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順調に成長中

 九歳になった。


 花畑の一件以来、俺とミレニアは一緒に行動することが多くなった。

 と言うか、正確にはミレニアに軽く付きまとわれている。

 外で俺を見かけると嬉しそうな顔で近付いて来て、そのまま俺の後ろを付いて回るのだ。まるで親鳥の後を追う雛鳥のようだ。


「俺とばっかりいないで、他の子とも遊んで来いよ」


 しっしっと手を振って追い払うフリをすると、ミレニアの両手に握り締められた。


「何でそんな意地悪を言うんですか。人形遊びとか無理ですよ」

「鬼ごっことかでも参加してねぇだろうが」

「一人だとどう対応して良いか分からないんです。あ、でも、クルルガが一緒なら頑張って参加してますよ!」


 結局、俺と一緒にいるようなもんじゃないか。

 得意顔で言ってきたけど、褒めねぇよ。


 お前がそんなだから子供たちの間でも、俺がいればミレニアも一緒に遊べる、という認識が広がっているんだからな。


 徐々に俺とミレニアが二個一扱いされてきている事実は大変、遺憾である。

 男女の二個一とか面倒ごとの気配しかない。


 呑気に笑うミレニアに苛ついたので、両頬を軽く抓っておいた。


 十歳になった。


 案の定、女子の間では俺とミレニアの仲を勘繰る動きが盛んになってきたようだ。


「助けてください。何度ただの友達だと言っても信じてもらえないんです」

「自業自得だ。自分でなんとかしろ。見ての通り、俺は今、素振りで忙しいんだ」

「そんなぁ!」


 涙目のミレニアを一瞥し、俺はひたすら素振りを続けていた。


 俺のように田舎出身の男児は、十歳になると剣を与えられ、有事に備えて簡単な剣術を学ぶことになっているらしい。

 辺鄙な場所にある村は、国や領主の保有する騎士団が駆けつけるまでに時間がかかるから、自衛手段を学んでおく必要があるのだ。


 俺の生まれた村は険しい山々の中にあるので、滅多に盗賊が来ることはないが、その代わりに熊や猪なんかがよく現れる。

 それらを時に追い返し、時に討ち取ったりするのは男の役目だった。


 そしてミレニアのように田舎出身の女児は、薬草学や簡単な医学を学ぶのが一般的らしい。


 ちなみに俺は男だが、学べるもには学んでおこう主義なので、母さんから個別授業を受けている。

 これまでの日課の走り込みに加えて、素振りや勉強時間が増えたので、俺の一日はなかなかに忙しい。


 よって、ミレニアのどうでも良い話に付き合ってる時間はないのだ。


「クルルガだって当事者なんですよ?良いんですか?このままだとクルルガだって困ることになりますよー」


 俺が無視して素振りを続けていたからだろう。ミレニアが脅迫まがいの発言をし始めた。


 おうおう。二個一認識が定着するくらいひっついて回る癖に、良い度胸じゃないか。

 だが許そう。何故なら俺にその脅迫は意味がないから。


「ミレニアが聞かれる質問って二つだろ。俺と付き合っているのか、俺のことが好きなのか、違うか?」

「はい。そうですけど?」

「俺も聞かれたことがあるんだよ。ミレニアと付き合ってるのか、ミレニアは俺のことがすきなのか、俺はミレニアが好きなのか、ってな。でも、同じ奴から二回以上聞かれことはない」

「何でですか⁉︎」


 俺は素振りを止めて、ミレニアに凄みを込めた笑みを向けた。


「お前が、俺に、付いて、回ってるから、だ!」

「……はい?」

「だから、客観的に見て、ミレニアはクルルガに片思い中で、付いて回ることで一生懸命アピールしてるように見えてるってことだよ」


 ミレニアの表情が凍りついた。


「俺の方がミレニアを好きだって認識は、他の奴らの中にはないってことだ。つまり、俺は大して外を受けない」


 俺は溜息を吐くと、再び素振りを再開した。


 十一歳になった。


 相変わらずミレニアとは二個一扱いだが、一周回って恋愛的な意味で結びつけられることは少なくなった。

互いに相手への仲人役をあっさり引き受けるからだろう。


 深入りはしないが、贈り物の助言や伝言、二人きりになりたいなどの要望を叶えてあげるくらいは日常茶飯事だったりする。

 ミレニアは文句無しの美少女だし、俺も上の下くらいには滑り込めそうな美少年だからな。

 見た目が良くて精神的に大人となれば、モテるのは当然の流れだろう。


 今日はデートの約束を含めて何の予定もないので、家でがっつり勉強。の筈だった。


「なんでお前が家にいるんだよ。デートはどうした。まさか、すっぽかしたんじゃないだろうな?」


 俺の勉強机にしがみつくミレニアが邪魔で勉強が出来ない。


「失礼な。ちゃんと行きました。行って、すぐに帰ってきたんですー!」

「ふぅん。で?なんで俺の所に来るんだよ。家に帰れよ。そんなんだから俺への片思い説が絶滅しないんだぞ。ほら、分かったら帰れー」


 部屋から追い出そうとしてみるが、ミレニアは絶対に机を離さない構えである。


「だって家にいたら母さんに追い出されるんですよ。お友達と遊んでらっしゃい、とか言って」

「コミュ障の娘を心配してんだろ。良い親御さんじゃないか」

「コミュ障じゃないです!ちょっと子供は苦手なだけです」

「子供だけでなく男もだろ。デート切り上げが早すぎるって有名だぞ」


 今日のデートだって俺が仲人役をしたのだが、確か待ち合わせ時間から一時間も経ってないんじゃないか。


「あれは、だって、何を話したら良いか分からないですし、変に緊張しますし。……そ、それに、男から言い寄られても気持ち悪いだけですし」


 モジモジしながら言い訳されてもなぁ。


 本人は無自覚みたいだけど、なんだかんだ言って年々、女子っぽい言動が増えていた。

 いい加減、現実を受け入れて心身共に女子化しちゃえば良いのに。


 面倒臭い雰囲気を思い切り出してやったが、ミレニアは欠片も気付かない。


 こいつめ。普段は気遣いのできる繊細な子なのに、こんな時ばっかり鈍くなりよってからに。


「クルルガは平気なんですよね?」

「うん。流石に子供相手にムラっとしたりはしないけど、女の子に好かれて悪い気はしないな。可愛いと思う」

「私もいつかはそうなれるんでしょうか……」


 どうだろうな。俺自身も将来的に異性関係はどうなるか未知数だし、不安に思う面もあったりする。


 俺は答える代わりにミレニアの小さな頭を撫でておいた。

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