澤野くんの想い
「ありがとう、これで全部だわ」
相田先輩がホッとしたように微笑む。
―――うわ…可愛い…。
微笑んだだけで、相田先輩の後ろに花が見えましたよ…。
女の私でも見惚れてしまうのだから、
男が放っておくわけないよね…。
それに……、
魔性だとか小悪魔とか淫乱とかさんざん陰口言われてたけど、
私には、やっぱり透明感のある純真無垢な人にしか見えない…。
「あ、おはようサクちゃん」
相田先輩が気まずそうに挨拶して、
私は初めて後ろに澤野くんがいたことに気付いた。
「なんで茗子が二年の廊下歩いてんだよ」
澤野くんが相田先輩にぶっきらぼうに言う。
「ほら、私はもうマネージャー引退だから、凜ちゃんに…」
「へぇ?」
たいして興味がないとでもいうように、澤野くんが言いながら、立ち去ろうとする。
「―――ねぇサクちゃん…凜ちゃんとは…」
相田先輩が引き留めるように話し掛ける。
「茗子には関係ないでしょ?――――大丈夫だよ、航先輩から茗子を奪おうとか、全く考えてないし」
澤野くんが振り返らずにそう言うと、足早に行ってしまう。
「サクちゃん…」
相田先輩が澤野くんの背中を見つめながら呟く。
ーーーまるで、ドラマのワンシーンを間近で見てる感覚で、
私は暫く立ち尽くしていた。
「おい間宮、遅刻すんぞ?」
教室の前に着いた澤野くんが、遠く離れた私を呼んでくれる。
「あ、は、はい」
なぜ澤野くんが私に声をかけてくれたのか…、
全然分からなかったけど、それだけでスキップしたくなるぐらい、私は上機嫌で廊下を走る。
――――相田先輩のことは、もう吹っ切れたのですか?