たちだ。若い才能と確かな実力、そしてルックスや人受けのいい性格など話題性のあるためうってつけなのだ。

「しょうがないとこもあると思うけどね。今まで一般人として暮らしてたのにいきなりプロゲーマーになって人目に触れる機会が増えるんだもの、ミスしちゃうことだってあるよ」

「分からんでもないけど。でも、一度ついた印象を撤回するのは難しいからな……」

 その影響で将来有望だったプロゲーマーが去っていくのを志軌たちは幾度となく見てきた。実力は確かな者ばかりがそういった理由で去っていってしまうのはe-sprotsの発展を願う志軌たちには残念で仕方がない。

「辞めさせられる理由は分かるけど……こう、もやっとするよな」

 少し前の話だが、日本代表として活動しメジャー大会でもそれなりの結果を残していたプロゲーマーがファンとのやり取りの中で不祥事を起こし引退せざる負えなくなってしまったことがあった。その高い知名度がかえってやり直しをさせる機会を奪うこととなってしまったのだ。

 プレイヤーとして手本にする箇所が多いと思っていただけに、志軌はそれを未だに残念に思っている。

「そんなことより、これからイベント始まるんだからしっかりとやる気を出さないと」

 良くない感情にとらわれかけていた志軌を気遣って愛梨は声をかけた。これだけの人数だ、実力のある猛者も大勢いるだろう。

 そんな中、試合に集中しきれない状態で参加するのは無謀というものだ。

「ああ、そうだな」

 そんな話をしていると、店内の騒ぎ声が一層大きくなる。何事かと思いそちらに視線を向けると、数人の男女が姿を現したようだ。その中には由夢の姿もある。その一団は私服ではなく、プロゲーマーが大会などの時に着用するスポンサーの名前が入ったユニフォームを着ていた。その姿は圧倒的で独特の雰囲気がある。

 ゲーマーなら誰もが憧れる存在であるプロゲーマー。そんな中でも時の人である者たちが試合時の恰好で目の前にいるのだ、その場にいる誰もがテンション高く浮かれてしまうのも無理はない。

「すげえな」

 大会などでよく見る光景だが、実際に目にして初めて分かる圧倒されるほどの熱量と歓声に、志軌も愛梨もそれに飲み込まれてしまう。

「ええ……」

 二人ともにその光景を呆然と見つめる。目の前にいるプロゲーマーたちは、そんなファンたちに慣れた様子で手を振って声援に応えている。もっと多くの観客がいる大会でプレッシャーを感じながら試合をしているのだ。これぐらいの人数では物怖じすることはなく、むしろ楽しんでいるようですらあった。

「こうしてみると由夢ちゃん遠くに感じちゃうわね」

 今まで大会で活躍する由夢の姿を幾度と見てきた志軌たちだったが、実際に目のあたりにすると自分たちの知っている由夢がいなくなってしまったような印象を受けてしまう。昨日会話をしてそんなことは無いと知っているにもかかわらずだ。それだけ輝いて見えた。

 時折歓声に混じって海外へ移るという噂の真偽を確かめる声があがるが、由夢を含め誰もが明言することを避けていた。

 志軌と愛梨はそんな中、大会に参加するために受付へ行き参加表明をする。

 それから少し時間が経ち、スピーカーから声が流れる。

「それでは時間になりましたので、始めさせていただきます」

 ネットカフェのスタッフだろうか、イベント開始時間となったことを告げ集まったファンたちをまとめ始める。由夢たちは店の一番前に勢ぞろいし、しっかりとまとまって前方を向いているファンたちに笑みを見せる。

 そんな中、由夢がスタッフと一言二言話を交わした後驚いた表情をしながらもマイクを受け取り一歩前へと進み出る。

「こんにちはー!」

 マイクに声を乗せ笑顔で挨拶すると「由夢ちゃーん」「可愛いよー」などと声が上がる。まるでアイドルのような扱いを受ける由夢は少し困った様子。だがそれも無理のないことと言える。同じ服装であるからこそ、由夢の整った顔立ちが特に目立つのだ。同じように目を引く中学生プロゲーマーと女子プロゲーマーの二人は、この場では部外者のため脇の目立たない場所にいる。そのため全員の視線を由夢が独り占めしてしまっていた。

