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思い出したくない

「ごめんね…」

二日目の夜、ホテルに戻るとグループのみんなに頭を下げる。


愛子ちゃんと志保ちゃんが笑って許してくれる。

「いいって、それより…大丈夫?」

「え?」

私が頭をあげると、恭子が心配そうに言う。

「…粟野さんと佐々木さんと一緒にいるところ見ちゃってショックだったんでしょ?」


「あの場には確かに居なくないよね…」

愛子ちゃんと志保ちゃんも言う。


「でも、良かったよすぐ見つかって。」

「澤野くん、やっぱり葵ちゃんに優しいよね!羨ましい!!」

――――え?


「そんな事…ないよ。」





澤野くんがあの時、私の顔を上に向かせて…キスされるかと思った。



私は今日の出来事をまた思い出してしまう。


顔をあげて、目が一瞬合った。

―――また、キスされる…そんな予感がして目を閉じた。



でも…なぜかキスではなく、プニッと鼻をつままれた。


―――は、恥ずかしくて死ねる…っ。

思い出したくないのに、何度も思い出しては死にそうに悶える。


私なんかに、キスする気なんて間違っても起きないよね…。

なのに…私…っ。




あの時…、

鼻をつままれたまま、私は気になってつい心の声が出ていた。

「き、キスしないんですか?」

「は?」

澤野くんが明らかに面食らった顔をした。


「………するわけないじゃん」

「え、でも保健室で前に一回ーー。」

―――キス、しましたよね…。


「は?してねぇよ。」

「え…」

思いきり頭を殴られたような衝撃をおぼえる。

―――嘘…それって…私の勘違い…。



「泣いて嫌がるやつに無理矢理するほど、女に困ってねぇし」


言いながら、私の口元に澤野くんの手が触れる。

この感触…まさか……。


―――つまり、あの時の…キスだと思っていたのは…手だったってこと…?





「うわぁぁぁっ」

突然思い出し発狂した私に、三人がビクッと驚く。


「え、ちょっと…葵?」

「葵ちゃん、だ…大丈夫?」

「どうした?大丈夫ー?」


―――――もう…澤野くんに会わせる顔がないよーーー!



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