目標決定
この世に生まれて早五年が経った。
人間の平均寿命から考えると、たったの五年と言われそうだが、俺の場合は少しばかり事情が異なる。
やたらと密度が濃かったのだ。
時々、妙な夢を見ていた乳児期。
今考えれば、乳児期の記憶がある時点でちょっとおかしいよな。
夢を見る頻度が増えた二歳。
辿々しい言葉を駆使して両親に夢の話をしたことがあったが、うまく伝えられなかった。両親は意味不明な話を、いつも微笑んで聞いてくれていたな。
こんな息子を見捨てないでくれて、本当にありがとう。父さん、母さん。
ほぼ毎日のように夢を見るので、慣れてきた三歳。
夢のせいで物分かりの良い幼児として育ち、誰にも夢の話をしなくなった。
何度か友達に話したら、変なことを言う子認定されかけたのがきっかけだと思う。幼児ながらに不名誉を察知したわけだ。
そして、夢の正体が前世の記憶だと認識した、四歳。
一年前のことだった。
俺の今生に大きな変化を与えた日、俺は複数人で川遊びに出掛けていた。
俺を含む幼児が三人と、その両親や片親が参加者だ。俺のところは両親揃っての参加だった。
村の外れにある川は流れが穏やかで、場所によっては水深が最も深い所でも幼児の膝くらいしかない。
水遊びするにはもってこいの場所だった。
でも、気をつけなきゃいけない。
知ってるかい。頭が水に浸る位の水深があれば、人間は簡単に溺れるんだぞ。
これ、実体験だからよぉく覚えておいて欲しい。
そう。俺はこの日、溺れかけたんだ。
詳しくは覚えてないが、足を滑らせて前のめりに倒れたんだったと思う。
すぐさま父さんが助け起こしてくれたんで、ギャン泣きするだけで大事には至らなかったのは不幸中の幸いだった。
それでも、ほんの一瞬でも溺れかけたという事実が、俺の中の何かを触発したらしい。
その日の晩、俺は毎度お馴染みの夢を見ながら、それが前世の記憶だと理解した。
驚くほど、すとんと染み込んだ感じだったな。
前世の俺の、いや、私の死因はどうやら溺死だったみたい。
享年二十七歳。性別は女。独身で、死亡当時の恋人いない歴は一年くらい。職業は弁護士。外見は普通。化粧をして、それなりってところかな。あ、でも胸は大きめだったよ。
そんな私の最後の日の事だが、あの日は友人たちと夜の海で遊んでいたんだ。
え、危ない?
そうだね。危ないよね。だから、良い子も悪い子も普通の子も、夜の海はやめておこうね。
例え満月がキラキラしてて明るめだったとしても、夜の海は超危険。
実体験だからよぉく覚えておいて欲しい。
後は詳しく語る必要はないと思う。詳しく覚えてもないしね。
取りあえず私は自業自得の結末を迎えたというわけだ。
残された友人たちの精神的外傷になっていない事だけを願ってます。
出来ることなら私……俺は今、新たな人生を楽しんでいるんだぞと伝えたいくらいだ。
だがしかし、それが不可能であることは分かっている。
前世のことを思い出した時、俺は驚きの事実に気付いたのだ。
なんと! 今生の俺、金髪緑眼の男の子であるクルルガ君が生まれた世界は、地球ではなかったのだ。
なななんだってー。まさに今世紀最大級の驚きだぜ。
つまり俺は、性別転換だけでは飽き足らず、知らない内に異世界生活までもが始まっていたのである。
こうなったら転生という利点を最大限に活用するしかない。
そして今生こそは、自由気ままに生きてやるのだ。
前世は、私なりに世のため人のためにと奔放し続けた一生だったからな。
今度は自分の為だけに生きたってバチは当たるまい。
目指せ。我が道を行く人生!
2016.10.01 文章一部訂正しました。