4
やがて電車はビル群が建ち並ぶ場所、つまり東京へと付いた。電車から降りた瞬間から熱気と蝉の鳴き声に包まれる。
志軌たちは愛梨の姉が住む家へと向かうため、駅から出ると歩き出す。タクシーやバスを使うほどの距離でもないが、かといって歩く距離でもないと愛梨は志軌に相談したのだが、余分な出費をしたくないと志軌が渋ったのだ。バイトをしていない二人がお金を手に入れる手段とすれば親から貰えるお小遣いしかない。パソコンのデバイスは決して安いものではなく、また欲しい漫画などもあるためなるべく余分なお金を使いたくないのだ。
「あー、あっちぃ……」
しかしそんな覚悟とは関係なく、暑いものは暑い。地元と違いビルのガラスに日光が反射され直接日が当たらないとこでさえ、熱気が感じられる。
「自分で決めたことなんだから、黙って歩く」
愛梨も同意だったが文句を言っても始まらない。薄っすらと汗を流しながらも目的の場所へと向かって歩き続ける。慣れない道のりのため、順調とはいいがたいがそれでも前へ進まない限りは、ずっと日差しのもとに居続けることになる。迷いながらも歩き続け、時にコンビニの中へ入って飲み物を買いつつ休憩して歩き続けて目的の家までもう少しとなった時。
「あ、志軌。あそこ行こうよ」
愛梨がクレープを売っている屋台を見つけ嬉しそうに言う。この炎天下の元を歩き続けた二人には御馳走に思えた。
「家もう近いんだろ? 荷物置いて少し休憩してからにしよう」
流れでる汗がうっとおしくなってきた志軌は何よりも体を先に休ませたいと考えていた。
「わかった、じゃあ早くお姉ちゃんの家行っちゃおう」
先ほど買っていたミルクティの入ったペットボトルに口を付け、気合を入れなおすと愛梨は再び志軌と共に歩き出した。
――数分後。
志軌たちは目的の場所へとたどり着いた。
「えっと、確かここに……」
愛梨はごそごそとポストに手を突っ込んでその中を漁りだす。そして少しするとそこから鍵を見つけ出した。
「あった。それじゃあ開けるね。言っとくけど、勝手に変なとこ漁んないでよ」
「少しは信用してくれって」
扉を開けて中に入る。中はテレビやベッドなどの少量の家具、ファッション誌などの雑誌が置かれていた。仕事で忙しいながらも家事はしっかりと行われている様子であり整理整頓されていた。
それでも二人が一緒に過ごすには少し手狭だが、無理を言って使わせてもらっている以上は贅沢は言えない。
「そう言えば飯はどうすんだ」
今の今まで気にしていなかったが、志軌はある問題点を見つけてしまった。普段親の作った料理を食べているのだが、当然ここにはいない。外食するにはお金がかかると危惧したのだが、前々から考えていた愛梨はすぐに答えを言った。
「え? そんなのボクが作るにきまってるじゃん」
あっけらかんと答えた愛梨に志軌は一瞬意味を理解できなかった。
「料理……できるのか?」
「できないならするなんて言わないわよ。家でもお母さんと一緒によく作ってるんだから。もしかして志軌はボクが料理できないとでも思ってたの?」
心外だとばかりに睨みつける。
「じゃあ俺も手伝うよ。流石に泊まる場所も手配してもらって料理もしてもらってじゃ悪い」
「志軌、料理しないんでしょ?」
「ああ、ほとんどしたことないけど」
志軌が料理をしたことがあると言えば、学校の調理実習の時か林間学校などで外泊した時だけだ。それ以外は親の料理の手伝いすらやったことは無い。
「じゃあいいよ。むしろ邪魔になるだけだから」
単純に分からない者に手伝われても、むしろ迷惑だと言うこともあったが、もしそれで手を包丁で切ったりしたら翌日に控えたイベントに差し支えてしまうという理由が一番だ。もしそうなってしまえば、わざわざ東京にまで来た意味が無くなってしまう。
「……そうか。それじゃあ頼むよ」
志軌もすぐにその考えに至ったのか、食い下がりはしなかった。