「えーっと、あはは、急にこんなことやってって言われて私今困ってるんだよね。打ち合わせだとリーダーがやるはずだったんだけどー……なんでか今急に私になっちゃって」

 そう言って由夢はリーダーと呼ぶ男性をジト目で睨みつけた。彼は、このプロチームで最年長でありプロゲーマー歴も一番長くまとめ役となっている人物だ。リハーサルまではこの人物が最初の挨拶をする予定だったのだが、唐突にスタッフにから代わりにお願いしますと言われてしまったのだ。

「こっちにお客さんはいないぞ由夢」

 そう言ってたしなめながらも頬が少し上がっているところを見ると、由夢が睨んでいた通りわざと行われたことのようだ。

「そんな若い子を虐めるようなことばっかりしてるから、いつまでたっても結婚できないんですよ」

 はめられた腹いせにリーダーが気にしていることを言うと、昔からのファンである人たちがそのことを笑う。リーダーも身振り手振りで大袈裟に反応し、観客を楽しませる。

「まったく。それじゃあ、気を取り直して今日のイベントの話でもしよっか」

 してやったりとにやけ顔のまま説明を始めた。

「んーと、まだ参加人数が確定してないから確かなことは言えないんだけど、多分この人数だと抽選になっちゃうかな。ごめんね、できたらみんな参加してほしいんだけど、そうもいかないんだ……あ、そうだ。リーダー」

 店内を見まわし、予想以上に集まってしまった現状を見て残念そうにしていた由夢だったが、いいことを思いついたとばかりに顔を輝かしてリーダーの元へと向かう。

「なんだ急に……って……あぁ……まあ、それぐらいなら。お前らもいいだろ?」

 チーム全体で何かを話し合っているようだが、マイクが声を拾ったり拾わなかったりでその全容はつかめない。

「それじゃあ、参加できなかった人たちは……なんとっ! 私たちと一緒に記念撮影ですっ。サインもしますよー」

 その提案におよそ半分ぐらいの人たちが喜びの声を上げた。

 由夢をはじめとして配信をしているプロゲーマーはこの場に数人存在し、そういったプロゲーマーはゲームプレイだけでなくその人格やキャラクター性を好きになられることも多い。そのためこの場には、あまりCA自体に興味のないファンたちも一定数存在する。好きなプロゲーマーと接触を持ちたいがために大会に参加しようとしていただけの人は返ってそちらの方が都合が良いのだ。

「ということでもう少し待っててくださいね…………って私にトークで繋げってことですかそれ……」

 後ろに振り返ってスタッフにマイクを渡そうとして、ジェスチャーでそれを断られげんなりした顔をする。しかしどこか愛嬌の残るその表情は人々を魅了する。「がんばれー」と応援の声が所々で上がるほどだ。

 そうして抽選でプレイヤーを選び、トーナメントの対戦表を決めるまでの時間を由夢が稼ぐことになった。

「話すことなんて考えてなかったから話題が……んー」

 人差し指を口元に当て小首をかしげる、そんなあざとい姿が妙に様になってどこか小動物を連想させる。

「えーっと、そうだね。それじゃあプロゲーマーについて小話でも。みんなはプロゲーマーっていつぐらいから存在してるか知ってる? ……まあそうだよね」

 由夢の問いかけにざわざわし始めるが、誰も答えは分からないのか誰も声を上げない。そんな様子に由夢は落胆する様子もなくニヤっと笑うと得意げに語りだす。

「1997年にあったFPSの大会で優勝したプレイヤーにフェラーリがプレゼントされたことが始まりみたい。もちろん私は流石に生まれてないから聞いた話だけど」

 その大会が開催されたのが五月だ。そしてその翌月からプロフェッショナルリーグが始まった。

「ちなみにこの時大体十万ドルぐらい貰ってたんだって、すごいよねー。数年前にこの選手は殿堂入りなったんだけど……今殿堂入りしている人の中に日本人はいないんだ。でもね、私はこの殿堂入りになるのが夢なの」

 嬉しそうに由夢は語る。

 この場にいる者はその無謀ともいえる夢を誰一人として笑うことは無かった。未だにCAの日本人プロゲーマーがメジャー大会で活躍する機会はない。皆無と言っても間違いでないほどだ。そんな中で由夢が今言ったことは夢物語と言っても差し支えのない。それでもここに集まったファンたちが笑うことなかったのは、理由があった。

