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転生原因が萌え死ってありですか?

俺の名は丸居媛(まるい えん)、どこにでもいるぽっちゃり丸々としたピッチピチの三十路のオタクだ。

え?アイドル?アニメ?漫画?どのジャンルのオタクかって?

ん~、今言ったジャンルも好きだよ愛してるよ!俺は色々なジャンルを幅広く愛するオタクだからね。でもね、ジャンルの中で一番ドキドキさせてくれるのはね…。

ナ・イ・ショ♪



「どうした?エン、考え事か?さっさと行くぞ」


「は、はい!主!今行きます」


丸井媛ことエンはフルアーマープレートに身を包んだ長身の男の後を慌てて追う。

彼はつい最近、異世界に来た転生者だ。

元居た世界で神絵師の描いた二次元嫁のイラストをパソコンで拝んでいる最中に脳溢血で突然死。

彼と親しい友人達は葬式場で皆口をそろえて 「死因は萌え死か…最期の最期までお前らしいぜ」 と故人の死を悼んだ。

それはともかく、丸井媛は死んだ。

死んで、どこかの本で読んだ話の如く異世界転生したのだ。

しかも、全裸で。

その後、何やかんやあって服をゲットして、更に何やかんやあってちょっと変わったご主人様をゲットした。

その『なんやかんや』の部分やこれからの彼の事は次から語ろう。


これは一人の意外な特技持ちのぽっちゃりが異世界転生した先で我が道を行く物語である。


****

吾輩はぽっちゃりである。

でかくて丸くて腹はたぷんたぷんで体はぼよんぼよんしているが豚ではない、人類なのでぽっちゃりと言ってほしい。

突然だが、俺は大草原の中で全裸で寝転んでいる。


「ないわー自分の部屋で神絵師のイラスト見てたら頭痛して気を失って、起きたら大草原で真っ裸とかないわー」


呟いても一人。これが本当の大草原不可避。うん、笑えませんなぁ…。

これは夢か?そうじゃないとこの状況の説明は付かないだろう。

まだ明るいとはいえ、全裸で寝転がっていりゃ風の直撃受けて寒い。

俺のように体型が横にビックな人間と言えど寒いもんは寒いんだよ!脂肪の貯金をしていても寒いもんは寒いんだよ!


「夢なら早く醒めてくれー」


やる気なく呟いても声は空しく風に消えていく。


「はれ?」


だが、俺の呟きに応えるように目の前に何やらゲーム画面のウィンドウが現れた。

一昔前のゲームの様に荒いドットで書かれたそれには 『いせかいにようこそ』 と書かれていた。

異世界にようこそ?

あー読めたわー、よくある異世界転生かー。っていう事は俺死んだのかー。神絵師の絵を見て萌え死んだなんてオタク冥利に尽きるわー。


「などというかと思ったかーーーーー!?何だよ異世界転生って!?トラックに轢かれなくても出来るの!?しかも転生だから、生まれ変わったから俺今生まれたままの姿なの!?どういうことなの!?」


流石に叫ぶわ!色々詰んでない?だって現在地も異世界の事もよく知らないし、初期装備品もないんだぞ?布の服も木の枝も無いんだぞ!?

あ、新しくウィンドウに文字が…。何々…? 『こちらのせかいようにげんごのちょうせいもした すてーたすももとのをさんこうにすこしおまけしておいた まあがんばれ』 だ…と…?

何が頑張れだ馬鹿たれーーーー!!ステータス上げるんなら流行りのチートにしろよ!え? 『それはむり』 だとこの野郎!!大体お前何者!?何なの? 『そうぞうにまかせる じゃあ ふぁいと』 ?はぃぃぃぃぃぃ!?あーもうふざけんな!!

あーはいはい、分かりましたよ、頑張って生きますよ。折角転生したんだ、好きなようにさせてもらいますーだ!

つうかこのウィンドウどうなってるんだ?お?『とじる』押したら閉じた。開くときは?あ、開いた。念じると開く仕様?はいはい、『もちもの』欄は…って何も無しかよ、世知辛ぇなぁもう。念のため装備は…はい、『げんざいそうびひんはありません』ですよねーわかってまーす…。


「兎に角、移動するか…」


いつまでも寝転んでいても仕方ない。俺は草の上から起きあがり、果てしない草原を歩き出した。

全裸で。


「元の世界だったらポリスメンカミングスーンまったなしじゃねーか」


早く服をどうにかしないと。

じゃないと裸族という名の新しい扉が開いてしまいそうだ。

そして歩いて歩いて歩いて、日が傾き始めた頃ようやく平原を抜け森に差し掛かる。

だが、流石に森に入るのは躊躇われた。

いやね、野宿って言うか若気の至りで一人旅したことあるよ?一人キャンプとかやったことあるよ?でもさー今の俺は装備品ゼロ持ち物ゼロの素っ裸マンよ?元いた世界にも森にはヤバいのがいたからな。蛇に鹿に熊。異世界だから獣じゃなくて魔物もいるだろう。そんな奴らの巣穴にディナーとして入るのは愚の骨頂だ。

だが、夜になると気温は下がる。木の枝拾って焚火をして暖を取りたいが、どうしようか…?

