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例えば、俺が闇色と漆黒の鎧なんて纏っていなかったなら・・・。

例えば、俺が鎧の隙間を縫うように禍々しいオーラを発していなければ・・・

例えば、俺の声が地獄の底から響いてくるような冷たい声色でなければ・・・

例えば、俺の動作の一つ一つが周りを圧倒させるような威圧感を出さなければ・・・

例えば、俺が買い物の仕方について詳しく知っていれば・・・

例えば、俺が色々な常識についてもっと把握していれば・・・

例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、

例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、

例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、

例えば、俺がこの世界に最初から生まれていれば・・・。


見る者の視線さえ吸い込んでしまいそうな漆黒が街を歩いていく。のどかな街を侵略するような冷たさは陽気な街の住人を震え上がらせる。

漆黒の前を歩く人は距離を取るようにその場から離れていき、ただでさえ人通りの多い道をさらに詰めていく。

すれ違う人々は恐怖と嫌悪で顔を歪めていく、通りすぎるとヒソヒソと「なんでここに魔物がいるんだ。」なんて言っている。

他にもそんな会話がチラホラ聞こえる。内容はほとんどがその漆黒が人間であるか、魔物であるか、という議論ばかりだった。

全部漏らさずに聞こえているなんて露ほどにも思っていないだろう。

そしてその漆黒の中身が少年時代は大人しくて引込み思案で悩んでいた春日祐樹であるなど誰もしらない。

もし、俺が今の会話に割って入って「俺は人間だ。」なんて言ったとしたらどうなるだろう。答えは九分九厘、相手が泣きながら跪いて謝るだろう。そして周りの人間からはやはり俺がとんでもない事をしているように映るに違いない。その場ではそこで終わったとしてその日の深夜には俺へ差し向けられた討伐隊が泊まっている宿屋に奇襲をかけてくる。もう経験論で知っているのだから今更どうしようもない。

なるべく気にしないように、関わらないようにして必要なものだけ買い揃えてしまうのが日常になっていた。

必要なもの・・・それは武器である。普通は武器なんて一回買ったらそんなに何回も買い揃える必要なんてないものだろう。一回二回の使用でダメになるなんてありえない。しかし、あくまでそれは普通の人間が正しく使った場合に限る話だ。俺みたいな闇色と漆黒の鎧を着て体中から暗黒のオーラを出す人間が使うとなったら色々と具合が変わってくる。

腰に下げている剣は三本。その内の一つは鎧と一緒の暗黒のオーラを出している俺の初期装備。他の日本は一昨日購入したばかりの新品である。だが、もう何十年も使い古したかの様にボロボロになってしまった。原因はやはり、発しているオーラのせいであろう。このオーラは触れているものをダメにする効果があるらしい。そんなにスグに影響はないのだが戦う時に何故かオーラが武器を包みこんでしまうのでこれが原因ですぐに劣化が始まってしまう。

初期装備の剣は可哀相なボロボロの剣とは違って刀身はキンっと光り輝き、透明感ある銀色は人を惑わせるのはないかと思えるほどだ。しかし、これを使うと俺の発するオーラがとんでもなく増加してしまう。そして増加したオーラがいつもの量に戻るまでに結構な時間がかかる。程度によるが思いっきり使いまわした時は一週間はもとに戻らなかった。そうなってしまうと人里に戻ることすら出来なくなる。

出費は嵩むが人間らしく生きる為には仕方がないだろう。

といっても・・・周りの人々の視線や仕草からは、俺が人間扱いされているとは思えなかった。俺の人間性はもはや自分自身が人間だと思えるかにだけになってしまっている。

もう何日も誰とも会話をしていない。たまに交わす会話も事務的なやり取りだけで相手を怖がらせてしまう。人間らしい会話なんてここへ来てから一度も・・・

自分の声には密かに自信を持っていた。なかなかのイケボだったと思う。だけどこの鎧を着ているとそれが地獄の底から響いてくるような冷たいものに変わる。声を聞いただけで失禁する人に会ってからは極力喋らないようにしている。あの時のお父さん、家族の前で本当にスイマセンでした。

困った事にこの世界では品物に値段はついていない。全部その時々によって店主と交渉する必要がある。

しかし、俺が物の値段を尋ねようものなら怯えた店主はきっとどんな品物にも値段をつけるなんて出来ないだろう。というか実際そうだった。そうなったらもう強盗じゃないか。

いくらなんでもそれは嫌なので、俺は妥当だと思う値段分の金品を店主に渡して店をでる。多いとも少ないとも言われた事がない。そもそも渡しているのが金なのかもわからない。

もしかしたらガラクタを押し付けて店の商品を盗んでいるのかもしれない。でも・・・もうそこは考えるのはやめている。俺におびえてまともに接してくれない人々が悪い。俺は誠実にしているつもりだ。

自分の中でこう言い訳する以外にどうすればいいのだろうか!

