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1-2

黒い。

とにかく黒くて、真っ黒でそれしかない。

視界の全てが暗黒に捕らわれて光なんかどこにもない。

もしかしたらここには光なんて概念なんて存在しないのかもしれない。光もも闇も一緒になっているのかもしれない。

手を動かすと水の中にいるみたいなゆるい抵抗を感じる。

気持ちの悪い感触だったが気にせずに奥に進んでいいく。

「どこかにある心臓部を砕けば終わる。」

「ここは本当に薄気味悪いな。」

俺の心の声が今は懐かしい俺の本来の声で聞こえる。

ここはいつも人の心の中の声をわざわざ音読してくる。

「気色悪い感触だ。」

「はやく終わりにしてしまおう。」

「ネーナは無事だろうか。」

「襲われていた彼も大丈夫だっただろうか。」

気にしていてもしょうがない。

「しっかりと測った事はないが、この中はいつも見た目よりもずっと広くような気がする。」

「気がめいりそうになる。ここはいつだって俺を陰鬱にさせる。」

視界は相変わらず暗黒で、手探りで進んでいくしかない。

「飲み込んだ魔物や人間や動物達の亡骸さえ存在しない。」

「きっとこの中では全ての存在が暗黒に塗り替えられているのだろう。」

「じゃあ、俺はなんだ?」

「なんで、俺はそうはならない?」

「なんで?」

黒い、なんて黒いんだ。

「「本当に嫌になる。」」

聞こえてくる声と俺の実際の声が重なった。

「別に狙った訳じゃない。」

と、そこで手が何かに触れた。

「見つけた。」

「見つけた。」

「見つけた。」

それは固い皮に覆われた木の実のようなものだと思う。

「ああ。見つけたよ。」

と俺の声。

「心臓。」

「宝。」

「心臓。」

こいつも生き物だと実感できる唯一の瞬間が心臓を見つけた時である。

不気味に人の中を暴いていくこいつが焦ったように単語を連発するようになる。

この心臓について、実際はどんな形をしているかは視覚的に捉えたことがないので想像でしかない。

毎回違う形をしているようにも感じる。

両手で包むように心臓を掴む。

そして思いっきり力を入れる。

グシャっと弾けるような感触がした後、心臓も暗黒に還っていく。

声はもう聞こえなくなくなり、視界の暗黒も段々と薄くなっていく。

明暗が捉えられるようになって外界の輪郭が浮かび上がっていく。

ゆっくりと流れるように消えていく暗黒。

その中で唯一、暗黒の世界から乖離していたなによりも黒い、嫌になるほど漆黒の自分の姿だけがとりのかされていく。

「だから嫌なんだよ。」

自分がいったのか、それともまだ声が聞こえたのか。

とにかくそんな呟きが聞こえて、なんだかたまらなくなってしまった。

魔獣の中に入るのはいつも怖い。

そのまま飲み込まれていくのではないかという恐怖ではない。実際に俺は飲み込まれるどころかあの全てを包みこみそうな暗黒からも拒絶されている。

本当に怖いのは魔獣が消えた後だった。

ふと頭によぎるのは、そんなに長い事あそこにいたつもりはなくても実際には何十年も経っているのではないかという感覚。

外界と自分の中に明確なズレがあるのかもしれないという悪寒。

実際はそんな事もなく、特に問題すらなく出てこれるわけだが、もしかしたら多少は感覚のズレはあるのかもしれない。

年とか月単位ではなく、時間とか分単位のズレは生じているのかもしれない。

そしてそれは俺が入った魔獣が小物だからその程度で済んでいるのであっていつか大型を相手にしたりしたらどうだろうか。

いつも通りだとその魔獣の中で長い時間を過ごしてしまい、外に出た時、そこが俺の知らない世界になっていたら・・・

魔獣からも世界からも拒絶された孤独の存在になってしまう。

そんな妄想に襲われるから魔獣の中は嫌いだった。

別にそんな事がなくても俺は孤独で、そんな事はないと側で安心させてくれるような人誰一人として存在しない。

視界が完全に戻った後、辺りを見渡してみたがやっぱりいつも通りの森でちょっとだけ時間が過ぎて日が傾きだしている事以外は特に変化もなかった。

体感的には2時間弱だろう。少女もハンターもどっちも姿は見えなかった。

「逃げ切ってくれたかな。」