悩んでいる間にもどんどん日は傾いていく。


「しゃあない…腹括るか」


何もない草原で凍えて死ぬか、森で得体の知れないものに襲われて死ぬか、デッドorデッドなら生き残れる可能性が少しでもありそうな方を選ぶ。森なら木の枝や落ち葉燃やして暖を取れるから何とかなるだろう。変なものに襲われたら?逃げりゃあいいだろう。どうせ一度死んでいるんだ、何かあったらまた死ぬだけだ。

意を決して森に踏み込む。一応周囲の気配には気を配って歩く。勿論、道に迷わないように枝を中途半端に折って目印にしながら進む。

幸い、変な気配はない。適当に落ち葉や木の枝拾って入り口付近まで戻るとするか。火を起こすのは幸いウィンドウの『まほう』の『ふぁいや』を使えばいいだろう。ファイヤって書いてあるから火の魔法だよな?これで違う魔法だったらキレるぞ?


「ん?」


どこからか金属の打ち合うガチャガチャという音が聞こえる。音の大きさから割と近くか?しかも 「むぅー…むぅー…」 とくぐもった感じではあるが、これ人の声だよな?金属音と同じ方向から聞こえてくる。

うわー、丸腰だからあまり変なものと関わりたくないー。これでもし厄介ごとだったらどうする…?


「んんーーーっ!むーーーーっ!!」


更に激しく金属が打ち合う音が響き、人の声は大きくなる。

無視できる、このまま何も見なければ自分は聞いてない見てないことに出来る。こちとら異世界に来てまだ一日と経っていないんだぞ?


「んんんーーーーっ!!!んんーーーーーーー!!!」


はい、声の必死さが上がってきたぞー。どうするの俺?


「…取りあえず様子を見に行くか」


どうにも嫌な予感がするが、ヤバかったら引き返せばいい。ああもう、予感が的中してませんようにー異世界にも神様いるかどうかわかんないけど神様おねげーしますだー。

木から木へ、足音を立てないように歩く。勿論、素足なので石とか木の枝とか避けて慎重に音と声のした方へと移動する。でも地面に落ちてるものが足裏のツボ刺激する、痛いぞ畜生!

心の中で 「嫌な予感がするよー」 「嫌だなー怖いなー」 とか内なる自分が警告してくる。が、好奇心とかもし人の人命にかかわる事だったら?という気持ちの方が僅かながら勝利していた。

んー、何か暗がりで松明の明かりが見えるなー。あ、音と声あっちからだ。

足音消して、誰かいたらヤバいから木の陰に体を隠して…うん、ここの森は太い木があって助かったわー。

さてさて、何やってるのかなー?


「うわぉ」


俺の素直な呟きは幸い喧しい金属音に隠れて向こうさんには聞こえなかったようだ。

いやはや、不用心に声を上げたくなるよ。だってなー、フルアーマープレート装着した長身の人物が手足縛られて地面に転がされて、皮の鎧着ている雑魚っぽい男に剣で殴られてんのよ?なんかこの光景おかしくない?


「まったくよぉ…ふざけんなよこの馬鹿が」


「奴隷のくせしてヘマしやがって」


二人の男はぶちぶち何やら文句たれながら鎧の人物をガンガン剣で叩き続ける。

その愚痴を簡単にまとめると 『買った奴隷を金稼ぎの為に闘技場で闘わせてみたら初戦であっけなく負けてしまい大損した』 らしい。うん、フルアーマープレートなんてご立派なもの着てるからな、期待しちゃうよなー。


「むむーっ!むーんーっ!!」


「何言ってるか分かんねぇよ!期待外れ野郎が!」


「身ぐるみ剥がして売り飛ばそうと思ったら、呪われた鎧とかふざけてるよな。仕方ないから、ちょっと魔物に襲われて死んでくれ」


んん?何かすごくきな臭い事言いませんでしたか?


「持ち主が死ねば鎧剥がせるからな。ちょいと強力な魔物寄せの粉撒いてやるから頑張って死んでくれ」


頑張って死ぬって、何か言葉おかしくない?その前に魔物寄せっていいました?


「ひゃあっ!」


男のうちの一人が怪しげな瓶を取り出して鎧の男に振りかけようとした時、俺はわざと「情けない声を上げながら派手に地面にずっこけて見せた。


「何だ!?」


地面から顔を上げると、男は警戒しながら俺に剣を向けている。が、全裸の太めの男だと分かるや否やその顔には小馬鹿にしたような笑みが浮かぶ。


「す、すいましぇーーーーんっ!み、身ぐるみ剥がされて捨てられて…ここどこですかぁ!?」


俺の情けない声が森にどこまでも木霊する。



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