輪廻、転生、転移監理局のお局様は今日もてんやわんや
昔なつかし黒電話がジリジリと鳴動している。
本当ならこんな小物必要ないのだけれど気分は大事よねぇ。
さくらは自分に与えられた机に着くとなれた手付きで引き出しから分厚い運用マニュアルを取り出した。
壁に掛けられた時空時計を確認し、就業を告げるチャイムと同時に黒電話を取った。
「はぁーい、こちら輪廻、転生、転移監理局、略して輪転局でぇす」
私が自己を自覚したときには既に今の体躯を有していました
。
長い黒髪は腰まであるストレートではっきりいって重く首に負担がかかるのか、はたまた違う理由からか常に肩凝りとの戦いだ。
「本日はどのような人材をお捜しですかぁ?」
ペラリ、ペラリとマニュアルをめくっては通信相手の情報を引っ張り出す。
異世界輪廻、転生、転移監理局は無数にある世界の全ての魂を監察、管理するのがお仕事です。動物、植物、魔獣や幻獣、微生物にいたるあらゆる死者は、それぞれの世界の輪転局支部によって導かれ同じ世界に生まれ変わり、前世を忘れ新しい生を受ける。
「あーはい、はい。はぁ、転移で希望としては男性ですね。魔王討伐のために勇者をご希望ですか」
近年こう言った依頼が急増したため、毎日のように残業が続いている。
「ご希望に合いそうな人材ですが、只今不足しておりまして順番待ちとなっております。暫くお時間を頂くようになりますが・・・・・・」
組織の労働力としてさくらと言う名前を与えられて、造られたときはそれはそれは暇な組織でしたよ。
支部でほとんどの輪廻作業が完了するので、私の所属先である本部は給料泥棒扱いですよ。ワッハッハ。
「喚かないで、落ち着いて下さい。お話はわかりましたが、お求めのレベルの転移可能者は居ないんです!」
うううっ、今日の相手はある世界で高名な召喚師だそうな。
「はぁ、はい。申し訳ありません。未熟な者で良ければ何名か候補者がおりますし、転生で宜しければ高位の魂が数ヵ月後に転生可能になりますが・・・・・・はい、申し訳ありません」
姿が見えるわけではない相手についついペコペコと頭を下げた。
召喚師だの賢者だのは自尊心が高いので正直私は苦手です。
小娘!このほにゃららの召喚師なんちゃら様の命がきけんというのかっ!ってあんたなんか知らん!
「申し訳ありません。まだまだ若輩者ですので御迷惑をお掛けしております」
明らかに生きている年月で言えば私の方が数千年単位で歳上だとおもうけど、これもお仕事。
造られてから一切衰えることがない美貌のお陰で、相手に嘗められるのは本当に勘弁して欲しいですよね。
この前のお客様だったほにゃらか仙人なんか「良い尻じゃ」と言って私の桃尻撫でてきたんですよ!?
くそぉ、セクハラだぁ。私は社畜じゃないのよ!?
転生を望む者は傲慢だし、自意識過剰。
派遣される者も需要過多で品質悪化の一途です。
でもね、最近ある世界の人間の需要が高まってるんです。
なんでもその世界は「もしも」を楽しめる仕組みが有るみたいで、魔法が歴史の渦に飲まれて発展せずに科学と言う学問が進化していったちょっと変わった世界なんですって。
「はい、わかりました。では勇者の卵になりそうな少年を召喚させていただきます。お代として三千の魂の輪廻が対価となりますがよろしいでしょうか?」
えっ、高いって?世界を渡すのってかなりの重労働なんですよ?勇者を召喚するとなったら数十万の犠牲はでるんですからね。
「えっ、そうですか?高いですか、ならば仕方がありませんね。またのご利用を御待ちしております」
値切ろうとする老害に付き合っている暇もないので、さくっと通信を切りました。
召喚失敗の汚名?知ったこっちゃありません。管轄外でぇーす。
次に彼の世界が輪転局に通信を繋げるのはいつになるんでしょう?知ぃらないっと。
ヒステリックジジィの相手をしている間も通信を求めるベルは途切れることが無いんですよ。
「さくら、なんか地球って世界の女性が手違いで渡っちゃったみたいなんだけど」
「はぁ!?またぁ、私始末書書くの嫌だよ?セシルやって?」
このキラキラした少年はセシル君です。めちゃめちゃ美少年。色んな方面にモテる外殻を設定されてます。
「俺がやっても良いけど、それなりの被害でるからな?」
「ごめん、私がやるよ」
こんな感じで予定外に世界を越えちゃう魂もいちゃうんですよ。転生ならまだ問題ないんです。
一度きっちり死んでるんで、でも記憶を持ったままだったり、途中で思い出して無双したりしちゃうから、帳尻合わせが半端ないんです。
世紀末には歪みを調整、申告しなくちゃいけないからたいへんなのよ?
