家族の肖像
俺と嫁は、結婚して6年になる。その間、俺は会社で課長になり、仕事がどんどん面白くなって行ったし、嫁は娘を産んで母になった。
俺は仕事にかかりっきりになり、嫁は娘にかかりっきりになった。
俺達は同じ家に居ながら、少しずつ、その距離を遠いものにして行った。
ある日、こんなことがあった。娘が交通事故に遭い、嫁が俺に連絡を取ろうとしたらしい。だが俺は携帯に出ず、帰宅後、嫁にこってり絞られた。
幸い娘は軽傷というか、ほぼ無傷で、俺が帰宅した時も、絵本を読みながら何やら元気に絶叫していた。ホッとした俺は他意もなく、まぁ無事でよかったなー、と言ったのだが、それが嫁には気に食わなかったらしく、俺は頬を張られた。
「この子が心配じゃないの!?あなたにとって、私達は何なの‼」
涙を目に溜めた嫁は俺を叱責し、娘を呼んで抱き寄せた。娘は嫁に抱かれてきゃあきゃあ言っている。俺は溜め息をついた。
嫁はいつも、すぐヒステリーを起こす。そうなると俺は、ゆっくり溜め息をつきながら、飯は、と言って嫁に食事の用意を促す。それが日常なのだが、その日は俺のいつも通りの言葉に対し、嫁は顔を強ばらせながら一言、知らない、とだけ言って自室へ引っ込んだ。
リビングに取り残された俺は、炊飯器の中の白米を茶碗に盛り、海苔の佃煮を付けて食した。娘がしきりに、のりのりちょうだい、のりのりちょうだい、と俺にねだった。
俺は娘に「辛いのだめだ。のりのりあげたら、パパがママに怒られるだろ?」と諭したが、俺の言葉に娘はしゅんとなりながら口を尖らせ「パパはもうママに怒られたよ」と涙ながらに呟いた。今度は俺がしゅんとなった。
……俺は、自分で思っていたよりもずっと深く、家族を愛していたのか。
答えは出ない。
地面に座り込んでいた俺は、突然の木々のざわめきに驚き、立ち上がった。俺は、誰かに見られているかの様な気がしていた。風はない。ただ、木々のざわめきが続いていた。
と、次第に木々の音と共に、どこからともなく低い声が俺に降り注ぐ。
「お前は、この世界に新たに来た者だな? 悪いことは言わん、元いた場所へ引き返せ!!」
声は高空から響いていた。俺は姿見えぬ相手へ対し、大声で答えた。
「教えてくれ!この世界は何だ!?あんたもどこかからこの世界に来たのか!?」
木々のざわめきが止んだ。