~ おまけ 食中毒の話 ~
「あらら、本編が終わっちゃったわ。も~、せっかくこれから新しい身体で、ウェルといちゃいちゃするところだったのに‥」
「よせよせ、どうせピーとかプーとか鳴って、肝心なところはわかんねえのがオチだぜ」
「まぁ、ひどい。ねぇ、この話続編はでないの?」
「ああ、作者のやつ、これは一発こっきりの予定だから続きはねえとか抜かしてたぞ」
「え~、何それ。もぅ、だからこんなおかしな名前ばかり出てたのね」
「何だ、おかしな名前って?」
「あら、気がつかなかった、この話に出てくる固有名詞ってほとんど食中毒関連なのよ」
「まじか!」
‥と言うわけで、最後までお読み頂いた読者様の頭に固有名詞が残ってるうちに、おまけの章では食中毒に関するお話を少々。食中毒と関係のない人はいませんし、特に食品関係の仕事に就いてる方、ならびに今後食品関係の仕事に就く方は覚えておいて損はないので、お暇な方はもう少しお付き合いくださいませ。
☆神聖王国リステリア、ならびに王都リステリア=リステリア菌
マイナス四℃でも増殖可能なリステリアは、低温に強い細菌性の食中毒菌です。日本での発症は稀ですが、妊婦さんや高齢者の方には注意が必要です。人獣共通で感染しますが、主な感染源は食品です。冷凍食品などにはしっかり熱を通しましょう。
「感染すると、発熱や悪寒、頭痛、嘔吐の症状が現れるみたいよ」
「なるほど、だから嘔吐‥じゃない、王都リステリアなのか」
「‥‥ウェル、それ親父ギャグよ」
☆ウェルシュ=ウェルシュ菌
本編の主人公たるウェルシュもまた、自然界に広く分布し、人の腸内にも生息する食中毒の原因菌です。熱に強く、食肉、魚介の調理品、特に作り置きのものが原因となることが多く、症状は腹痛と下痢です。
「ちなみにおならが臭いのも、ウェルシュ菌のせいなのよ」
「‥俺は屁か」
☆商業都市チーフス=チフス菌
チフスは高熱や発疹を伴う感染症で、腸チフスと呼ばれるものが多いです。感染源は汚染された飲み水や食物で、衛生環境の整った日本ではほとんど起こりえず、海外渡航者などが海外で感染したりします。本編のリステリア下町のように、家畜の糞が放置され、それにハエなどがたかり、近くに食べ物の市場があったりすると汚染の原因になります。
「うふふ、感染すると四十度前後のひどい熱が出て、ずっと下痢で苦しむんですって」
「‥何で嬉しそうに言うんだよ」
☆プレシオモナス山脈=プレシオモナス菌
これも日本ではあまり見られないもので、おもに熱帯、亜熱帯で、海外渡航者が水系汚染によって感染する下痢の原因菌です。軽度の下痢や腹痛を引き起こします。高齢者や新生児の感染には注意が必要です。
「北米辺りに本当にありそうな山脈名ね」
「俺は恐竜の名前かと思ったよ」
☆エルシニア教=エルシニア感染症
これまた国内での発生例が少ない食中毒菌で、リステリアに同じく低温に強く、人獣共通感染します。感染すると、腹痛や下痢を起こします。
「リステリアとエルシニアは低温に強いってセットで覚えるといいわよ」
「テストに出るなら覚えとくよ」
☆裏切りの騎士カンピーロ、ならびに騎士バクター=カンピロバクター
国内の食中毒で発生件数が最も多いのが細菌性の食中毒で、カンピロバクターはその代表格です。ほぼすべての動物が保菌しており、加熱が不十分な肉や生肉、生卵、飲料水が主な感染源で、特に鶏肉からの感染例が多いです。発症すると、腹痛、下痢、発熱を引き起こします。
「本当は、カンピロ(曲がった/ギリシア語)とバクター(細菌/ラテン語)の合成語らしいわよ」
「‥‥イタリア人とアメリカ人じゃねえのか」
☆ノロ副長=ノロ・ウィルス
発生件数は細菌性が多いけど、患者数が最も多いのはこのノロ・ウィルス。冬場の食中毒の代表格で、食中毒の半数前後はこれが原因。水や貝類など摂食感染の他、人間の手や唾液による二次感染もあります。また、感染者の吐瀉物に触れて感染する事も多いです。
発症すると嘔吐、微熱、下痢を引き起こしますが、止瀉薬(下痢止め)は、体内にウィルスをとどめることになるので、使わないほうがよいです。
「嘔吐と下痢を繰り返して、水分を採りながらひたすら耐えるしかないんですって」
「だから、何でそんな楽しそうに言うんだよ」
☆ボッツ・リーヌス法皇猊下=ボツリヌス菌
ボツリヌス菌が作り出す毒素は強力で、感染すると嘔吐や下痢の他、視覚障害や呼吸不全を引き起こし、重症化すると再悪死にます。感染源は主に食品で、酸素を嫌う性質の為、ビン詰など保存食が原因となりやすいです。また、ハチミツにはボツリヌス菌が紛れ込む可能性が高いので、乳児ボツリヌス症に感染させないためにも、一歳未満の乳児に与えてはいけません。
