まさかのお仲間
確かに思い返してみれば、子供たちと花畑で遊んだことはあったのに、四つ葉の白詰草探しをしたことはなかった。
なるほど。わざわざ探すような対象じゃなかったからか。
「あれ。じゃあ何でミレニアは知ってたんだ?」
「えっ! そ、それは……」
途端にミレニアが慌て出す。
どうやら一生懸命、言い訳を考えているようだ。
さっきまでの強気の姿勢はどこへ行ったのか。
こっちが質問してるのよ、とでも言い返せば良いのに。素直な良い子だな。知ってたけど。
俺は中身が悪い大人なので、相手が動揺している隙に考察をさせていただくとしよう。
おそらくミレニアは前世の記憶持ちの転生者だ。しかも俺と同じく異世界出身者らしい。同じ世界の出身かまでは知らんけど。
……よし。俺が転生者だって暴露しちゃうか。
ミレニアが本当に転生者なら、話してる方が後々、良さそうだし。
もしも転生者じゃなかっとしても、変な事を言ってると思われるくらいだし。
何より貴重な共感者を得られる機会を不意にするとか勿体無いよな!
何て素敵な低リスク高リターン。
うん。言っちゃおう。
「なぁ、ミレニア」
「な、何?」
「俺は元関西人なんだ」
ミレニアの動きが止まった。
「……え?」
うむ。掴みはバッチリだ。
「山と海がある港町な。分かる?」
「え、あ、はい」
「良かった。行った事は? ある?」
「え、あ、はい」
「そっかそっか。で、ミレニアはどこ出身よ?」
「え、あ、はい。東京で……」
ミレニアの動きが再び止まった。
ヤバい。ニヤニヤが止まらない。
「ん?どした?」
「な……! ど……! だっ! …………んもううぅ」
顔を真っ赤にするミレニアを見て、俺は爆笑した。
「クルルガ、笑わないで。笑うなってば!」
「ごめん。ミレニアがあまりにも素直だから、可愛くて……」
「可愛いって言うな!」
怒声が響き渡った。
先ほどのような照れ隠しのものではなく、心からの苛立ちが爆発したような叫び声だった。
言ったミレニア本人も驚いて息を飲んでいる。
「ごめっ、あんな大声出すつもりなんてなかったのに。ごめん」
ミレニアが一気に落ち込んでしまった。
美少女がしょげ返る様は酷く庇護欲を誘ったが、俺は他にもっと気になる事があった。
ピンと来ちゃったのだ。
これって、また俺と同じくだったりするんじゃないのか、と。
「なぁ、ミレニア。違ってたら悪いんだけどさ?」
青色の目が上目遣いにこちらを見つめてくる。
さっきの事が泣けれれば即座に頭を撫でていただろう。
言動も含めて、見れば見るほど美少女だな。
感心はしたが、それでも俺は思い浮かんだことを取り消そうとは思わなかった。
一応の前置きもしたので、単刀直入に尋ねる。
「ミレニアには前世の記憶があって、その前世では男だったんじゃないのか?」
男だから、可愛い、と言われて怒った。
前世が異性だった俺からすれば、容易に思いつくことだった。
案の定、ミレニアが息を飲んで俺を見つめていた。
上目遣いのままだった青い目が次第に潤んでいき、間もなくして涙腺が崩壊したようだ。
「そ、そうなんでずぅぅ! わた、わたじ、おれ? もう意味がわがんあぐて……ぅ、ぅ……」
「お、おう」
花畑で美少女にしがみ付かれる美少年。はたから見たら微笑ましい光景だろう。が、事実を知ってる俺からすれば微妙としか言いようがなかった。
元女の胸元で、元男が号泣しているのだから。
いや、別に俺は良いんだよ。男の涙に偏見はないし、今は女の子だし。ただ、ミレニアの方が嫌なんじゃないかなー。可愛いが受け入れられないくらいだし。
突き放すわけにもいかないんで、黙って背中をポンポンしとくけどさ。
結局、ミレニアが落ち着くまでにはそこそこの時間がかかった。
ポンポンし続けた腕が疲れたよ。
「うぅ。急に泣いて、ごめんなさい」
「構わんよー。鼻水つけられてないし」
「それは、流石に気をつけた」
「有難いっす」
例え鼻水つけられても、泣いてる相手に文句なんて言いませんよ。我慢しますよ。内心でドン引くだけだ。
「落ち着いたんなら、ひとまず座らないか? ゆっくり話したいし」
「ですね。あっちの木の下に行きませんか?」
移動し、並んで腰を下ろした後は、ミレニアからの怒涛の訴えの始まりだった。
かなり精神的に追い詰められていたらしい。
「へぇ。じゃあ去年の夏に突然、前世のことを思い出したのか」
「そうなんです。ぼーっとしてたら急に色んな記憶が溢れてきたんです。頭が痛くて失神したのなんて初めてでしたよ!」
前世の記憶を一気に思い出したから、脳が処理仕切れなかったんだろうな。
「パンクして頭がぶっ壊れなくて良かったな」
「怖いこと言わないでくださいよ!」
でも実際に有り得たことだと思うんだけど。
怖がってる相手に追い打ちをかけないために黙っておこう。
「俺は物心つく前から夢でちょっとずつ見てたから、それが前世の記憶だって分かっても特に何もなかったんだよなぁ」
「羨ましい。わた……俺もそれが良かったです」
「いやー。冷めた幼児に育ってた気がするし、アレはアレで問題あったと思うぞ」
「そうですか?わた……俺はクルルガが冷めてたイメージはないですけどね」
会話をすることしばし。俺はいい加減、気になっていることがあった。
「あのさ。なんで敬語になってるんだ? あと、一人称の言い直しが鬱陶しい」
「えぇ⁉︎ 敬語に関しては、何となく。年上な気がするからですかね?」
今生での俺たちは同じ歳なので、年上疑惑は前世のことだろう。
「享年何歳だったんだ?」
ミレニアが目に見えてションボリする。
「十八です。受験生でした」
まさかの未成年でしたか。未来ある若者がお亡くなりになったんなら、そりゃションボリも一際かもしれないな。
性別転換を受け入れられないのも思春期故か。青いなー。
俺はわざと明るい声を出すことにした。
「なるほど。確かに年上だ。俺の享年は二十七だから」
「じゃあ敬語は問題ないですね!」
「なんでだよ。今は同じ歳なんだから問題しかねぇよ」
物凄く不満げな顔をされた。
美少女だから唇尖らしても可愛いだけだぞ。
「二人きりの時なら……」
「一人称でつっかえてる奴に、使い分けができるとは思えない」
「そ! れは、だって、男だったのに、私なんて言ったら、気持ち悪いじゃないですか。なのに無意識に女言葉を使っちゃうし、男のクルルガには分かりませんよ」
今度はいじけ始めた。忙しい子である。
十八歳ってこんな感じだったかな。覚えてないなー。
羨望の視線が鬱陶しいし、誤解を解いておくか。
「俺の前世は女だけどな?」
「……え?」
本日二度目のキョトン顏いただきました。