それから暫しの間、一日を過ごすことになる家の中を見て回ったあと、先ほど約束したクレープを食べに再び外に出る。もう一度暑い中出かけなければならない事を億劫に思いながらも、クレープが食べれると嬉しそうな愛梨の姿を見るとそれもいいかと思えてくる。
「よくそんな元気になれるな」
志軌とてクレープが嫌いなわけではない。しかし愛梨のテンションの上がり方は、そんな志軌から見ても凄まじいものがあった。
「だってクレープだよ。女の子だったら誰だって甘いもの好きなんだから。好きなものが食べれるのは志軌だって嬉しいでしょ」
「それは確かにな」
クレープ屋が近づくにつれ愛梨は早足になっていく。志軌もはぐれない様についていくと、迷うことなく目的の場所へとたどり着いた。屋台の周辺ではクレープを片手に女性が談笑している。
「結構人気みたいだな」
志軌と愛梨も買おうと屋台に近づいたその時。
「……あれ、由夢ちゃんじゃない?」
少しの間ベンチに座って嬉しそうにクレープをぱくついている一人の少女を見て愛梨は言った。
キャスケットをかぶって眼鏡をかけているために、ぱっと見ではよく分からないがじっと見てみると、確かに由夢のようだ。目立たないようにしているらしいが、長年の付き合いがある志軌や愛梨には、ふとした時に見せる動作ですぐにわかった。特にクレープを食べて嬉しそうに頬に手を当てる動作が、子供の時と一切変わっておらず志軌は思わず笑ってしまった。
「どこか遠くに行っちゃった感じあったけど、ああ言うとこみると変わってないって思えるね」
由夢が周りから注目されてないと思って思わず出てしまった子供っぽい仕草に二人はなごみながら近づいた。
「ゆーめーちゃん」
もぐもぐと一生懸命に口を動かすのに必死で、二人が近寄ってきたことに気付いていない様子の由夢に話しかける。
「……んんっ!? こほっ! こほっ」
急に見知った顔に話しかけられ慌てた由夢は驚きのあまり思わず咳込んでしまった。
「ゆ、由夢ちゃん大丈夫?」
突然のことに心配になって声をかける。
「んっ……だ、大丈夫。それよりも愛梨ちゃんと志軌くん、なんでこんなとこにいるの?」
思いがけない再会に驚いているようだ。事前にイベントに参加すると伝えていないため、由夢は東京にいるとは思っていなかったのだ。
「なんでって、明日のイベントでるからだよ」
志軌がしれっと言うと、由夢は納得したようだ。
「明日、志軌くんたちも出るんだ」
「今までは都合がつかなかったり、場所が遠かったりして参加できなかったからな」
由夢の所属するチームはプロチームの中でもイベントをよくする方で、色んな場所で行っているのだが学生である二人には参加するチャンスがなかなか無かった。
「そっか」
「久々に幼馴染三人そろったね。由夢ちゃんこの後時間あったら話したいんだけど、どうかな?」
「うん、ちょっとだけなら平気だよー」
翌日にイベントが控えているため、事前に準備することがあるだろうに由夢は快く了承した。由夢とて久しぶりに会えた旧友と親睦を深めるのがやぶさかではないようだ。その証拠に表情はとても柔らかい。
クレープをすべて食べ終え、子供の用に指先をぺろっと舐めた。
「久しぶりに会うけど二人とも仲良さそうで安心した。昔から喧嘩ばっかりしてたから、ちょっと心配だったんだよ」
昔から喧嘩をする二人を仲裁するのが由夢の立ち位置だった。そんな自分が抜けて大丈夫か心配だったのだ。
「しょっちゅう喧嘩はしてるけどな。もう慣れたというかあんま気にしてないし」
「悪いのは志軌だけどね。ボクはいっつも迷惑かけられてる側だから困っちゃうよ」
「ふふっ、相変わらずみたいで安心。私がいなくても大丈夫みたいね二人とも」
自分が居たときと変わらないやり取りに由夢は微笑する。由夢にとってこの幼馴染の関係が崩れないことが何よりの幸せだ。そう思っての言葉だったのだが。
「由夢ちゃん」
その言葉を聞いた愛梨は怒った表情で咎めるように、由夢を見て言った。隣をみると志軌も似た顔つきをしている。
