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現代のお話

梅の花はいかにして咲くか?

作者: 入江 涼子

私は考える。


何故か気になって仕方ない。梅や他の花々は咲くことについてだ。くだらないだろうが調べてみる価値はある。そう思ったのだった。


「…藍川さん。また、何か考えているの?」

ふと、私に仕事先の同僚が声をかけてきた。彼女は名前を川上さんという。年齢は三十を一つ越したくらいだ。

「まあね。梅とか他の花が咲くのは何でかなと思って」

「はあ。難しい事を考えていたのね」

川上さんはぴんとこないといった表情で答えた。私も苦笑いする。

「川上さんはお花が咲く理由はわかるかな?」

「そうねえ。植物でもお花を咲かせるのは被子植物といってお花を咲かせないのは裸子植物というと学校で習ったような。まあ、次代に繋げるためにお花を咲かせるとはよく言うわ」

川上さんがそう言ってくれたのを聞いて疑問が解けた。

「ああそうだった。私も馬鹿だわ。植物は次代に命を繋げるためにお花を咲かせたりするのよ。ありがとう。一つ疑問が無くなったわ」

「それはどうも。藍川さん、それより仕事に戻らないと。お昼の時間が終わっちゃう」

そうねと頷いて川上さんと一緒に仕事に戻ったのだった。



仕事を終えてから一人で自宅に帰ろうとした。川上さんが声をかけてきた。

「藍川さん。今日は一緒に帰ろう」

「珍しいね。いつもは他の人と帰る事が多いのに」

「うーん。ちょっと気が向いたというか」

川上さんは曖昧に笑いながら言う。私は何も言わずに歩き出した。

川上さんもてくてくと付いてきた。無言でしばらくいると向こうから話しかけてくる。

「ねえ。藍川さん」

「ん。なあに?」

「お昼に話していた事なんだけど」

川上さんは少し考えながらこう続けた。

「お花は何故咲くのかはわたしにもはっきりとわからないんだ。けど、命を繋げるのは自然の生き物にとっては大事な事らしいから」

「まあ。川上さんの言う通りかもね。自然の生き物にとっては確かに大事ではあるわ」

「でもね。藍川さんてちょっと浮世離れしているというか。そう人に言われた事はない?」

川上さんに言われてそうねえと頷いた。

「よく言われるわ。けど、生き物の事とかは興味があるから。どうしても調べてしまうの」

「ふうん。藍川さん、生き物が好きなのね。例えば、どんな生き物が好きなの?」

ふと、尋ねられて私は考えた。どんな生き物をかあ。

「…うーん。例えば、犬とか猫とか。爬虫類でもイグアナは好きかな」

「へえ。わたしも犬は好きよ。可愛いものね」

「可愛いというより私の場合は犬や猫の生態に興味があるの。聞いた事があるんだけど。犬と猫のご先祖は同じなんだって。ところが住む場所が違う事によってあんなに違う生き物になってしまったらしいわ」

「えっ。犬と猫って同じご先祖を持ってるの。それは初耳だわ」

「私も聞いた時は驚いたわ。けど、本当らしいの。化石を調べたりする内にわかったみたいよ」

その後、イグアナにも海に潜って海藻を食べる種類がいるとか犬のご先祖は狼ではあるけどもっと昔を遡ったらある一種類の生き物から犬と猫に別れたとかをつらつらと話した。

川上さんは驚きながらも興味が湧いたようでへえと言いつつも聞いてくれた。つい、熱中してしまって既に自宅のアパートに着いていた。

慌てて川上さんに言う。彼女も気がついたようで慌てて挨拶を交わした。そうして各々自宅に帰ったのだった。



翌日、仕事場ー会社に向かう。私は徒歩でいつも会社に行っている。でも、昨日はやっちまったなと思った。

あんなに生物学マニアな所を晒け出さなくてもよかった。普通は犬と猫のご先祖なんか興味持たない。

自分はこんなに変わってるんですと盛大にアピールしてしまったのだから。川上さん、怒ってないかな。

気が重くて会社に行きたくない。けど、行かないと自分が困るし。悶々としながら歩いた。

会社に気がつけば、着いていた。中に入りオフィスを目指す。エレベーターを使い、二階に上がる。

オフィスに入ると川上さんが挨拶をしてきた。

「あ。おはよう、藍川さん」

「お、おはよう。川上さん」

どもりながらも返事をする。川上さんはにこやかに笑いながらこう言った。

「昨日はどうも。勉強になったわ」

「え。私、大した事は言ってないわ。本当かどうかもわからないし」

「…ふふ。あの後ね。うち、パソコンがあるから。実際に調べてみたの。そうしたら藍川さんの言っていた事が載っていたのよ。夢中になって読んじゃったわ」

「あ。そうだったの。調べる事までやってくれたのね。てっきり、川上さんが余計な事を言ってって怒ってると思ってたわ」

私が正直に話すと川上さんはおかしそうに笑った。

「怒ってなんかいないわ。むしろ、勉強になったから。わたしも子供の頃はその。金魚やカナリアとか飼っていたの。まさか、こんなに近くに犬と猫のご先祖について知っている人がいるなんてね。驚きはしたけど。色々と教えてもらえて感謝しているくらいよ」

