自己紹介
「大丈夫です…」
「怪我とかしてないですか?」
「大丈夫です、ほんとに…」
同じクラスの人なのに、お互い敬語。
澤野くんはきっと、私のことを二年か三年生と勘違いしている…。
派手に散らばったノートを、拾いながら虚しくなる。
――――初めて会話したのに、ツラい。
「あれ?もしかして…」
澤野くんが、ノートの一冊手に取りながら言う。
「同じクラス?」
ノートの表紙に書かれていた、クラスメイトの名前と“一年A組”の文字。
――――今気付かれると余計に虚しくなる。
「一年A組、間宮 葵です。同じクラスです。一応。」
やけになって、早口で自己紹介する。
「ははっ」
澤野くんが声をあげて笑った。
「ごめん、知らなくて。―――てか“一応”って…」
なぜか私の自己紹介がツボにはまったらしい。
「変なやつ。…あ、ごめん名前なんだっけ?」
「ま、み、や、あ、お、いです。」
――――ひどい、瞬時に忘れるなんて。
半泣きで私が言うと、澤野くんは笑うのをやめた。
「ごめん、ごめん。間宮な。覚えた」
――――そう言われただけなのに、
私の心臓は矢で射抜かれたような衝撃をうけた。
顔が真っ赤になる。
静まれ…心臓っ!
――――この瞬間は、いつまでも私の宝物です…。
澤野くんが、私に話し掛けてくれた、この瞬間は。