「由夢ちゃんが居なくてもいいなんて、そんなことは絶対にないよ。由夢ちゃんが何も言わないでプロゲーマーになってどっか行っちゃったときに、ボクと志軌がどれだけ悲しかったと思ってるの」
まるで自分がいなくても平気だと言わんばかりの由夢の言葉に怒ったのだ。
「言えない事情があるならボクたちはそれでいいけれど、それは由夢ちゃんが大好きだから、なの。いなくても平気なわけじゃないよ」
「そうだぞ。だからこうしてわざわざ東京にまで会いに来たんだから」
一人で決めて勝手に行動をしてしまったことを引け目に感じている由夢は、そんな風に思われているとは考えておらずそう言ってもらえたことが嬉しかった。
「……そっか、そうだよね。ありがと。それにごめんね」
そういえば昔からこの二人は優しくいつも助けられてばかりだと、二人の暖かさを改めて感じる。
「謝る必要はないって。それに久しぶりの再会なんだから湿っぽい話はもうやめよう」
折角の時間だ。どうせなら楽しい話をしようと志軌は切り出した。
「そうだ。由夢ちゃん、この前の配信ボクたち見たよ。相談受けてたやつ」
「え? あれ二人とも見てたの? やだなあ、恥ずかしい」
「恥ずかしがる必要なんてないって。むしろあんなこと考えてるなんて、ちゃんと前向いて進めてるってことの証明だ。胸張っていいと思うぞ」
「えへへ。そう、かな。志軌くんにそう言ってもらえると嬉しい」
その言葉に嘘偽りはなく、楽しそうにほほ笑む。好きな人からそう言われて嬉しくない男などおらず、志軌もつられて嬉しそうにしている。
「ねえ由夢ちゃん。プロゲーマーって実際のところどうなの? やっぱり大変?」
「簡単じゃないことは確かかな。練習もなる前よりもいっぱいしないといけないし、詰め込まないといけない知識もあるし。そのうえで新しい作戦とか考えないといけなかったり、こうしてイベントにでたりしないといけなかったり、時間が足らないかな、ほんとに」
そう言う割に、由夢の表情は暗くない。むしろ楽しそうですらある。
「でもね、それが楽しいんだ。努力して強くなって、ずっと憧れてた人たちと試合ができて。それで勝てたらほんとに最っ高なんだ。簡単な道のりじゃないけど、だからこそやりがいがあるって言うか」
「あはは。由夢ちゃん、相変わらず子供っぽいっていうか男の子みたいっていうか。そういうとこ可愛いよ」
言いながらテンションが上がってきて段々と早口でまくし立てる由夢の姿に、愛梨は思わずそう思った。
「あ、愛梨ちゃん……。そんなことないって」
自分でも勢いに任せて言ってしまったと自覚しているのか少し頬が赤くなっている。
「褒めてるんだから謙遜しなくっていいのに。でもよかった。由夢ちゃんって意外と弱音吐かないから、心配だったの。プロゲーマーってプレッシャーとか凄そうだから」
「プレッシャーは確かにあるねー。最初の頃は確かに怖かったし。でも今はむしろそれが楽しいって思えるようになってきたんだ」
「楽しい?」
「うん、プレッシャーがあるってことはつまりそれだけ注目してもらえてるってことだから。応援してもらえてるんだって感じられる」
「そっか。昔から目立つこと自体は苦手じゃなかったもんな」
志軌も愛梨も知らないことだが、由夢がプロゲーマーになって間もない頃の試合は散々なものだった。当時は実力も知名度もなく試合結果が表に出ることもほとんどなく注目されていなかった。当初から応援していた志軌たちでさえ情報を追うことが困難なほどだった。しかし、数をこなすたびにだんだんと慣れてきた由夢は次第に結果を残すようになってきた。そしてある大会の決勝戦で、由夢よりも圧倒的に格上とされるとあるプロゲーマーと接戦を繰り広げ、それ以降人気が爆発的に増えたのだ。
「それにチームのみんなも良い人たちばっかなんだ。右も左も分からなかった私に丁寧に教えてくれて、練習も付き合ってくれて。それが無かったら私こうしてここに居なかったかも」
「よかったな」