 2005年に日本で初のプロチームが発足しその年のメジャー大会で十二位にまで上り詰めたチームがあった。誰もがすぐに惨敗して帰ってくるだろうと思っていた中での快挙だった。

 しかしその活躍も空しく、日本ではe-sprotsは流行らずにそのチームも、数年後スポンサー側との問題で活動停止をしてしまったことがある。その時に日本ではe-sprotsは流行らないと誰もが諦めてしまっていた。だが、今ではかつての二倍以上の勢いが生まれている。当時を知る者からすれば信じられない事だ。だからこそ由夢が語ったことも不可能ではないと思えるのだ。

 しかし勿論それだけではない。ここに集まった者は程度の差はあれど全員がゲーマーである。現状を良く知る者として、そんな世界を見てみたいと心の底では夢見ている。

「あははは、無理だろうとは思ってるんだけどね。でも夢は大きい方が良いから」

 自嘲気味に笑うと「そんなことないよ」と否定の言葉や、応援する言葉が投げ掛けられる。

「ふふ、ありがと。だから好きだよみんな」

 素直に受け止めてもらえ、その上応援してもらえると予想もしていなかった由夢はその温かさに笑顔で礼を告げた。

「こんなにいい人たちにファンになって貰えて私は幸せ者だ」

 心底嬉しそうに笑う由夢に誰もが目を奪われる。

「あーあ。由夢ちゃんほんと無自覚なんだから。純粋なとこが良いとこでもあるのだけれど……まあだからこそプロゲーマー向きの性格なのかもしれないわね」

 自分にはそんなことできないと少し羨ましく見つめる愛梨。

「こほんっ、それじゃあみんなにもう一つだけ言いたいことがあるんだけどいいかな?」

 そんなことは露ほど思っていない由夢はかしこまって周囲をうかがう。誰もがそんな由夢の邪魔をする気はなくただ続く言葉に耳を傾けていた。

「多分ここに来てくれたみんなの中にはプロゲーマーになりたい人もいると思うんですけど、そんな人たちに向けてのお話です」

 一度間をとって深呼吸すると、再び話し出す。

「多分自覚してるとは思いますけどプロゲーマーになるのは難しいです。挫折する人の方が圧倒的に多いです。プロになったとしても長く続かない人も多いです。でも……酷なことを言うけれど、だからこそ目指して欲しいとも思ってます。勿論無理してほしいわけではないですけど、夢って届かない場所にあるからこそ手を伸ばすモノだと私は思ってます。憧れるからこそ人は前へと進めるんです。努力したからって絶対になれる訳ではない、それは事実です。……プロゲーマーになった人には共通してることがあります。それは夢が叶うまで夢を諦めなかったことです。ちょっとでも、僅かにでも前へと進めるのならいずれはそこにたどり着けます。前例がなければその前例になればいいんです。歩み続けた先にソレはあるんです。他人から分け与えてもらえるモノの中にはありません。自分で掴むしかないんです」

 一気にそこまでまくしたてると由夢は照れ隠しに微笑してみせた。

 決してその言葉は自分一人に向けているわけではない。それを理解しながらも志軌は心の中にあった火が大きくなるのを感じた。プロゲーマーになることを夢見つつも心のどこかでは諦めている部分があった。そんな迷いを由夢が晴らしてくれたのだ。一歩ずつでも、少しずつでも、前へ進めばいいと。

「…………あ、はい。それじゃあ私はこれで」

 由夢が一通り話し終え、真面目な話をして硬くなった空気を和らげようと雑談をしようとしたときだ。トーナメントが決まったようで、スタッフが前に出てきて由夢と立ち位置を変った。

「えー、それでは発表します」

 そして、次々と発表されていくプレイヤーたち。ここで名前を呼ばれなければわざわざ参加しに来た意味がない志軌たちであったが、その心配は杞憂であった。志軌の名前も愛梨の名前も無事に呼ばれたのだ。

 トーナメント表は二ブロックあり両方のブロックで最後まで勝ち残った二人で決勝戦を行う形になっている。志軌と愛梨は同じブロックにならなかったため戦うことになるとしたら最後の決勝戦だ。