内部監査厳しいんだからぁ。
「それで、だぁれ?」
「こいつ。地球での名前は清水さち子、27歳独身OL。会社からの帰り道に事故にあい死亡。まぁ、未通でまだきちんと女になった訳じゃなかったみたいだし、男に産まれても問題ないかな。誕生予定はシオル・レイナスって名前の王子殿下だ」
これからの何通りもある道筋は決して楽な道はないのですよ。無数の道筋を違えずに選びとって行けるのか楽しみでは有りますね。
「大丈夫なんじゃない?ほっときましょう?あの世界は少し刺激があった方が発展するでしょうし」
「んじゃ、ここに認印を押してくれ。ついでにこれにも」
ペラリと出された二枚の書類。あれ?なんで二枚?
一枚目はシオルね転生許可書だった。転生時に付与される才能は努力の恩恵。
簡単に言っちゃうと頑張るものは報われる才能。
認印を出して神力をインクに受領と書かれた所にさくらと名前を記載して判を押した。
判を押された書類はくるくると回転しながらぽわっと暖かな光を発して浮き上がると鳥の姿に変わり、パタパタ音をたてて開け放たれた窓から飛んでいった。
形状は届け先によって鳥だったり竜だったり、龍だったりまぁ、色々だ。
「さぁさぁ、こっちもお願いします」
「えぇ、今書くわって、これ婚姻届けじゃないの!」
「はい。さぁさぁ書いて」
「書けるかぁ!なんであんたと結婚しなきゃなんないのよ!」
「えー、俺尽くしますよ?退屈させませんって」
上目使いで可愛く唇を尖らせてふてくされても駄目です!私にも好みがあるんですから!
「この書類は廃棄!」
手に持ったままの婚姻届けに神力を集めてを燃やそうとした。
その瞬間バシッと何かに弾かれて書類は何事も無かったようにそのままの姿で床へ落ちた。
「燃やそうとしても無駄だよ?だってマムの署名はもらってあるからぁ」
「はぁ!?」
マム、それは全ての創造主にして破壊神。そしてさくらを作った母だった。
「マムの実筆が入った書類は破棄できませぇん」
よりにもよってなんつう厄介な人を引っ張り出すのよ!
「はい!、こちら輪廻、転生、転移監理局、略して輪転局」
煩い通信を繋げる。
「はぁ!?聖女だぁ、先ずは自分達の生活見直せや。なんでもかんでも異世界人頼んな!」
ガチャンと受話器を勢いよく本体に戻した。
「なぁ、良いだろう?なぁ?」
「はい、こちら輪廻、転生、転移監理局です。新しい世界をですか・・・・・・どんな世界なんですか?えっ、恋愛ゲームの世界。またですか、たしかこの前は女性向けのゲームでしたよね?その前は男性向け」
私は今お仕事中、セシルの相手をしている暇があったら定時退社したいのよ!
「えつ!同性愛の恋愛ゲームの世界!?はぁ、マムったら面白がってまたろくでもない世界を創ったんですか・・・・・・」
後ろでむくれているセシルは放置です!
「さくら」
「うひゃぁぁぁ!」
耳もとで響いた甘い重低音ボイスに受話器を持ったまま飛び上がった。
振り替えればセシルの姿ではない美丈夫が居た。
スッと通った高い鼻梁に涼しげで少しつり上がった瞳はアイスブルー。
短く整えられた髪は深紅。誰あんた?
「さくら、私の姫君。どうか俺と結婚してください」
恭しく右手をとられ手の甲に青年の唇が・・・・・・!?
「は・・・・・・ハッ!」
いかんいかん、しっかりしろ私!目をつぶりブンブンと頭を横に振って邪念を払う。
「さくら、私の運命。どうか私の愛を受け止めて欲しい」
突然左手をとられて振り替えると線の細い美しい青年が熱いまなざしをむけてきていた。銀色の長い髪に美しいアメジストの瞳は吸い込まれそうなほどに高貴な色。
「えっ、ええ!」
目の前の赤毛に銀髪、二人!?
「さくらは誰にも渡さない。素直に俺の物になれ」
背後から腰を抱かれ見上げると精悍な男性が甘く誘う。腰に回る逞しく力強い腕、ヤバイ!
「「「さくら」」」
自分を取り囲む良い男祭り。これはヤバすぎる!
「さくらこれにサインを」
最後に目の前に現れた本日一番の理想の男性がバインダーに挟んだ書類を見せた。
「はっ、はい」
言われるがままに名前を書き込むと紙は虹色に輝きだして美しい蝶の姿に変わり翔んだ。
「「「「これでさくらは」」」」
「俺のものだ」
四方を取り囲むイケメンが消えて、残ったのはセシルのみ。
「今晩からよろしくね?俺の可愛い奥さん?」
やっ、やられたぁ!!