マザー
初老の女はしっかりと歩いて、酒場にやって来た。ガランとした店内には俺、村田、酔っ払い、そしてカウンターに隠れた小林しかいない。酔っ払いを見つけた女は、にこにこして奴に近付いた。
この女がマザー。
俺はその姿をじっと見つめた。俺の視線に気付いたマザーが、酔っ払いに話しかけた。
「私とずっと一緒にいたいなんて言ってくれている男ってのは、あの子かい?」
酔っ払いは卑屈な笑顔で大きく頷いた。酒場の電話を借り、マザーを呼び出した酔っ払いの役目はここまで。黙りこくって、マザーの背中を凝視している。のこのこやって来たマザーは上機嫌で、俺の隣に座った。
「ずっと私と一緒にいたいのかい?ふふ……」
俺は頷き、話を合わせた。20歳も年上の女なんてシュミじゃないのだが、俺は小林の雰囲気に呑まれて協力していた。無心だった。
俺はマザーを引き寄せると、おもむろに体をまさぐった。マザーは勘違いして、吐息を漏らした。俺は構わずマザーの腰から素早く銃を抜き取り、カウンターの向こうに投げた。
「何だい!?」
恍惚の表情から一転、マザーは状況を飲み込めず、キョトンと俺の顔を見つめた。俺はサッと離れ、マザーに銃口を向けた。
「動くな」
小林も下卑た笑みを浮かべて、マザーに銃口を向けていた。俺が投げた、マザーが所持していた銃は、カウンターに隠れていた小林の手にあった。
小林は、カウンターを乗り越えながら、太った酔っ払いの太股に1発ぶっ放した。情けない声をあげて崩れ落ちる酔っ払い。
「この銃は俺のじゃねぇ。お前のだなババァ。おいババァ、俺の銃を返せ。今すぐだ!」
マザーはババァ呼ばわりされて怒り狂い、激高したが、小林に足を撃たれて大人しくなった。目を白黒させながら、足の止血に夢中のマザー。小林はそんなマザーのこめかみに銃口を突きつけた。
「……もう1度だけ言うぞ。俺の銃を返せ!」
マザーは涙と鼻水を流しながら、コクコクと頷いた。
小林はマザー、村田、太った酔っ払いの銃と光剣を奪った。それを袋に詰め、俺に持たせた。酒場を出る際には、村田の脚をメッタ撃ちにし、太った酔っ払いに支えさせて、連れて来させていた。何処にも連絡させない為らしかった。俺達はマザーの住処に向かった。