女々しいと思う。わざわざ声に出して言ったのは返事を期待していたからだ。

そしてそれを自分でも理解しているのでむなしさだけがこみ上げてくる。

街が遠い存在に思えてしまい。このまま森で一晩過ごそうかとさえ考える。

「逃げる訳ないっすよ。」

驚いて声の方を見ると、剥き身の剣を抱えて茂みに隠れていた少女が出てくる。

「ハンターさんは街に送りとどけたっすよ。そしてその後はずっと隠れていました。流石に怖かったっすし。へへ。」

そう言って誤魔化すように笑う少女を見て。俺は鎧の中で少しだけ泣きそうになった。


ネーナはその後も俺についてきてくれた。

結局そのまま街に戻ってしまったので魔物を狩る事はできなかったのだが、手元には魔獣の心臓の欠片が残っている。

これは俺にはゴミにしか見えないのだが、たまに物好きなやつがいて結構な値段で買い取ってくれる。

まぁ、結構な値段というのは推測でしかないのだけれども・・・。

おそらく通貨として使われているらしい宝石っぽいものを沢山くれるのだからやっぱり値打ちはあるのだろう。

魔物から回収した素材は基本的にギルドに買い取ってもらうか個人で売る事になっている。

今日の戦利品を換金する為にギルドに入るがここでも当然、一瞬で緊張した空気になってしまう。

もう慣れたものだが隣のネーナが固まっている所をみるとやはりこれは普通の状況ではないのだろう。

黙って俺の隣を歩くネーナに少し気を使いつつも何もできないのはなんとも情けないが俺がなにかしてもしそれがネーナに不快感を与えてしまったらと思うとどうしようもない。

ギルドというものは本来は誰かが依頼した雑務を金が欲しい人間に紹介するというのが仕事らしい。俺は一回も利用した事がないので詳しくはしらない。

利用しようと思った事はあるが受付の人を泣かせたあげくに翌日には俺の討伐以来が大々的に募集されてしまい、街にいられなくなってからはあまり関わっていない。

そしてここでは魔物の素材の買取は行っていない。

俺がここに来る理由はカウンター奥の部屋にある。

受付のカウンターの横にある扉を通って先の部屋に入る。そこは結構大型なこの建物の大部分を占めていて、中には人がひしめきあっている。

敷物の上に様々な魔物の素材を並べて愛想よく笑っている人、それを顎に手を当てたりしながら品定めする人、そして商談成立として素材を受け取る人。

ここは露店部屋みたいなものだ。いつも人でひしめきあっていて色んな店が並んでいる。中には食べ物屋なんかもあったりしてちょっとした縁日のようになっている。

その中でなるべく目立たないように部屋の端を目指して歩いていく。通り過ぎる店主達は皆、笑顔を引きつらせて、買い物客はなるべく離れるようにして俺から逃げていく。

ネーナは並んでいる素材を珍しそうに見ながら俺の後ろをついてくる。

「いや~噂には聞いていましたけど・・・ここの露店部屋はやっぱりすっごいっすね!」

と少し興奮気味に話かけてくる。

楽しそうな表情とはしゃいでいる声色を聞いているとなんだか、何か一つみやげでも買ってやってもいいかな、という気分になってくる。

しかしすぐに店が俺に物を売ってくれる保障がない事を思い出す。

ここの店は気に入らない客にいは物を売らない事も多い。

・・・と思う。実際にそういう風な現場を何回か目撃しただけなのだが。

それにかろうじて俺に売ってくれるとしても値段の相場もわからない。少女の前で強盗気味に商品を奪い取るなんてしたくはないので諦めるしかない。

そんな事を考えていると目的の場所へたどり着いた。

そこは部屋の一番隅であり、あまり人のよりつかない賑やかな室内から隔離されたような寂しさがある場所だった。

上質な敷物の上に大きなぬいぐるみがある。そしてその前にいくつかの品物と金を入れる為の箱が置いてある。そしてぬいぐるみの前には「値段は自由に決めてください。」よいう書置きをした紙が置いてある。

ここが俺の店だった。俺がいては商売にならないので人形に店番をさせている。ちなみにこのぬいぐるみは俺の手作りである。自分では可愛くできたと思うが他人のからの評価が気になっていた。チラッとネーナの反応を伺ってみたがネーナは商品に方に夢中でぬいぐるみには興味がないようだった。ちょっとだけ残念である。

