私の想いは
「最低…っ!浮気男っ」
夏休みも終わり、新学期の朝、
教室に向かう途中、そんな声が昇降口の横から聞こえてきた。
――――なんとなく、足を止めて声のした方を見ると、
泣きながら三年生の女の先輩が走っていってしまった。
あの人…確か最近澤野くんと噂になってた…。
暫くすると、同じところから右頬を押さえながら澤野くんが歩いて出てきた。
ばっちり目があってしまう…。
―――気まずい…。
私はすぐに目をそらして、靴箱へ行き、靴を履き替える。
「――どうして浮気って思うんだろうな…」
後から来た澤野くんの声が上から降ってくる。
「え?」
――――今、私に、話しかけてます?
私は背の高い澤野くんを見上げる。
「彼氏になった覚えもないのに。」
苛立ちながら、澤野くんが私の顔を見て言う。
「―――澤野くんが、好きだから」
「あ?」
「だから…みんな独占したいと思うんじゃないですか?」
私がまっすぐ見つめて澤野くんにそう言うと、
「じゃあ、間宮も俺のこと独占したいと思ってるんだ?」
澤野くんが微笑みながら靴箱に手をついて、問い詰める。
「わ…私は思ってません、大丈夫です。わきまえてますから」
私は全力で、否定する。
「なんだよそれ」
澤野くんが不機嫌そうに言う。
「私は澤野くんには相応しくないですから。自分が一番分かってますから」
――――嘘。本当は独占したいと、どこかで思ってる。
「私なんてなんの魅力もないし…」
「間宮って、なんでいつもそんなネガティブ?」
澤野くんが首をかしげる。
「もっと、自分に自信持てば?」
「さ、澤野くんには私の気持ちなんて絶対分かりませんっ。澤野くんは、何でも出来るから…」
私はうつ向きながら吐き捨てるように言う。
「それに…私には―――」
―――誰でもいいと言いながら…、
私にはキス以上のことなんて、何もしてくれなかったのに…。
「“私には”?なんだよ…」
澤野くんが私の言葉をじっと待つ。
―――『自分に自信持てば?』なんて…
貴方が言わないでください…。
「私には女としての魅力がないですから」
そう言いながら、澤野くんの腕をすり抜けて教室に走る。
走っている途中で、誰かと肩がぶつかった。
「あ、すみません…」
振り返って、頭を下げて謝る。
「いえ、私もちゃんと前見てなくて…」
床に散らばったプリントを拾いながら言う…その人は―――。
あの、相田先輩だった…。