バレてる
「澤野くん…これさっきの授業の………」
私は、5時限目が終わって戻ってきた澤野くんの席に、
勇気を出して話し掛けた。
「要らねぇよ、別に」
「学年末テストにも出るみたいだし、使って?要らなかったら…捨ててくれて良いから…」
ルーズリーフに、黒板に先生が書いた内容を、
自分のノートとは別に、書いてみた。
「間宮って、俺のこと好きなの?」
突然澤野くんが、からかうように笑って言う。
――――え、あっさりバレてるし…っ。恥ずかしすぎる。
私は、顔から火が出るほど赤くなって、
何も言えずに教室を飛び出す。
『間宮って、俺のこと好きなの?』
――――それ聞いて、どうするつもりだったの…、
迷惑って言うつもりだったのかな…。
怖い…もう話せない…っ。
でも、6時限目が始まる直前には、席に戻る。
サボるとか、出来ない自分が憎い。
…怖くて、澤野くんの席がある窓側の方は顔を向けられない。
――――良かった…、席離れてて…。
教科書で顔を隠すようにして、私は授業を受けた。
『間宮って、俺のこと好きなの?』
頭のなかでリピートされる度に、鼓動が激しくなり、
ため息が出る。
―――授業のノートなんて、渡さなきゃ良かった…。
「咲―っ、部活一緒に行こ?」
放課後になると、いつも隣のクラスの粟野さんがやって来る。
「………。」
澤野くんは、何も言わずに粟野さんに腕を組まれて教室から出ていく。
粟野さんは、バスケ部のマネージャー、
澤野くんは、サッカー部。
粟野さんを体育館に送ってから、
自分の部室に向かうのが日課になっていた。
最初は、嫌味をさんざん漏らしていたクラスの女子達も、
全く堪えない粟野さんには無意味だと悟ったのか、
睨み付けはするけど、前よりは悪口を言わなくなっていた。
粟野さんは確かに、可愛らしい…女の子らしい人だけど…。
私には、澤野くんのことを本気で好きだとは思えなかった。
“カッコいい彼氏”が欲しかったからー―――。
そんな気がしていた。
澤野くんは…、
相田先輩と付き合っていた時とは別人のようで…、
粟野さんと付き合っているのはまるで“義務”かなにかのように、
無表情だし、無関心だった。
そんな澤野くんは、
相田先輩に彼氏が出来たという噂が流れてから、
さらに人格が変わってしまったー―。