品物の減りと金の増加を確認する。前回の補充分は半分ほどなくなっていて金の方は結構増えていた。

俺の持ってくる素材はそれなりに人気があるようですぐになくなってしまう。

値段は自分で決めれるし不当に安くしても文句を言われないのだから当然なきもする。

もしかしたら金を置いていかないで商品を持っていってしまう輩もいるかもしれないが目立った被害は出ていないので考えないようにしている。

俺には金品の価値がわからない。他人に聞く事もできない。だから箱に入っているのがどれくらいの金額なのか、そもそも金品かすらわかっていない。

とりあえずいつも使う分だけ箱の中から取り出しす。そしてさっきの魔獣の心臓の欠片を置いておく。

「うっわぁ~すごいお金持ちなんすね。」

ネーナが目を輝かして箱の中を覗き込む。

それを聞いて、ずっと俺の中で疑問に思っていた、「これは本当に金品なのだろうか?」という疑問は解消された。

そして金額の方も俺の予想通り結構なものだったのだ。

俺が金銭価値をわからない事をいい事にガラクタを押し付けられているのではないかという不安感はネーナの言葉一つで吹き飛んでしまった。

やはり、今日はとてもいい日だ。ネーナに会えた。これだけでこの世界に来てから最上の日なのにまだ嬉しい事がある。

正直、俺にはあまり金は必要がない。なくても生活には支障はない。

この鎧を着ている間は睡魔も空腹も感じる事がない。噴き出ているオーラを鎧の内部に廻らせれば体の汚染は浄化されたようになる。

魔物が蔓延る所でも襲われるような事は不思議とない。それにもしそうなったとしても脅威にはならない。

それでも俺が街にこだわる理由、金を稼いで使う理由、宿屋に帰る理由、食事を取る理由、睡眠を取る理由・・・でれもこれも一つの目的の為だ。

俺は人間でありたい。

自分でも今の状態が人間っぽくない事は理解している。だからこそ人間としての暮らしをしないと自分は本当に化け物になってしまうような気がする。

でも・・・俺の無知が他人にはいい餌になっているのではないかという不安は常にある。俺と対峙している時には怯えて離れていくが、過ぎ去った後は後ろ指を差して笑っているかもしれない。

化け物が人間のふりをしている。便利だから利用してやろう。と・・・

考えても仕方の無い事なのに、どうしても頭から離れない・・・嫌な考え・・・・・・

まだ箱を覗き込んでいるネーナを見て心の中で何度も礼を言う。

そこでふと思いつく。気づいてしまえば当たり前の事だった。

この少女に金品の価値を教えてもらえばいい。

幸い、今日はまだ夕方だ。夜にはネーナも自分の家だったり宿に帰るだろうがそれまではまだ時間がある。

「ネーナ、俺に金の価値を教えて欲しい。」

そうネーナに告げると彼女はキョトンとした表情で俺の方を見た。

「えっ?別にいいっすけど・・・」

当たり前の事を訪ねる俺に不思議そうに返事をしてくれた。


ネーナは丁寧に教えてくれた。

俺が宝石のように思っていたものは直接貨幣として使われている。

虹色に輝いているものが一番高価であり、そこから金、赤、緑、黄、青と並んで価値が下がっていくらしい。

虹色の石は青の100000個分、金が10000個、赤だと1000個、緑が100個で黄が10個。

そう教わってみてから箱の中を見てみると虹色は少なく、金と赤が大半であった。

次に色々な品物の価値について教えてもらった。宿屋の相場から必要のない回復薬の値段の相場までしっかりと教えてもらう。

どうやら俺がよく買っている剣の相場は金1赤5らしい。いつも渡しているのが金3なので倍の値段を渡している事になる。

損をしているのは確かだったが、不思議と悪い気はしなかった。相場よりずっと安い金額で商品を盗んでいるというような不安が消えたからだろう。

次にネーナにこの部屋の店の商品の値段について聞いてみた。

「後ろからついていくから物の値段を言いながら歩いて欲しい。」

別に魔物の素材など欲しくもないがこの行動には別の目的があった。

ネーナは嫌な顔をしないでこの面倒な頼みを引き受けてくれた。

二人で店を見物しながら歩いていく。

「これは金2っすね。これは・・・赤5緑2だと思います。」

値段を言いながら品物を手に取ったり、色々な角度からから眺めたりするネーナ。店主の反応と合わせてこの値踏みが正しいのか判断しようとしたが、それは無駄だという事がすぐにわかった。やはり俺が側にいると意識が俺に向かうようで表情からは恐怖しか読み取る事ができない。