「志軌、途中で負けないでよ。ボクは決勝戦で志軌以外と戦う気ないわよ」

「優勝して由夢と試合するまで負けれねえって」

 二人とも自信満々にそう言うが決して楽な道のりではない。全三十二人のプレイヤーが争うことになるのだが、その中には一般プレイヤーが自らの趣味で開いた、非公式大会で優勝した経験のあるプレイヤーや、それなりに名前の馳せているプレイヤーなど、志軌にも見覚えのある名前がいくつかあり、勝ち残るのが大変なことが容易に予想できる。

 そしていつの間にか第一試合が始まろうとしていた。

 二人の画面がプレイヤーには見えない様に、店内のモニターへと表示されている。CAにはレベルというある程度プレイ慣れしているかどうかの目安になる物があるのだが、二人ともそれが高く手練れのプレイヤーだということが分かる。

 そうこうしていると、二人の試合が始まった。ルールは一度相手を倒した方が勝ちになる殲滅戦で、制限時間は十分だ。必要以上にとられた制限時間のため、決着がつかずにタイムアップになることはほぼないだろう。

 二人のプレイヤーはSA58とFAMASというアサルトライフルを構えると前進していく。お互いに撃ち合いを好むタイプなのか、すぐに接敵し激しい銃弾の応酬へと変化する。

 SA58は7.62mm弾を使う威力の高い大口径ライフルで、FAMASはアサルトライフルの中で一番の連射力を誇る銃だ。どちらも反動制御の難しい銃ではあるが、その分使いこなせれば強力な銃となる。それは扱うプレイヤーが一番理解していることで、お互いにそれを利用した戦い方をする。

 FAMASはその連射力の欠点としてすぐにマガジン内にある弾丸がなくなってしまう。リロード中は無防備となってしまうため、身を隠せる遮蔽物の近くを陣取っている。対するSA58のプレイヤーは大口径であることを活かし、壁を抜こうと身を隠す相手プレイヤーの位置を予想して銃弾を撃ち込む。

 お互いに決め手に欠ける撃ち合いではあるが、無傷とはいかずお互いに徐々にダメージが蓄積していく。

 このままでは埒が明かないと思ったのかFAMASのプレイヤーは弾倉を変えると、スタングレネードを相手に投げつけ数秒後に起こった閃光を確認すると同時に飛び出した。

 相手が目をくらましている間に仕留めようというスタンダートな作戦だ。だがスタンダート故に対処の仕方もいくつか確定されている。

 SA58を持ったプレイヤーは目の前が真っ白になりながらも先ほどまで狙いを付けていた場所に射撃を加える。あてずっぽうな射撃ではあるがこれはそれなりの効果がある対処法であり、相手の視界を奪ったから抵抗しないだろうと安心して遮蔽物から身を乗り出した相手に攻撃することができるのだ。

 勿論FAMASのプレイヤーも長い経験からそのことは知っていた。しかし慣れないオフライン試合のためか多少なりとも緊張していたのだろう。そのことを失念してしまい、うっかり身を晒してしまいそこを突かれてしまった。結果体力をすべて消し飛ばされてしまい、敗北が確定してしまう。

 こういったことはままあることだった。慣れたスペースでプレイできる自宅と違い、キーボードなどを持ってきたとしても使い慣れないパソコンで衆人環視の中プレイすると、普段とのプレイ環境の違い人に見られているというプレッシャーや緊張感から普段はしないミスをしてしまうのだ。

 FAMAS使いのプレイヤーもそれを自覚しているのだろう。そちらを見るととても悔しそうな表情をしているのが見えた。

「ナイストライ……としか言ってあげれないわね」

 不慣れな状況の中でも守りに入らず攻撃に打って出たことを称える。失敗してしまったとしても、勇敢に挑んだことには変わりない。

「俺らもしょうもない負け方しないようにしねえとな」

 一瞬で勝負が決まってしまう事の多いCAでは、些細なミスが勝負の決め手になることが多い。

 そんな志軌たちと関係なく試合は進んでいく。第一回戦から好カードな組み合わせが多く、接戦ばかりだ。その見ごたえある戦闘に多くの観客が魅了される。それは志軌や愛梨も例外ではなく、感心してしまう。

「続きまして――」

 そうこうしているといよいよ志軌の名が呼ばれた。パソコンの置いてあるところへと対戦相手も向かってくるが、そのシルエットは予想よりも小さく中学生のように見えた。だが、だからといって油断できるわけではない。CAもプレイ時間が強さと比例するのものだが、FPSというゲームは反射神経が物を言う時が多い。勿論それ以外にも大事なものは多数あるのだが、時にはそれを凌駕することがある。そして反射神経とは若い方が良いものだ。それ以外にも持って生まれた才能などで若くても頭角を現す者もいる。現にこの場には中学生でプロゲーマーになった人物もいるのだ。