・・・それでも俺がそれをやめないのは買い物に人間らしさを感じているからだと思う。

そんな身勝手な言い訳について考えていたら目的の店についた。

武器はこの店で買う事にしている。別にどこの店でもいいのだがあんまり多くの店を使う気にもなれないので最初に目に付いたこの武器屋が俺の行きつけの店になってしまった。

店には扉がなく、中の様子が見える。笑顔で剣の説明をしているらしい少し太った店主と旅人っぽい男が話している。他は誰もいない。

もちろん俺が店内に入る事によってさっきまで気さくに店主と話していた旅人風の男は逃げるように店を出てしまった。店主の方はせっかくの客を逃がしてしまったのに無理矢理にでも笑顔を維持しようと顔をひきつらせている。口角は上がっていても涙目なのが特徴だった。

入り口付近にある投売りっぽい箱の中から適当に二本剣を取る。そして腰に下げている袋から宝石か通貨だと俺が思っているものを出して店主の前の机に置く。

そのまま二秒くらい反応を見たがやっぱり無理矢理笑顔を作っているだけなので諦めて店を出て行く。

なるべく安そうなモノを選んで、ちょっと多めに金品を置いているつもりだが、店主の表情はいつもと一緒でやはりこれが妥当な値段なのかわからない。

もういい加減に慣れて欲しいとも感じるがきっとこの調子では一生かかっても無理だろう、。それに店主は悪くない。

きっと悪いのはこんな風になってしまった俺の方だ。

店を出るとまた俺の周りを避けるように人が動いていく。

これもいつも通りの光景すぎてもうあまり何も感じる事はない。

今日使った分の金品を補充しなくてはいけない。

街の外へ出て魔物の巣となっている森へ向かう事にした。勿論これもいつもの日課である。

街の出口へ向かう道中。

一体いつまでこんな生活をしていくのかについて考えていた。

「この世界の歪みを矯正してください。」

頭によぎるのは無責任なあの声だった。

俺の目標が世界の歪みを矯正する事だったとして、人とまともに会話すらできないのだからどんな歪みかなんてわかる訳がない。

だから今日もただ生きていくしかない。

ここへ来てから俺はただ人間らしく生きていく事だけを考えている。


もうすぐ街の出口となる門が見えてくる。曲がり角を曲がったらすぐだと思ったその時。

「わわわっと、危ない。」という声と同時に一人の少女がぶつかってきた。

少女はそのまま倒れてしまい、

「いたた・・・。」と言って頭をさすってから、顔を上げて俺に気づいて一瞬で青ざめる。

そのまま立ち上がって逃げようとするのを少女の着ている服のフードを掴んで止める。

ぶつかった衝撃で彼女の手持ちの荷物は散乱してしまっている。このまま放置という訳にもいかないだろう。

無言で荷物を指差すと、少女は「えっ、あっ荷物・・・ははは。」なんて誤魔化すように笑いながら荷物を拾い集める。

少女を観察してみると見つけている服はボロボロで破れた服からチラチラと見える肌からは生傷もいくつか見えた。

とても痛々しい状態ではあったが整った顔立ちからはなんとなく気品を感じられて、まぁなんというか可愛い部類に入ると思う。

「いたぞ、こっちだ。」

という声が後方から聞こえてきたのでそちらに視線を向けると少女の後方から、いかにも肉体派な筋肉をつけた男が数人集まってきている。

彼等は俺の存在に気づくと武器を取り出してこちらへジリジリと近づいてくる。

困ったな・・・討伐隊か。

実はこういった経験は初めてではない、俺を魔物として討伐しようとする奴はかなりの頻度で現れる。

定住の街を求めて彷徨う俺が街を離れる理由の大半がこういった連中の登場だった。

