滑稽な道化たち
マザーの住処は、小さな幕舎の様なものだった。簡素な鍵が付いていたが、小林は光剣で扉を斬り壊し、中に入って行った。中は、物が散乱していて、小林の銃は、床に無造作に転がっていた。
「岩岡、お前はそれ持って先に帰ってろ」
小林はぎらついた目を俺に向けて、そう言った。小林と彼らには深い因縁がある様だし、俺はあまり深入りすべきではないと考え、小林の言う通り、銃と光剣の入った袋を持って、先に列車に帰ることにした。
俺が幕舎を出るなり、背後から無数の銃声が聞こえた。
「岩岡、早く行け!走れ!」
幕舎内から聞こえた銃声と小林の声に呆然としていたままの俺だったが、意識とは裏腹に、俺の足は全速力で走り、幕舎から離れて行った。
俺は列車に戻った。力一杯走って帰った俺は汗だくで、列車内の通路を歩きながら息を整え、汗がひくのを待った。落ち着くと、俺は小林の安否が気になった。幕舎の中で、何があったのだろうか。
数時間後、小林は無傷で帰って来た。
「おい、もう1度出ようぜ」
小林は着替えながら、俺に服を投げてよこした。着替えて布で顔を隠した俺達は、再び外に出た。行き先は、あの酒場だった。
俺達は、カウンター席に陣取った。酒場の中は、喧騒が戻っていた。村田も、ケガをしてはいるが、仕事をしている。そして、マザーとあの太った奴が、酒場に入って来た。奴らも、カウンターに座った。
小林が小声で言う。
「俺はな、あの後、すぐ出発だからっつってマザー達を残して戻ったのさ。だから奴らは、まさか俺達がここにいるとは思わねぇ。さ~て、あいつら、何て言い出すだろうなぁ~」
でたらめに巻いた布地の間から、目を細めて笑っている小林の表情が伺い知れた。
「小林お前、嫌な奴だなー」
俺も笑ってしまった。そして正体を隠したまま俺達は、奴らの様子をチラチラ見ては目を合わせて笑った。そうこうしていると、酒場に入って来た男達のうちの1人が、マザー達を見付けて声をかけた。
それを合図に、酒場の中の人間がカウンター席のマザー達に殺到した。どうなったか気になっていた様だ。マザーが口を開いた。
「あいつらは、私らが殺してやったよ!死ぬ間際に、情けなく命乞いして、哀れなモンさ!前に私が銃を勝ち取った時も、命からがら逃げた奴だからね小林は!腰抜けさ!」
あの太った奴も得意気に言い放った。
「俺は作戦で降参したけど、あいつらはマジだったからな!俺の酔いが醒めた時が、奴らの最後だったのさ!」
それを聞いた俺達は、腹を抱えて大笑い。そして小林が布を取って、銃を天井に向かってぶっ放した。奴らは目を見開いて固まっている。他の奴らは、1人残らず伏せている。俺はもうおかしくておかしくて、笑い転げてしまった。
「小林!小林!お前、命乞いしたのか!?」
「するワケねぇだろ!俺の銃と剣も、盗んだんだぜこいつらは!こいつらに、勝負する度胸なんてあるワケねぇだろ!とんだホラ吹きだなマザー!」
周りの奴らが、口々にマザー達を非難する。どうやら、マザー達はここのボス格で、ハッタリで相当幅を利かせていたらしい。そのハッタリが崩れたワケだ。
「もう出発だって行って帰った甲斐があったぜ!俺らがいないと思って、デカいツラして嘘ばっか言ってやがった!俺だけは助けてくれ、なんて言ったマスターもいるじゃないか!傷はどうだいマスター!」
悪ノリした小林は、床にも壁にもテーブルにもガンガン銃を撃ちながら、大声で村田に問いかけている。俺は伏せた奴らから、銃と光剣を取り上げて行った。
「ホラ吹いたら、また痛い目見せるからな!」
奴らも奴らだが、俺達もまるで子供だ。大笑いしながら、酒場を後にした俺達は、肩を組んだりして調子に乗って列車に帰った。その後の食事が美味かったのは、言うまでもない。




