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こぼれ話、音楽の小骨

こぼれ話、音楽の小骨


 このオペラというケーキは本当に綺麗だ。深い艶があるチョコレートの上に、控えめで上品な華を添えるように金箔が乗っている。この金箔がなかったら、オペラはきっとここまで魅力的じゃないんだろうな……。

 なんて考えながら食べていたからだろうか、変にむせた。かっこ悪い。

「おや、どうしたんだいアウトサイダー。もしかして、音楽の小骨でも刺さった?」

 テレプシコーラはジタバタするぼくにそう愉快そうに聞いてくる。絶対にからかわれている。ぼくはせっかくの美味しい紅茶をぐいぐい飲んで涙目になりつつも、

「ただむせただけだよぉ、……」

 と申告する。かっこ悪い!

「ふふ」

 空になったカップを取り上げて紅茶を注ぎながら、テレプシコーラは笑った。

「アウトサイダーはもしかして哲学者の生まれ変わりかもしれないね。星を見るために井戸に住むかい?」

「テレプシコーラってばぁ……」

「ごめんごめん。じゃあもし本当に音楽の小骨が刺さってしまったらどうするか、教えてあげるよ」

「へえ?」

 本当に刺さるんだ。もしかして、ただからかっていただけでもないのかもしれない。どうするの? と聞いたらテレプシコーラはくすりと目を細めた。

「歌えばいいのさ」

「取れるの?」

「もちろん」

 魚の小骨なんかとはやっぱり訳が違うみたいだった。感心すると同時に、一つ、疑問が浮かぶ。

 「そういえばテレプシコーラ、どうして今まで鼻歌すら歌っていなかったの? 上手なのに」

 するとテレプシコーラはむぅ、と口を尖らせた。

「……だって、テレプシコーラがちょっと上手、ぐらいの歌を聞かせる訳にはいかないじゃないか。本当はまだ練習中だったのだよ!」

 練習中? 確かテレプシコーラというのは元は、芸術の女神ミューズのうちの一柱で、特に舞踊と合唱を司る……ああ、そうか、なんだ、テレプシコーラは、ただ―

「きみもかっこつけたがりだったんだね、テレプシコーラ! あはははは!!」

「わ、笑うことないだろう、アウトサイダー!」

 テレプシコーラはぎゅうっと手を握って抗議する。なんだかそれが可愛くて、ぼくは余計に楽しくなってしまった。

「いいじゃない、ぼくたちお揃いだよ、テレプシコーラ! あはははははは!」

「そんなことでお揃いでも……ふ、ふふふ、あはは!」

 テレプシコーラもついにきゃらきゃらと笑いだした。ぼくたちの声が、部屋に響く。

「あははははははっ!」

「ふふふ、あはははははっ!」

 何が楽しいんだかよく分からないけれど、互いの今まで聞いたことがない声をたくさん聞けること、それは間違いなく楽しいことに違いないのだから、ぼくたちはとりあえず心ゆくまで笑い続けていたのだった。

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