相田先輩
修学旅行から帰ってきて、数週間が過ぎた。
12月に入り、もうすぐ期末試験がある。
私は、最近、帰りに図書室で一人、勉強していた。
「あの…これ落としましたよ?」
「あ、すみません…」
私が落としていた消しゴムを拾ってくれた人に、お礼を言う。
「いえ…」
静かに微笑んで、行ってしまうその人を、
驚きのあまり声も出ずに見つめる。
――――相田…茗子先輩…!!?
澤野くんが好きだった人。
澤野くんが守ろうとしている人。
澤野くんがずっと好きな…唯一の人。
ガタッと席を立って、私は相田先輩に駆け寄る。
「あ、あの…っ」
「………?」
私が勢いで声をかけると、相田先輩が振り返る。
―――可憐で…眩しい…。
「私…澤野くんと同じクラスの間宮っていいます…」
「はい…。」
ヤバい、明らかに不審がられてます…。
それでも、相田先輩は私の話しに耳を傾けてくれる。
「私…澤野くんが好きなんです…」
「え…」
言ってから、気付いた。
――――私…何を言っているのでしょう…。
「あの…私…、もうサクちゃんとは付き合ってなくて」
申し訳なさそうに、相田先輩が言う。
「あ、すみません!知ってます…。」
――――澤野くんとは別れたこと。
今は…仲西先輩と付き合ってることも。
「そうじゃなくて…あの…。相田先輩は、粟野さんと付き合ってる澤野くんのこと、どう思いますか?」
――――私が本当に聞きたかったことは…。
「え…。」
相田先輩が明らかに動揺する。
「私はツラいです。無理しているのが分かるから…」
――――澤野くんが守ろうとしているもの。
「相田先輩が粟野さんと付き合うように頼んだなんて…嘘ですよね?」
「私は…そんなつもりじゃ…なくてーー」
傷付いたような表情で、相田先輩が声を絞り出す。
「澤野くんが粟野さんと付き合ってる理由、知ってますか?」
「―――それは…」
相田先輩が言葉を詰まらせる。
「粟野さんが、バスケ部のマネージャー続けるため…ですよね?」
「相田先輩…もう…澤野くんを解放してくれませんか?」
――――私には…出来ないから…。
「お願いしますっ」
――――こんなことしか…出来ないから…。