失恋
夏休みが終わると、
澤野くんの様子がいつもと違うことに気付いた。
なんの接点もない私は、長い夏休み中、
一度も澤野くんに会うこともなかった。
だから…心待ちにしていた新学期の初日。
――――何だか、キラキラ度が前よりも少ない?
「咲くん、花火大会に彼女と浴衣着てたって、本当?」
「私も、一緒に行きたかったぁ~」
「咲くんの浴衣姿、見たかったのにぃ~」
彼は、クラスの女子たちに囲まれて、ムスッとした顔で無視を決め込む。
そんな澤野くんの様子の原因を知ったのは、数日後だった。
「澤野くん、あのバスケマネージャーと別れたらしいよ」
昼休み、
聞き入れた情報をすぐに伝えようと興奮ぎみに由美が言う。
「え、うそっ…」
私は心臓が跳ねる。
「本当だよ、もうすっかり知れ渡ってる話だし」
真由は知っていたらしく、冷静に言う。
――――澤野くん…。
昼休みが終わり、席に着きながら、
ボーッと窓の外を眺める澤野くんを、私はそっと見つめる。
―――元気出してほしい…。
「あの…澤野くん?」
放課後になると、私は勇気を出して自分から話しかけてみた。
「―――んだよ?」
澤野くんが席にうつ伏せになっていた顔をあげて、不機嫌そうに私を見上げる。
――――う、怖い…。
「こ、これ。あげる!」
震える手で、机にキャンディを1つ置く。
「は?」
澤野くんが怪訝な顔をする。
「―――元気、出して?」
私がそう言うと、
「間宮に関係ない。」
低い声でそう言われて、澤野くんはガタッと席を立つと、
カバンを持って教室を出て行ってしまった。
クラスの女子達が遠くから、クスクス笑っているのがわかった。
『間宮に関係ない』
―――そんなの、分かってるよ…。
私なんて、一学期に…一度会話しただけのクラスメイトだもん。
―――なのに…私の名前…呼んでくれた。
本当に…覚えてくれたんだ…。
机に置かれたままのキャンディを見つめながら、
私は泣くのを堪えた。
―――それだけで嬉しくて…、でも…それだけじゃ足りなくて…。
私はやっぱりあなたが好きです―――。