こうなった以上は仕方ないか。

男達の方に向き直って剣を抜く、もうボロボロの剣だが人間相手で殺すつもりもないのだからこれで十分だろう。

剣を抜く仕草を見て小さく悲鳴を上げて後ずさりする男達。そんなに怯えるのなら最初からこんな事しなければいいのにと毎回思う。

オーラに包まれた剣をそのままゆっくりと横に振る。すると剣の先から一筋の線のようにオーラが一文字に飛んでき、男達の体をすり抜けていく。

男達は顔引きつらせた次の瞬間にはその場に倒れてしまった。

オーラの仕組みについては正直何がなんだかわかっていないからこれがどういう症状なのかもかわらない。

とりあえず、しばらくは立ち上がる事はないだろう。最初にこれをした時は死んでしまったのではないかと焦ったが命には別状がないようなので今は安心している。

男達の表情を見ると全員が恐怖に顔を歪ませて死にそうになっている。なんだかとても惨い事している様に感じる。

でも。こいつらだって俺を殺しに来ているのだから多少は酷い目にあって文句はないはずだ。

剣を鞘に収めようとした所、ボロボロと崩れ落ちてしまった。もう限界だったのだろう。調度今日新品を買った所だったので助かった。

しかし、これでこの街にもいられなくなるかもしれない。

むこうが襲ってきたにも関わらず、人間に手をだした以上は魔物のように扱われる。

この街にも討伐隊が現れたか、結構気に入っていた街なので離れ時と思うとがっくりと肩が落ちる。

それでも、幸いこの場には男達と俺以外には誰もいないのはかすかな希望だった。こいつらが黙っていてくれればまだこの街にいられる。

薄い希望であったがすがるしかない。

そこまで考えて少女の事を思い出す。

少女を口止めしなくては意味がない。でもどうすればいい。声を出そうものならきっと少女に一生のトラウマを植え付けてしまうかもしれない。

とにかく、身振り手振りでもしなくてはと振り向く。

少女はこちらを不思議そうな目でじっと見ていた。ちらばっていた荷物は全部拾い終えているらしく。ただ立ってこちらを見ている。

逃げ出さないでくれるのはありがたいけど。口止め、どうやって・・・。そう悩んでとにかく手をワチャワチャ動かしていた時だった。

「いや~強いっすね。でも、なんでやっつけてくれたんすか?」

天使の声だと思った。

言い終えた後の笑顔が眩しくて直視できないと感じてしまった。

そう感じているにも関わらず、視線を彼女から離す事は出来ない。

質問されているから答えなくてはと思いとにかく色々考える。

でも会話を目的として人に話しかけられるなんて少なくてもここでは始めてで、

「へっつ?だった、急に来たから、こいつらが。」

と滅茶苦茶な返事をこの世のものとは思えない地の底のような低音で答えた。


その後も少女は俺について来た。

狩場である森へと続く道中で彼女は色々な事を話してくれた。

「私はネーナっていいます。家名は内緒っすよ。あんまり誰にも言いたくないんす。」

「実はですね。この近辺にあるお宝を探してここまで来たんすよ。」

「これでもお姉さんなんすよ。でもまだ成長期っすからね。将来に期待っす。」

「出身は北の方で騎士見習いなんてやっていました。でも剣の腕前が下手くそすぎて。」

「今はトレジャーハンターとして売り出し中っすよ。」

「かなりの甘党でボックリのジャムなんて大好物です。知ってます?ボックリって北だと食べるんすよ。」

俺も、悪意を持っていない人が自分に話しかけてくれる。ただそれだけの事が嬉しくて楽しくて、時々合槌を打ちながら一言も聞き逃しがあってはいけないと思いながら聞いていた。