しかし、よく眺めてみると本当に色々なモノがある。魔物の素材をある程度加工したものや既に装備貧として出来上がっているもの、何に使うのかわからないような物もいくつか、薬なんかも置いてあった。そして行く店で行く店でのネーナの表情も多彩で面白かった。謎の仮面を被ってみたり、重い素材を落としそうになったり。見ていて飽きる事がない。

大体の店を見終わった時、結構な時間が過ぎてしまった。もうそろそろギルドの営業時間が終わってこの部屋も解散となってしまう。

「ちょっとここで待っていて欲しい。」

そう言って自分の店にネーナを置いて少し人が少なくなってきた部屋の中心の方に行く。

目的は魔物の素材を加工したものを売っている店だった。店の店主はまた俺が戻ってきたので緩んだ表情がまた緊張してしまってグチャグチャになってしまっている。

並んでいる品物の中から一つを選ぶ。

それは鳥型の魔物から回収できた羽を樹脂で加工して艶が出るようにしたアクセサリーだった。

鮮やかな赤が艶が出る事で幻想的な雰囲気を出すようになっている。

「これを貰いたい。たしか金2つだったな。」

地獄の底から湧いてきたような声に店主は涙目になって頷く。

金3つを取り出すと敷物の上に置いていく。多めにおいたのは気分がよかったからサービスだった。

店をまわっている最中、ネーナが一番はしゃいでいたのがこの店だった。そしてこのアクセサリーをずっと綺麗でと言っていたのを俺は見逃さなかった。

実は店をまわった目的はコレだった。何か一つネーナにみやげを買ってやりたいと思っていた。店の店主が売ってくれて助かった。

自分の店に戻るとネーナにアクセサリーを差し出す。

「わぁ、これどうしたんすか。」

とアクセサリーを見て驚くネーナ。

「お礼だ。」

そう短く返事をする。

「えっ・・・これ自分にっすか?そんな・・・どうして。」

と言って遠慮して手を出さないネーナ。

そんなネーナにもう一度君の為に買ってきたと告げると今度はしっかりと受け取ってくれた。

「自分・・・そんな大そうな事してないっすよ。」

少し恥ずかしそうにしているネーナ。

「そんな事はない。俺にはとても役に立った。」

実際、本当に役にたっている。

感謝だってしきれない程している。

箱の中の金を全部上げてしまっても構わない。それだってまだ足りない。全然足りない。

俺は今日を永遠に忘れないだろう。きっと人生でこれ以上の日などないと思う。

それくらいなのだ。

感謝なんて言葉じゃ表現しきれない。

「・・・。」

「・・・。」

お互いに沈黙してしまって少し気まずい雰囲気になった空気をギルドの営業終了時間を告げるアナウンスが崩してくれた。

「営業終了みたいっすね。そろそろ帰りましょうか。」

そういって入り口の方へ歩き出すネーナの後ろをついていった。

俺の足取りは少しだけ重たく感じた。

今日を終わりにはしたくなかったのかもしれない。

時間は止める事なんてできないのに・・・。

ギルドの外はもうすっかりと暗くなってしまっていた。

ネーナと俺の帰り道は逆方向となっていたようなのでギルドの前で別れる事になった。

「今日はめっちゃ楽しかったっす。本当にありがとうございました。アクセサリー大事にしますね。」

しっかりと頭を下げたあと、背を向けて歩いていくネーナの後ろ姿をずっと眺めている。

まだ、名残惜しい、もっと話をしていたい。一緒にいたい。そう思ったが、あんまり俺と一緒にいるところを見られるもの彼女にとって良い影響があるとは思えない。