「ボツリヌス菌が作る毒素は、自然界に存在する毒素の中でも最強なのよ」
「それをよりによって、法皇の名前にしたのか‥」
☆セキリキン村=赤痢菌
赤痢菌は感染力が強く、しばしば集団発生することのある食中毒です。感染源は食品や水の他、感染者の触れた食品を食べたりすることでも感染します。症状の特徴は出血性の下痢で、発熱や嘔吐、腹痛を伴います。
「な~にがセキリキンよ、赤痢菌の事じゃない」
「すげーな、カタカナにすると何でも西洋の地名に見えてくるわ」
☆セレウスこと、セレウス・B・フィルミクテス=セレウス菌
セレウス菌もウェルシュ菌に同じく、自然界に広く分布し、人の腸内にも生息する食中毒の原因菌です。加熱に強く、空気がなくても生き延びれるため、本編のヒロインに同じく、死滅させるのが難しいです。感染源はチャーハンやパスタなど、米や小麦を原料とする食品が多く、感染すると、嘔吐、下痢の症状を示す場合が多いです。
「分類学上、私の学名はフィルミクテス門、バシラス綱、バシラス目、バシラス科、バシラス属、セレウス菌種になってるのよ」
「う~む、なんとか人名に見えなくもないな」
☆クリプトスポリジウム・バルバム
ストロンギロイデス
サイクロスボラ・ケイタネンシス
ディプロモナス
メタセルカリア=紫雷撃の呪文
先のセレウスのように、既知の生物には学名があり、それらはラテン語でつけられています。日本語圏の人が片仮名で読むと、まぁ、ほとんど呪文ですね。ちなみに詳細は割愛しますが、これらはすべて寄生虫の学名です。
「セレウス ワカクテ キレイデ サイコー」
「どさくさにまぎれておかしなこと言ってんじゃねえ!」
☆紫雷撃マイコトキシン=マイコトキシン
キノコやカビによる食中毒を真菌性食中毒と呼び、それらが産生する毒素を総称してマイコトキシンと呼びます。原因菌が死滅しても毒素が残るので除去が難しく、付着した食品を摂取すると感染します。症状は一概には言えませんが、悪心、腹痛、下痢、嘔吐などを引き起こし、中には発がん性のあるものもあります。
「ちなみにトキシン(toxin)はラテン語で毒の事で、雷とは何の関係もありませーん」
「じゃ、雷はなんて言うんだ?」
「トニトルス(tonitrus)よ」
☆騎士ビブリオ=腸炎ビブリオ
腸炎ビブリオは主に海中にいる細菌で、海産物を生食することで感染します。感染すると、激しい腹痛を伴う下痢(時に血便になることもあります)、発熱、嘔吐の症状が出ます。刺身を加熱殺菌するわけにはいかないので、予防のためには真水でよく洗うことを心がけます。
「日本では、夏は細菌性の食中毒が多くて、冬はウィルス性の食中毒が多いんですって」
「ふーん、ま、腹が痛くなりゃ、どっちでも同じだけどな」
☆聖女アニサ・キース=アニサキス
海産動物に寄生する寄生虫で、サンマやサバ、イカなどを食することで感染します。加熱や冷凍に弱いのですが、天然物を刺身で食べる場合はいかんともしがたく、鮮魚関係者にとっては頭痛の種です。
感染すると激しい腹痛と嘔吐を伴いますが、下痢にはなりません。アニサキスの恐れがある場合は、即最寄りの病院へ。
「‥‥何が聖女よ、寄生虫の写真見たらすっごく気持ち悪かったわ」
「いや~、女性名になるのがこれしかなかったんだろう」
☆黄色い葡萄亭=黄色ブドウ球菌
人の身体や消化管にいる常在菌ですが、食物に感染して毒素を出すと、食中毒の原因となります。傷ついた指先などで食品に触れたりすると、感染の恐れがあります。おにぎりなど、穀類やその加工品が発生源として多く、吐き気、嘔吐、腹痛が症状としてでますが熱は出ません。
「作者のネーミングセンスを疑うわ、何、黄色い葡萄亭って?」
「いや、むしろよくこれを作中に登場させられたな、と俺は思うよ」
☆コレラット=コレラ菌
世界的大流行を引き起こしやすい感染症ですが、衛生環境の整った現在の日本では、海外からの帰国者や輸入食品が原因となり得ます。コレラ菌に汚染された水、氷、食品を摂取することで感染し、発症すると下痢、嘔吐を引き起こしますが、発熱、腹痛はありません。脱水症状で死に至る場合もあるので、水分と電解質の補給が大事になります。
「コレラット、コレラット‥、コルレットなら聞いたことあるけど、コレラットって何?」
「コレラ、とまんま出したくない、作者の妥協の産物だ」
☆王の一五七=病原性大腸菌O-157