由夢が困っているときに手を差し伸べられなかった悔しさはありつつも、手助けしてくれた由夢の仲間に心の中で礼を言う。
「そういえば、由夢ちゃんのとこって中学生でプロゲーマーになったって話題になった子いたよね?」
「あ、うんいるよ。いるって言っても別のゲームだけど」
由夢の所属するチームを仮にAチームだとした場合、そのAチームが存在するのは何も一つのゲームだけに限った話ではない。CA以外のFPSゲームであったり、RTSやTPS、格ゲーなど様々なジャンルにわたって同じAチームという名前のチームが存在することもある。
「凄いよな、まだ中学生なのにプロゲーマーになるなんて」
「プロゲーマーって正直なとこ、歳は関係ないからねー。海外の話だけど平均年齢七十歳のプロチームもあるし、私も負けてられないよ」
そのチームが発足時にSNSのサイトで話題になっており、志軌と愛梨も知っていた。
「日本でももっと盛んになって欲しいわね」
十数年前に日本で最初のプロチームができた時と比べれば格段に環境が良くなってきているが、それでも海外と比べてしまえばまだまだ改善の余地は多い。世界との壁を縮めていくには個人の努力だけでは限度がある。それを埋めるために強力な後ろ盾が必要なのだ。
「でも昔と比べてどんどん良くなってきてるから、時間の問題だと思うな」
日本でも少しづつだがe-sprotsへの理解が浸透してきている。状況が前へと進んだことによって新しく発生する問題もあるが、どんな困難でも解決できると由夢は信じていた。
なにせ日本ではどんなに強くてもスポンサーがつくことなどなく、海外の大会に出場するとなれば自分たちで費用を出さなければならない程だった。その時のプレイヤーからすれば今のこの状況こそ夢のまた夢だったことだ。
「日本人のプロゲーマーがメジャー大会で優勝するの、いつかみたいね」
それは日本のFPSプレイヤーなら一度は夢見ることだ。メジャー大会に出場しそれなりの順位まで上り詰めたことはあるが、優勝したことは一度もない。メジャー大会常連となっている海外のプロチームと互角以上にやりあう、そんな展開を誰もが望むのだ。
「由夢ちゃんがしてもいいんだよ」
「えーっ!? それは流石に無理だよー。まだまだ国内の大会でも負けちゃうことあるのに」
思わず由夢から出た言葉は決して謙遜ではない。優勝することはそれなりにあるが、まだまだ途中で敗退してしまうことも多い。現状況で海外のプロゲーマーに勝とうと思ったら国内負けなしでなければ、レベルが届かない。それほどまでに差が開いてしまっていた。
「そんなこと言うならさ……」
由夢は子供が悪戯を思いついた時のような、無邪気な笑顔を浮かべた。こうしたことは今までも幾度かあり、大抵はろくなことにならなかったことを志軌は思いだした。
「二人ともプロゲーマーになって、一緒のチームで優勝しよ?」
FPSの試合形式で主流なものは、一対一か五対五で行われている。そしてCAのメジャー大会で採用されているのは五対五で行われるチーム戦だ。そのチームメイトに志軌と愛梨を誘ったのだ。
「俺らの場合そもそもプロになるところからだけどな」
それまでにたどる道のりを考え、自信なさそうに言う。
「まーたそうやって志軌くんは悲観する。悪い癖だよ。大丈夫だって、二人とも昔から強かったから、プロゲーマーになれるって」
「そうよ、志軌。幼馴染全員でプロゲーマーになるって決めたのだからそんな弱気は許さないよ」
弱音を吐く志軌に愛梨と由夢は叱咤する。まだまだプロゲーマーへの道を進み始めた途中なのだ、諦めるには早すぎる。夢を諦めるのは本当にどうしようもなくなったその時だけだ。
「……凄いなそんなに信じられて」
志軌もプロゲーマーになるのは夢だ。しかし、その願いが叶うかどうかは別問題だ。
「夢のない人生なんてつまらないわよ」
信じて疑わない愛梨ははっきりと断言する。
「愛梨ちゃん言い過ぎだってそれは。言いたいことは分かるけど」