彼女の背中が完全に見えなくなるまで、俺はずっと動けないでいた。


俺の泊まっている宿屋は正直にいって相当ボロい。

宿屋というよりも物置といったほうがいいようなそうな建物だった。

店主はボケかけた婆さんで基本的には客に無関心である。

なんせ俺を泊めているくらいなのだからその無関心っぷりには恐れ入る。

基本的には部屋を貸しているだけでその他は何もない。

そんな宿屋に俺は毎日高級宿屋並の金額を渡していたらしい。

しかし俺を泊めてくれる宿屋と考えると払いすぎという気は微塵もしなかった。

昨日は結局、ネーナが見えなくなってからも1時間はそこに立っていたと思う。

宿屋に戻ってから寝る事はできないのですっと椅子に座って奇跡のようなその日の思い出について考えていた。

そのまま朝になってしまったので店主に金を払って外へ行く。

昨日できなかったの魔物狩りにいく事にした。

街の外へ出る門へ行くまでも昨日の出来事で頭が一杯だった。

門を出れば街の外という所で立ち止まる。

何を期待したのか辺りを見回す。

周りには誰もいなく、それどころか物音すらしていないような気がする。

なにか、忘れ物でもしていないか確認したりする。といっても基本的には武器以外は手ぶらなのでスグに終わってしまう。

当然、忘れものなど存在しなかった。

じゃあ、後は外へ狩りいけばいい。

そう思っても足が動かない。

・・・準備は万全だろうか?

外は魔物だらけでとても危険なんじゃないのか?俺はその辺を気にしなさすぎな気がする。

そんな都合の良い考えが浮かび上がってくる。

そうなったらもうこの思考に乗っかってしまう。

まずい、これは非常にまずい。このまま外へ行くなんてとんでもない。

準備がいる。もしもの時の為の回復薬とか絶対に必要になる。

普段は武器以外の買い物なんてしないけどそういった必需品の置いてある店にも行ってみるべきだ。

そう思って街の方へと戻っていった。

街は俺の登場でいつものように恐怖に包まれる。

いつもは目の前だけを見て歩く鎧の化け物が今日は街中を見渡しながら歩いているのだからその恐怖はいつも以上だろう。

目的の店も案の定、俺の登場で緊張に包まれる。この反応には俺の方はなれているのだが店の方はそうでもないだろう。

とりあえず、ケガの応急処置に使える薬と毒の解毒剤が欲しい。

しかし、棚には色々な薬が並んでいてビンも色も違っていて何がないやらわからない。

商品の説明を聞くだけなので大丈夫なのではないかと店主の方を見てみると泣き出してしまったので声をかける事はできなかった。

こうなるともうどうしようもない。あまりやりたくない方法であるが、全部買ってみる。

魔物の素材を回収する為の袋に一種類づつ薬を入れていく。

そして店主の近くの机に金を4つ置いておく。

回復薬の相場は赤2つらしい。一応全種類取ったのでそれなりの金額になるのだろうかこれ以上という事はないだろう。

さて、これで後は街の外で魔物を狩りにいくだけなのだが・・・

やっぱり門の前で立ち止まる。そして周辺を見渡す。

人っ子一人いない。実に静かである。念の為に感覚を研ぎ澄ませて命の気配を探してみたがなにもない。

ちなみにこの方法は俺の存在を察しさせてしまう為、色んな人を怖がらせてしまうので普段はあまり使わない。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・忘れ物はないだろうか?