大腸菌に病原性はありませんが、このO157は毒素を出すことで感染を引き起こします。牛などの家畜が保菌源とされていますが、感染経路の特定が難しく、原因食品が分からない場合も多いです。牛肉関連が発生原因である場合が多いですが、あらゆる食品が発生源となり得ますので油断は禁物。症状は激しい腹痛、下痢、血便で、重症の場合は死亡することもあります。食材の十分な加熱と衛生管理が予防となります。
「西洋ファンタジーにO157って言葉を出すのは、さすがに無理があるわね~」
「こじつけここに極まれりって感じだな」
☆パラチフス織
腸チフスと同様の症状ですが、腸チフス程重篤にはなりません。
「チフスは出したのに、何でパラチフスまで出したのかしら?」
「‥単に、単語が足りなかっただけじゃね?」
☆サー・ルモーネ・ラーキン国王陛下=サルモネラ菌
腸炎ビブリオ、ブドウ球菌とならんで、かつては三大食中毒菌の一角をなした食中毒菌。加熱に弱く、症状はそれほど重くないのですが、一旦大発生すると滅菌が難しくなります。
菌に汚染された肉や卵、加熱の足りない食品が主な発生源で、発症すると腹痛、下痢、発熱を引き起こします。人獣共通の感染菌なので、犬や猫などのペットから感染する事もあります。
「世の中広しと言えども、サルモネラ菌をこんな名前に仕立てたのは作者くらいでしょうね」
「ハハハ、もし他にもいたらどうなんだ?」
「変人が二人以上いるってことね」
☆娼婦フィラリア=フィラリア
犬の寄生虫で有名なフィラリアですが、人間に寄生するものもあります。ちなみに犬フィラリアは蚊を媒介に感染するので、愛犬家の方はご注意あれ。
「ねー、ウェル、犬は好き?」
「ああ、好きだぜ。猫よりうまいぞ」
☆狂える月の女神エロモナス=エロモナス属菌
淡水中に常在する細菌で、セレウスの呪文にも使われているエロモナス・ソブリアとエロモナス・ハイドルフィアが食中毒の原因菌となります。が、日本国内では人間への感染はほとんどなく、どちらかと言うと金魚の病気としての方が有名です。
水か淡水魚、海産魚介を食べることで感染し、発症すると腹痛、下痢を引き起こします。
「エロモナスって、なんだかエッチな響きね~」
「エロと言う言葉に過剰反応するなよ」
☆アイメリア
アセルブリナ
マクロギロダクティルス・ポリプティ
ブルーストリパノソーマ
ユーグレノゾア
ヒストモナス
フォーラーネグレリア=紫電狂乱の呪文
これも紫雷撃に同じく、全て寄生虫の学名です。
「ウェルシュ、カタクテ、フトクテ‥ピー、ピー」
「おいおい、お前まで禁止語句に触れるなよ」
☆紫電狂乱アフラトキシン=アフラトキシン
マイコトキシンはカビ毒の総称で、アフラトキシンはその内の一種です。発がん性が高く、過去にイギリスの七面鳥を殺しまくった「ターキーX」の原因物質でもあります。
「ギラ、ベキラマ、ベギラゴンって感じにはいかないようね」
「ヒドロドトキシン!」
「‥それってフグの毒じゃなかったかしら?」
☆村娘エボラ=エボラ出血熱
最後に食中毒ではないんですが、現在世界的な問題となっているエボラ出血熱の事を少し。
エボラは風邪に同じくウィルス性の感染症で、五十~八十パーセントの極めて高い致死力を持ち、有効な医薬品は現在確立されていません。感染は血液、分泌物、排泄物や唾液などの飛沫に触れることによる飛沫感染で、空気感染はありません。しかし潜伏期間が通常七日程(最短二日、最長三週間以上)あるため、感染に気付かない感染者が、世界中に運んでしまうこともあります。
発病すると、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、食欲不振などから、嘔吐、下痢、腹痛などを呈し、進行すると出血熱の名の通り、全身から出血や吐血がみられ、死亡します。
‥と、まぁスペック的なことをいくら述べてもピンと来ないですかね。現在各国では、エボラ感染者を国内に入れないよう、検査、検疫による水際対策を実施していますが、発生源であるアフリカでの封じ込めを成功させない限り、いつかは渡航者が出るでしょう。二〇一四年十月現在では、既にアメリカに感染者が出ていますし、日本も絶対安全とは言えません。別に不安を煽りたいわけじゃないんですが、疫病の蔓延は過去の出来事でも不衛生な国の出来事でも、ましてやテレビで見る遠い外国の事でもありません。現在我々の周りでも起こり得るものだと言うことを忘れず、関心を持ち、備えを怠らず頂ければ幸いです。
「なんだか最後は真面目な話で終わっちゃったわね」
「まぁ、笑い話抜きで大事なことだからな」
「それでは、最後までお付き合い頂きました読者様に感謝」
「作者の奴、最近仕事が忙しくてなかなか書けないとか言ってるが、また別の作品でお会いしましょう」