「ここで負けたら絶交だから」

「言っただろ、由夢とやるまで負けないって」

 発破をかける愛梨の言葉を受け取った志軌は、そう言い残してパソコンの前へと移動した。

 キーボードやマウスを繋げ支度を追える。暫くして相手の準備も終わり試合へと移行する。心を落ち着けるために一度深呼吸をしてから志軌は挑む。

 ランダムセレクトで選ばれたステージは遊園地をモチーフとした場所だ。遊園地と言っても閉鎖されていて、アトラクションなどが動いているわけではおらず、むしろ動くことのないマスコットキャラクターの着ぐるみやアトラクションの乗り物などが少し不気味に見える。

 だがそんな光景を何百何千と見てきた志軌は気にすることなく、どう立ち回ろうかとそれだけを考えていた。まだこの時点では相手の銃も癖も何も分からない。メイン武器が分かればある程度相手の得意とする撃ち合いの距離が分かるのだが、それが分からない以上は不用意に動けない。

 最初のリスポーン位置はある程度決まっているので、全速で志軌の方へと向かってきたとした時に接敵する場所というのはある程度予想ができる。志軌はそれを目安にある程度キーボードを操ってアバターを前方へと進める。

 相手がスナイパーライフルを使っている場合は遠距離で射線の通る場所に出るのは愚策だ。しかし、射線の限られた閉所では相手がサブマシンガンやショットガンなどの近距離武器を持っていた場合にこちらが不利となる。そのことを頭の片隅に置き、中距離での撃ち合いがメインになりそうな場所を意識して動き回る。

 ステージの三分の一まで距離を詰めた志軌はそろそろ接敵する頃合いだと歩を緩め、先手を相手にとられない様に足音を消しつつこれまでの経験を頼りに、これまでの試合で敵がいたことのある場所を主に注意しながら進んでいく。

 そろそろ出会う頃合いだろうと思いつつも、影も形も見えずにいる相手を訝しむ。そしてどうしても通らなければならない大通りへと差し掛かり、狙撃されるのを嫌って走り出した、そんな時だった。

 抑制された銃声と共に風切り音がすぐ近くから聞こえ、志軌のすぐ近くに着弾する。すぐさまそれが遠距離からの狙撃であることを確信した志軌は狙いにくいようにジグザグに動きながら大通りを渡りきりすぐそこにあったメリーゴーランドの後ろへと身を隠す。

「SRS……かな」

 志軌はそう小さく呟く。サプレッサーによって小さくされた銃声だが、それでも種類を判別できるだけの情報量は残っていた。その銃特有の銃声から銃を割り出すと対処の仕方を考える。SRSは威力が高く精度が高い。しかしボルトアクションのスナイパーライフル故に連射はできない。つまり遠距離戦は得意としつつも、近距離戦では扱いにくい銃となっている。

 ただしスナイパーライフルを使う者は大抵その弱点を補うためにサイドアームに連射のできるG18CやM712、単発の威力が高いデザートイーグルなどを持っていることが多い。志軌はそのことを頭の片隅に置きながら距離を詰めることにした。

 サプレッサーで銃声が抑えられていても、全く聞こえない訳ではないため、撃ってくるタイミングと合わせて位置を特定することは可能で、三階建ての建物に潜んでいることを割り出していた。屋台やアトラクション、放置されたマスコットなどを使いながら射線を切りつつ進んでいく。時折銃声が聞こえてくるが、弾丸が志軌を穿つことは無い。

 相手が陣取っている建物の真下へとたどり着いた志軌はカスタムされたAKを構え、警戒しながら中のクリアリングに向かう。相手も既に建物内部に入られたことには気付いている。そのためどこかで待ち伏せして不意を突こうと画策しているはずだ。

 足音を殺しながら進んでいく。緊張感に包まれながら隠れていそうな場所を中心に探していくが、なかなか見当たらない。そうこうしているうちに一階と二階のクリアリングを終える。ここまで来て出会わないということは三階にいるということに他ならない。

