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乗車
俺は何となく列車を眺め、考えていた。
近年、俺は家族の為に、自分自身を犠牲にして来た。身を粉にして働き、心の中の何かをすり減らし続けた。その時、家族は俺に何もしてくれはしなかった。何も与えてはくれなかった。
やすらぎさえも。
そして、心がふいに限界点を突破した時に、俺はこの列車に乗り、自分のいた世界から離れ始めている。
不謹慎かも知れないが、俺はこの状態を楽しいとさえ思い始めていた。正直、嫁や娘がどうなろうが、知ったことではないと思い始めていた。それは俺が常に何かに虐げられて来たからだと思う。
しかし、今は自分がいた世界から解き放たれた。
否応なく生きていた世界から抜け出したという、選ばれし者の恍惚は、俺の心を捉えた。
若い頃の俺の様に、自分の思うままにやってみたい。
俺は嫁の銃と娘の剣を握り締めながらも、既にそこに意識はありはしなかった。
不安は微塵もなかった。
俺は、列車に飛び乗った。