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 ミレニアは口を開いては閉じ、また開いては閉じた。

 眉尻が下がっているので、おそらく謝りたいのだろうが、何と言って謝ればいいのかが分からないようだ。


 俺が先を促すでもなく、急かすでもなく見守っていると、最終的に小さな頭を下げた。


「すみませんでした」

「本当に良い子だな!」


 前世の世界の男子高校生でこんな純粋な子がいるなんてビックリだよ。


 可愛すぎるから、サラサラの金髪を思い切り撫でまくってやる。

 精神年齢で言えばミレニアだって成人してる筈なんだが、現役の男子高校生を構ってる感じがするから不思議だ。


「髪がグチャグチャになる!」

「乙女か」

「ちが……うと言いたい」


 おお。乙女と言われて反射的に言い返すのを堪えた。この短時間で素晴らしい成長だ。


「そうだなー。今は立派な美少女だもんな」

「そういうクルルガだって立派な美少年じゃないですか」


 不貞腐れ顏で言い返された。


 成長の中には反抗期も含まれていたのかな。残念。俺には全く効かないぞ。


「将来有望だろ?」


 ニヤリと言えば、ミレニアの表情が更に複雑化した。


「クルルガはどうして気にしてないんですか?」

「性別のことか?」

「それも含めて現状に関する全部に、です」


 気にしてない理由、か。

 俺は即答を避け、少し考えた。


 ミレニアの質問は、前世への未練だとか、死んだことに対する無念だとかが含まれているのだろう。

 思いがけない重い話になってしまった。どうしよう。


「んー。さっきは言わなかったけどさぁ。俺が前世のことをはっきりと認識したのは四歳になったばかりの時だったんだ」

「四年も前からですか」

「うん。約四年間。その間に考えて、悩んで、受け入れて。そうするには、長くはないけど、短くもない時間だと思わないか?」


 ミレニアが静かに頷く。


「だからさ、ミレニアはまだ、たったの一年だ。これからゆっくり、自分のペースで受け入れていけば良いんじゃないかな」


 なんて、良さげな事を言ってみたわけだが、実は全部、適当である。


 だって俺は、自分の死亡に関しては自己責任だと理解している。

 夜の海での遊泳、駄目。絶対。

 なので前世への未練やら後悔がないとは言わないけど、俺が文句を言うのはお門違いだと理解している。また、それを言ってもどうしようもないと思ってた。


 しかし、それをミレニアに言うのもどうかと思うのだ。


 ミレニアの前世の死亡理由は聞いてないが、少なくとも俺みたいな馬鹿げた理由ではないだろうし。

状況が違うと思われる以上、適切な助言なんてできるとも思えない。


 性別に関しては、それこそ言っても詮無い事だろう。

 前世を完全に認識する前に男として過ごしていたが、夢で女としての感覚も共有していたからか、俺は特に困る事なく受け入れられたし。不快感や嫌悪感なんてものは皆無だ。

 将来的に性を気にするお年頃になったら分からないが、今のところは問題ないと言える。


 これらを踏まえると、単純に何も気にならないかな、が俺の本音なのだ。


 しかし、真剣に悩んでる相手にそんな軽い発言できないじゃん。

 ここは精神年齢的な年長者として、若者の期待に応えてやらねばと思うじゃん。


 ぶっちゃけ面倒臭いとは思うけど、転生話を持ちかけた以上は多少の責任も感じるわけですよ。


 結果、苦悩の四年間を過ごしたみたいになっちゃったけど、別に良いよな。

 前世の記憶の活かし方とか、色々と考えたのは事実だから。嘘はついてない筈だ。ギリギリ。


 ミレニアもなんだか憑き物が落ちたみたいな顔してるし。結果よければ全て良し。

 うん。問題なしと判断しちゃおう。


 それでも一応、ちゃんとした助言もしておいた方が良いかなという思いもあった。責任感というよりも良心の問題だ。


「ちょっとだけお節介しても良いかな?」

「はい。なんでしょう?」

「あのさ。納得できなくても今のミレニアは女の子だろ。一人称が、俺、だと周囲から変に注目されかねない。それが嫌なら、私、を使っておくのが良いと思うぞ」

「それは分かってるんですが……」


 分かっていても気持ちが追いつかないってことか。大変だなー。

 でも、これなら軽く背中を押してやるくらいは出来そうだ。


「良いことを教えてあげよう。社会人なら男でも一人称が、私、の人は結構いるもんだぞ。だから気にする必要なし。な?」


 ミレニアの目がまん丸になった。

 学生視点では思いつかなかったらしい。


「言われてみれば、確かに」


 よっしゃ。的確な助言を与えれたっぽい。


「後もう一つ。これは提案なんだけど、女言葉が嫌なら敬語キャラになっちゃえば良いんじゃね?」

「でも、敬語を話す子供っておかしくないですか?」

「何の前触れもなかったらおかしいだろうな」


 だったら前触れを作っちゃえば良いんだよ。


「俺の家に、敬語で話すお姫様が出てくる絵本がある。貸してやるから、それを読んだ後に、私もこのお姫様みたいになる! 的な事を両親にでも言ったら良い。これで敬語を使うきっかけには充分だ」

「わた……私にお姫様に憧れろ、と?」


 おお。言い直しかけたけど、ちゃんと、私、で言い通した。

 もしかしたら切っ掛けが掴めなかっただけで、本当は順応性が高いんじゃないのか。その調子で頑張れ。


「憧れてるフリくらいは出来るだろ?」


 ミレニアの表情は嫌そうに歪んでいた。


 フリであってもそんなに嫌か。


「あくまで提案だから無理強いはしないぞ」

「……何か、他に代打案は?」

「自分で考えろ」


 前世の俺だったら一緒になって考えてただろうけど、今生の俺はなるべく他人の世話を焼かない主義にしたんだ。

 既に主義に反するくらいの助言はしてると思うし、悪く思うな。


 ミレニアは腕を組んで唸り出していた。


 しばらく待ったが、代打案が出てくる気配はない。

 今ここで出てくるようなら、もっと前に思いついてるだろうし、当然と言えば当然である。


「どうする?本はいるか?」


 そろそろ家に帰りたいので、結論を催促する。


「…………貸して、ください」


 断腸の思いと言わんばかりの返答だった。


 女言葉はそこまで嫌だったのか。

 女装でもしてる感覚になるのかな。俺は別に男装してる気分にはならんけど。男女の差ってやつかな。分からん。


 何はともあれ方針が決まったのなら、後は実行あるのみ。

 歩みの鈍いミレニア亀を引き連れて、俺はようやく家路へと向かったのだった。


 ちなみに、帰宅前に花束はきちんと作り上げた。

 母さんは大層、喜んでくれて、今は玄関の一番目立つ場所に飾られている。

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