「そう。ほっとしたわ。ありがとう」

「お礼を言うのはこっちよ。藍川さん、また機会があったら教えてね」

「うん。私でよければ、また調べておくわ」

二人して笑い合った。仕事に精を出したのだった。



それから、川上さんとは互いに教えあいっこをするようになる。私が生物学や天文学の事を言えば、川上さんは雑学を披露してくれた。

川上さんは意外と知識欲旺盛な人で私が言った事を砂に水が染み込むように覚えた。お酒は互いに飲めないのでコーヒーや紅茶を飲みながら談義に花を咲かせた。

「川上さん。今日は星座について話そうと思うの」

「あ。星座かあ。どんな話をしてくれるの?」

「そうね。カシオペア座は聞いた事がある?」

うんと川上さんは頷いた。私は説明する。

「空を見上げたらWの形をした星座があるの。それがカシオペア座。とても見つけやすいから探してみたら面白いわよ」

「へえ。それは聞いた事があるかも。確かプラネタリウムだったかな」

「うん。それでも言っているわ。まあ、見つけやすいから目印にいいかも」

ふうんと互いに言いながら淹れた紅茶を飲んだ。私はレモンティーで川上さんはミルクティーだ。

川上さんは甘いものに目がない。私は生クリームが苦手だが。それを言ったら憐れむような目で見られた。

解せない。そんな事を思いながらもどこそこのプラネタリウムは評判がいいと話した。

「そういえば、近所のプラネタリウムはいいらしいわよ。何でも寝てもかまわないんだって」

「そうなの。そんな所があるのね」

「一回、行ってみない?」

川上さんが不意に尋ねてくる。私は驚いて固まってしまう。

「…え。川上さん、彼氏とでも一緒に行くの?」

「何で彼氏と行かなきゃいけないの。わたしは藍川さんと一緒に行きたいの。だから、誘ったんじゃない」

「けど。私と行ったってつまんないわよ」

「いいのよ。わたしは藍川さんと行きたいんだから。彼氏とはいつでも行けるし」

そうと言うと川上さんはミルクティーの入ったマグカップをテーブルに置いた。

「じゃあ。決まりね。今週の日曜日の午後二時頃に藍川さん家に来るから。待ってて」

「うん。その日は予定を空けておくわ」

二人で約束したのだった。



日曜日になり約束通りに川上さんがうちにやって来た。二時までに着替えやメイクは済ませておいた。

髪もアップにしておいたので川上さんは驚いていた。とりあえず、アパートを出てバス停に向かう。

お財布や必要な物はカバンに入れている。当たり前ではあるんだけど。友達とお出かけなんて久しぶりだ。

川上さんも髪は後ろに纏めてメイクもナチュラルにしている。服も上は白いシャツにジーンズ生地のジャケットで下はジーンズとスポーティな感じだ。

私服は意外とボーイッシュだなと思いながら歩く。バス停にたどり着き、川上さんはにこりと笑う。

「藍川さんて私服はガーリーな感じね。スカート履いてるの見た時は驚いた」

「そうかな。会社の制服も女性社員はスカートじゃない」

「うん。そうなんだけど。ただ、藍川さんは普段ズボンのイメージがあったから」

川上さんはそう言って私に手を差し出した。どうしたのだろうと首を傾げたら川上さんは苦笑する。

「エスコートではないけど。バスが来たみたいだから。行こう」

私はやっと意味がわかったので躊躇いつつも川上さんの手に自分のを重ねる。見かけによらず、強い力で握られた。驚きながらもバスに向かって歩き出す。そのまま、乗ったのだった。



プラネタリウムのある天文台に着くとチケットを買ってお客の列に並ぶ。けっこう、人気があるみたいで長蛇の列ができている。

三十分近く待ってやっとプラネタリウムの行われる部屋に入れた。十分さらに待つと室内が暗くなり始めた。プラネタリウムが始まったらしい。横に座る川上さんも気づいたのか上を見上げたようだ。

ドーム型になったスクリーンに星空が映し出された。リラックスできる音楽が流される。

夢中になって案内人だという男性の声に聞き入った。その内に眠気がきて寝てしまったのだったー。


プラネタリウムが終わり川上さんに起こされた。笑いながら川上さんは「やっぱり眠くなったでしょ」と言った。頷くとここはそのようにプラネタリウムを作っているからねと説明してくれた。

出口からプラネタリウムの部屋を出る。明るいので目を細めた。川上さんは行きと同じように手を繋いでゆっくりと私に合わせて歩く。

「眠っちゃったけど。よかったでしょ」

「うん。眠ってもいいんだったらまた来たいな」

ははっと二人して笑った。バス停にまで来ると繋いでいた手を放した。川上さんにお礼を告げる。

「川上さん。今日はありがとう。楽しかった」

「こちらこそどういたしまして。楽しんでもらえたようでよかったわ」

川上さんは嬉しそうにする。私はバスが来たと言った。停まったので乗り込んだ。

出発したバスの中で今度は互いの彼氏を誘い合って行こうと話し合ったのだった。

終わり

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