 一番狙われる可能性があるのは階段だ。なぜならこの建物に階段は一つしかなく階層を行き来するためには必ずそこを通る必要があるためだ。ただ身を乗り出せば負ける確率の方が圧倒的に大きい。そこで志軌はスタングレネードを使うことにした。相手が直視すれば視界を奪え、それを防ぐために視線を逸らせばその隙に無事に三階へ上がることが可能なためだ。スタングレネードのピンを抜きタイミングを計って三階へと投げ込む。

 強烈な閃光と共に生じた爆発音を確認した志軌は突入する。決め撃ちは無いと読んでの行動だ。

 マシンピストルは確かにサブマシンガンのような扱い方が可能だが、決して万能な武器ではない。欠点として装弾数の少なさと射程の短さがあげられる。弾をばらまくような戦い方はできないのだ。現実にはドラムマガジンという弾が多く入るマガジンもあるのだが、それはバランスをとるためなのかCAには実装されていない。

 三階へ突入するとすぐに相手のアバターを視認できた。スタングレネードからしっかりと目を離していたらしい相手は伏せてG18Cを構えていた。志軌が相手を視認するのにかかった時間と相手が志軌を視認するのにかかった時間はほとんど一緒だ。お互いが真正面から激しい撃ち合いを同時に始める。

 お互いにアバターが血しぶきをあげながらの至近距離戦はFPSゲーマーが楽しいと感じる一瞬でもある。志軌はそれを肌で感じつつ、撃ち合いに集中する。反動でブレる銃口をうまくコントロールし相手に向け発砲し続ける。

 その結果、志軌は体力を約半分残しつつ勝利することができた。

「っし」

 簡単な試合とはいかなかったが、無事に勝ち上がることができ一安心だ。

「危ない勝ち方するわね、もっと圧勝して見せなさいよ、はらはらするじゃない」

 相手がサプレッサーを使っていたこともあって、それが嫌いな愛梨は不満げなようだ。試合が終わって戻ってきた志軌をむすっとした顔で出迎える。

「一回戦だからって相手が弱いとは限らないんだぞ、無茶言うな」

 対戦相手がランダムで決まるため、初戦の相手が優勝候補である可能性も始めたばかりの初心者の可能性もある。

「そう? じゃあボクの試合ちゃんと見ててよ」

 愛梨は自身満々にそう言う。

「はいはい」

 軽くあしらうと既に始まろうとしている次の試合へと視線を向けた。この試合で勝った方が次の志軌の対戦相手となる。少しでも事前に情報が欲しいのだ。愛梨もそのことを察してか、まだ言いたりなさそうにしながらも静かにしていた。

 そして数十分がたつと愛梨の番となった。

「じゃあ行ってくるわ」

 ただそれだけを言い残し、愛梨はさっさとパソコンの前へと移動する。その顔つきには緊張や心配といった感情は無いように見えた。志軌とて愛梨がここで負けるとは露ほどにも思っていない。しかしそう信じ切れるだけの精神力が自分にはなく愛梨にあることが素直に羨ましかったのだ。

 試合の内容は圧倒的だった。相手は決して初心者ではないプレイヤーだったが、戦い方の相性が愛梨と悪かったのだ。相手は裏取りをして奇襲を仕掛けることを得意とするサブマシンガンを使うラーカーと呼ばれるタイプだったのだが、生粋のアタッカーである愛梨はそれを正面からねじ伏せたのだ。

 昔から志軌と由夢の間では愛梨のことを「反射神経お化け」と呼ぶことがあるほどに反応速度が速い。一発相手に当てれば倒せるだけの威力があるスナイパー向きで、FPSを始めた当初はスナイパーライフルを扱っていた。しかし本人の性格上待つということができなくアサルトライフルを持つようになった過去がある。

「どう?」

 言った通りになったでしょ、と言わんばかりにドヤ顔を向けてくる。

「はいはい、凄い凄い」

 志軌には真似できる芸当ではなくその言葉自体は本心なのだが、素直にそれを伝えるのは癪にさわるため素っ気なく言葉を返す。だが長年の付き合いである愛梨にそんなことは通用しなかったらしく、お見通しとばかりに見つめられていた。

「試合見ろ試合」

 その視線に耐えられなかった志軌は雑に返す。愛梨の試合はトーナメントの後半の方だったということもあり、一回戦目はそろそろ終わりだ。有名どころであるプレイヤーは全員勝ち残っており、残されたプレイヤーは強者が多くなっていく。

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