「だって志軌が」
「夢に向かって頑張るのも素敵なことだけど、大事なことはそれをするって決める自分の意志だよ。どんなことでも、自分がやろうと思わない限りはやれないからね。だから人に強制するのはよくないよ」
「む」
反省しているのかしょげた様子の愛梨を由夢が子供をあやすように接する。
同い年と言えど背が高く大人びた容姿の愛梨を、実年齢よりも若く見られがちな由夢が落ち着かせているのは、傍から見ると奇妙な光景だ。
「なんだか俺が悪いみたいじゃないか。別にプロゲーマーを目指さないとは言ってないだろ、ただ少し自信が無かっただけだよ」
ヒートアップしそうな勢いの二人を止めようとそう言うと、二人から含み笑いが漏れ出始めた。
「うふふっ。志軌くん、冗談だよ冗談。ごめんね」
「あはははっ、志軌ってホント騙されやすいよね」
からかわれていた志軌だが、二人が楽しそうに笑っているところを見ると、言い返すきも失せてくる。恐らく二人は志軌が少し目を離した隙に、お互いに視線を送りあって示し合わせていたのだろう。その位のことは長年の付き合いからできるようになっていた。
「……」
楽しそうにしているのが見れるのは志軌も嬉しいのだが、その対象が自分と言うことはいただけなく、結果として静かに黙ってしまう。
「ほんとにごめんね、志軌くん。愛梨ちゃんがどうしてもって訴えかけてくるから……」
「いやいいよ。気にすんな……あと愛梨はいつまでも笑ってんだよ」
由夢は笑みを残しつつも、謝っているのに対し愛梨は気にした様子もなく笑い続けていた。特段不快という訳ではないが、それでも笑われ続ける趣味はない。
「あはは、だって志軌全く疑ってなくて、こんなうまくいくとは思ってなくて……あははは」
嫌味のない笑顔でそう言われてしまえば、志軌は何も言えない。由夢と離れ離れにいなった後、こんなに遠慮なく笑うことはなかったからだ。
「ったく」
「ふふっ、相変わらず二人が仲良しさんで嬉しいよ」
由夢は二人が仲良さそうにやり取りしているのを嬉しそうに見つめていた。久しぶりの光景が楽しいのだろう。
「由夢ちゃん、言ってることがお母さんみたい」
「私は別に二人の、ならお母さんでもいいけど」
「えー、志軌と兄弟なんてボク嫌だな」
志軌と愛梨の親をやるのもそれはそれで楽しそうだと思う由夢と違い、愛梨は否定的だ。
「俺は別に愛梨が妹でもそれはそれで楽しそうだからいいんだけど」
「……そういうところもだよ志軌くん。勝手に妹ってことにしたりするから愛梨ちゃんも拗ねちゃうんだよ」
「拗ねてない」
ね? と同意を求めて愛梨に視線を向けると愛梨はその言葉を一刀両断にした。
「愛梨ちゃんのそういうとこ可愛いと思うけど、もう少し素直でも良いと思うよ」
むすっとして見せる愛梨に、そう声をかける。
そんな時だった。唐突に、スマホが鳴る音が三人の耳に届いた。聞き覚えのある曲だなと志軌が思うとほぼ同時、由夢がスマホを取り出すと一瞬志軌たちに申し訳なさそうにして通話に出た。
「はい……え? あ、ごめんなさい。今から戻ります……はい」
由夢が話をしている間に、志軌は先ほどの着信音が昔由夢が好きで見ていたアニメの曲だと思いだした。当時由夢がよく口ずさんでいたため、聞き覚えがあったのだ。
そして手短に会話を終えた由夢がしょんぼりした様子で向き直る。
「明日の打ち合わせするのに、いつまで出かけてるんだって怒られちゃった。ごめんね、愛梨ちゃん。志軌くん。私すぐに戻らないと」
「あ、こっちこそごめんね由夢ちゃん。少しだけって言ってたのに長い間引き留めちゃってたよね」
愛梨もスマホを取り出して時間を確認すると、話始めてから結構な時間が過ぎ去っていたことに気付いた。
「俺たちのことは気にすんな。また明日イベント行った時にでも会えるだろうし」
「もちろん挑戦者として、ね? それ以外は嫌だからね」
そう言い残して由夢はぶつからない様に周囲に気を使いながら駆けていった。




