第1の駅
駅に着いたのは、日の高い真昼だった。
゛2日間、ここに停車する゛
そう久遠から聞いた俺は、列車を降りて散策してみることにした。
昨夜、永い夜を過ごした俺は、まだ眠いというか、体がいやに重かった。睡眠不足で疲れていたのだろう、俺は猫背になっていた様で、食堂車に向かうのも億劫だった。
朝の話になるが、食堂車には、すっかり覇気を取り戻した元気な山本がおり、厨房で腕をふるっていた。
にこにこと笑顔で俺を迎い入れた山本は、昨日のことなど何も憶えていないかの様に元気いっぱいで、俺の姿を見るやいなや、背筋を伸ばせ、とジェスチャーで伝えて来たが、俺はわからないフリをしてビュッフェの玉子を腹に詰め込んだ。山本も忙しかったのだろう、それ以上は何も俺と関わらず、一心不乱に鍋をふるっていた。
そしてこの第1の駅であるが、どうやら降りるのは俺だけの様で、少し戸惑ったが、反面、子供の様な冒険心が湧いて来た。俺は重い体を忘れていた。
駅の周囲は見渡す限り森林だった。足取り軽く森に入っていた俺は、木を掻き分けてずんずん進んでいた訳だが、小一時間ほど進んだ後に、あることにふと気付くこととなった。何と、帰る方向がわからないのだ。俺は途端に疲れがドッと来た。
その場に腰を降ろした俺は、困った状況にもかかわらず、全く1人きりの状況に何故かホッとした。
「今なら、泣いてもいいよな……」
呟きながら、声が震えるのが自分でわかった。俺は誰はばかることなく大声をあげて泣いた。
いきなりの孤独。
今まで張り詰めていた何かが切れた俺は、とめどなく溢れる涙を拭くこともなく泣き続けた。その間、俺の脳裏には何度も、嫁と娘の顔が浮かんでは消えた。