ともう一度考え始める。

しかし、いくら調べても忘れものなんか存在しない。街への用事だって思いつかない。

それでも何かと理由をつけて門の前で立ち止まっていると、調度、街に入ろうとしている若者が来た。

若者は鎧の存在に気づくと一瞬立ち止まった後、遠回りしながら俺を刺激しないようにゆっくりと離れていく。そして一定の距離がとれると走りさってしまった。

その姿は、いつもの俺の存在を思い出させるのに十分すぎた。

そういえば、街の住人だっていつも通りだったじゃないか。

昨日ちょっと人と会話が出来たからといって俺は何を期待していたのだろう。・・・俺はなんて馬鹿なのだろうか。

袋の中身の薬を見る。俺には必要のないものなのに、これを買うためにどれだけの人を怖がらせたのだろう。

そうか・・・あれもそうだったのではないだろうか。

運悪く、俺とぶつかってしまった少女がいて、恐怖のあまりに咄嗟に話しかけてしまって、それに俺が妙に反応するものだから逃げれなくなってしまった。

そのままズルズルと連れまわされて・・・きっと最悪な一日だっただろう。アクセサリーだってあんなに綺麗だったのに俺が触る事で呪いでもついてかもしれない。

帰るといった時はきっと一生分の勇気を振り絞ったのに違いない。走り去りたい気持ちをこらえて俺の気配がなくなるまで震える足で歩いていたのだ。

俺の最高の一日は彼女の最悪の一日だったのだろう。

俺はなんて自分勝手なんだろうか・・・。

もしかしたら・・・少女は今日は街の外へ出る予定があったのかもしれない・・・でも俺の存在に気づいて出口に近づけなかったのかもしれない・・・・・・。

少女以外にもそんな街の住人は沢山いただろう。

本当に身勝手な奴だ。

門の外へフラフラと歩いていく。今日はもう魔物を狩る気にはならなかったが街にいるのは耐えられなかった。

今夜、荷物をまとめてこの街をでよう。

そう決めて、森の奥へと入っていく。

森の奥で落ち着けそうなスペースを見つけたのでそこで夜が来るのを待つことにした。

しかし、森の魔物は俺の存在を許さないらしく、俺の存在に気づいたら次から次へと襲ってくる。

魔物を狩る気分ではなかったが向こうから来るのでは仕方が無い。

向かってくる。魔物を蹴散らしながら考える。

ここら辺が人間と魔物の違いなのだろう。

魔物は俺を排除しようとする。勝てないとわかっていても挑んでくる。自分の住処への異物の侵入は絶対に許さない。

一方で人間は俺を無視する。なるべく関わらないように、被害をうけないように。

たまに討伐隊なんか組まれる事もあるがやっぱり基本的には無視である。

どっちだろうな・・・賢いのは、魔物か人間か。

せっかく綺麗だった場所は魔物の死骸だらけになってしまった。

今は、自分が完全に人であると思っている。だから人間らしい生活に執着して毎日を過ごしている。

街の人達がいくら拒絶してきてもしがみ付こうとする。敵意を向けられたら逃げ出す。

じゃあ、俺は自分を魔物だと感じたらどうなるのだろう。

こうして今みたいに魔物を排除するように人間も排除していたのだろうか。

でもいまさら魔物にもなれないだろう。

それに魔物の方も俺を拒絶している。こうして襲い掛かってくる。

人間だって俺を拒絶している。

「俺はなんなんだろう。」

声にだしてみた目を背けていた疑問に答えてくれるのは自分も含めて誰一人として存在しなかった。

結局、ずっと魔物と戦い続けてしまい、いつも以上の収穫となった。

ただ殺すだけというのは嫌な気分がしたので素材もしっかりと持ちかえる事にした。

もうすっかりと夜も更けてしまい、ギルドに着いたもの営業時間ギリギリとなっていた。

今日で街を去ってしまう。せめてぬいぐるみだけでも回収していこう。

露店部屋に入るともう随分と人が少なくなっていて広い部屋がガランとしていた。

素材は全部ここへ置いていこう。そのうち誰かが有効に使ってくれるに違いない。

出来れば・・・昨日のあのアクセサリーの店主がいいと思ったが彼の姿は見当たらなかった。

いたところで何も出来ないのだけど。

自分の店に投げるようにして素材を置くと金を持てるだけ持って部屋をです。

そのまま出て行こうと扉に手をかけた時、後ろから声をかけられる。

震える声だったのでおそらく俺に話しかけたのだろう。

振り向くとビクっといた後、震える手で一枚の紙を渡される。

それはギルドの依頼書だった。

「これ、依頼人からあなたへの推薦依頼です。」

泣き声まじりの声でそう言うと、顔を俯けてしまった。

受け取った紙に目を通す。内容を見て驚いてしまう。そこにはこう書いてあった。

「緊急募集!魔族を打ち滅ぼせる宝剣イクシリオンを一緒に探してください。報酬は虹石10個と破格の物になっています。尚、受注条件は黒い鎧の方限定。」

そして紙の一番下に書いてある依頼人の名前に、ネーナと記載されていた。

「あの、これ依頼してきたの子供でしたから多分そんなにお金持ってないと思います。というかイタズラだと思うのであんまり本気にしないほうがいいと思います。でも一応正規の手続きもしている依頼なので一応貴方にお取次ぎしました。先ほどまで依頼主本人がいたのですが、今日はもう遅いと帰してしまいまして、断るようでしたら私の方から伝言します。」

先ほどから震えているのはどうやら俺の存在感だけが原因だけではないらしい。依頼主を帰してしまったのを悪いと思ってくれているのだろう。

「いや・・・ありがとう。この依頼受けるよ。」

明日もここにくるからその時に詳しい話を教えて欲しい。

そう言って外へでる。

早足で誰もいないところまでいくと大きくガッツポーズをした。

嬉しい、本当に嬉しい。最高だ!最高だ!!

叫びたいのを我慢して空を見上げる。

月が不気味なほどに輝いていてなんだか祝福されているような気分になった。


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