話は狩場に着くまで続いた。

「それでですね、私の好みの男性は・・・。」

ここまで話かけた彼女の口を手で押さえる。

ここから先は魔物の領域だ。別に俺は見つかったとしてなんともないけど一緒の少女は戦闘ができるタイプには見えない。

彼女の守りながら戦うのも別に問題がない気もするが念には念を入れおきたい。

「静かに。」

それだけ言ってネーナの口から手を離す。

彼女の方も何かを感じたのか緊張した表情でうなずく。

そのまましばらく歩いてすこし開けた場所を見つける。

その手前の茂みに身を潜める。

茂みの中から開けた場所を覗くと一匹の狼型の魔物がいる。

幸い、こちらにはまだ気づいていないようだった。

いつもならそのまま出て行って仲間を呼ばせたりするが今回はそうもいかないだろう。

隠れたまま魔物が背中を見せるのを待つ。

背後さえ取れれば一撃で終わらせる事ができる。

しかし、魔物の方も何かを感じたのか辺りを警戒している。

ここままだと持久戦になるかもしれない。

予感は的中してしまった。

もう何十分も茂みに隠れているが魔物が警戒を止める気配はない。

それどころかさっきよりも警戒が強くなっている気がする。

そんあ状況の中で一番先に痺れを切らしたのは魔物ではなく、ネーナだった。

少女にはこの緊張が耐えられなかったらしく、小さな声で俺に話しかけてしまった。

「いつまでこっちを警戒してるんすかね。」

小さな声だった。きっとすぐ側にいないと聞き取る事のできないようなそんあ囁き声だった。

それでも、魔物がこちらに気づくには十分すぎる大きさでもあった。

魔物がこちらの方へ振り向いてギラつく眼差しを向けた。その時だった。

魔物の姿が辺りの木々ごと黒い影に飲まれた。一瞬だけ何が起きたかわからなかったがスグにその正体に気づく。

「そんな・・・魔獣・・・・・・。」

ネーナがそう呟いた。

そうか、あれは魔獣っていうのか。なんてのん気に思ってしまったが今はそんあ場合じゃなかった。

彼女を抱えて森の出口まで走る。

普段、俺が相手にしているような魔物は正直あんまり他の動物と見分けがつかない。

判別方法は赤く輝く瞳と動物とはケタが違う戦闘能力だった。

魔物が持っているのは戦う為の能力であって動物の持つ生きる為の能力とは違う。

というのが俺の感じた感想だ。

基本的に他の動物を襲ったりする魔物だが食物連鎖の中では彼等を捕食するものもいる。

それがさっきの魔獣だ。俺はそんな風に呼ばれているなんて知らなかったからそのまま霧の魔物なんて呼んでいた。

あいつらは固定の形を持たない。黒い影のような靄のような塊だ。そして魔物を取り込む事でおそらく捕食しているのだと思う。

何回か戦った事があるがとても嫌な相手だった。

誰かを守りながら相手にできるような存在ではない。

だから今のようなネーナを連れている状態だと逃げるしかない。

とにかく、今はネーナを連れて森の入り口まで行けばいい。

こいつの処理はその後でもいい。

魔物の方も俺達の存在に気づいて追ってくる。

以外と機敏で物凄い速度で追ってくる。

考えてみれば固定の姿を持たない分、障害物なんかないからきっと移動は容易いのだろう。

途中何回か危ないところもあったがなんとか追いつかれる前に森の出口までたどり着く事ができた。

あとはネーナを街まで逃げれる距離まで連れて行くだけだ。

会話という甘い誘惑に逆らえずに危険な場所まで彼女を連れてきてしまった。

今はそんな反省をしている場合ではないがそんな後悔が頭を支配する。

そのまま、安全距離まであと少しという所まで来た時だった。

「あっ・・・ひっ、ひぃぃぃぃ!」

視界の端に人影が見えた。おそらくこの森へ魔物を狩りにきたハンターがギルド組合の人間だろう。

残念ながら彼には魔獣がとんでもない化け物に見えてしまったようで悲鳴を上げてその場にヘタレこんでしまっている。

そして、声を上げたせいで魔獣も彼の存在に気づいてしまった。

こちらを離れてハンターの方へ近づく魔獣。

一瞬だけ、魔獣を押し付けて逃げてしまえばいいという考えが頭にちらついた。

ほんの一瞬だけだったがそれは・・・自分の人間性を批判しているような気がしてとても辛かった。

抱えたネーナを降ろす。

新品の剣をネーナに押し付ける。

「それで自分の身を守りながら街まで逃げて欲しい。」

ここまで連れてきてしまってスマナイ。

そう告げると魔獣の中へ突っ込んでいく。

街まではすぐだし、安全距離まであと少しだ。

きっと彼女は逃げ切ってくれる。

でも無責任に彼女を突き放した俺を許してはくれないだろう。

だから彼女は俺を軽蔑するだろう。

それはとても辛いけど・・・でも、こんな俺である以上は仕方の無い事なのだろう。

後ろで声が聞こえた気がするが既に魔物の中に入ってしまたので何を言っているのかまでは聞こえなかった・・・。

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