後編
これはもしかしてあれですか。
山本くんが私のことを好きっていう妄想…いや、予想が当たっちゃった?告白されるなら、体育館裏で壁ドンされながら、ってのが私の理想だったけど!放課後の廊下で二人きり。誰かに見られてるかもしれないスリルがあって、これはこれでイイ!!
いつの間にか山本くんとの距離はまたさらに縮まってて、彼の顔が私の耳のすぐ横に。
近い、近いよ、近すぎる。ドキドキしすぎて、もう私の心臓は限界。
「ーーーーーーーだけど」
ごめん、声が小さすぎて全然聞こえなかったんですが。
山本くんは、仕方がないといった風でもう一度繰り返してくれた。今度は小声だったけど、はっきりと。
「だから、アゴの下からヒゲ生えてるんだけど」
アゴノシタカラヒゲガハエテイル。
理解できませんでした。どこの言語でしょう。
アゴの。誰の?私の?下から??
ヒゲが。生えている?生えている??
んな馬鹿な(笑)私はオンナノコだよ?ひげが生えてくるわけないじゃん!山本くんたら、何言ってるんだか。
「何ソレ~新しいネタかなんか?全然ウケないんですけど~」
笑いながらそう言うと、適正距離に戻っていた山本くんはこれ以上ないくらい真剣な顔をしていた。
「や、ネタでも冗談でもなくて。マジな話。自分じゃ見えにくい位置みたいだけど。ほら、ここ」
山本くんの長い指が私のフェイスラインのとある部分を指した。つられて、その辺りに指を這わせると、確かに何かの感触が。
ニキビじゃない。むしろニキビであって欲しかった。
細い。糸みたいな。一センチくらいの。
そっと指でつまんで引っ張ってみたら、一緒に皮膚まで引っ張られた。
て、ことは。
間違いなく私から生えてるよ、コレ。
「ーーーー△●★※▲□?!なんじゃあこりゃあぁぁぁぁぁ??」
頭が真っ白になった。
ヤバイ。何コレ。なにこれ。ナニコレ。私の体に珍百景。わかんないけど、ヤバイんですけど。とにかく、一刻も早くコレの正体を確かめないと!
ちょっとでも早く鏡で確認したくて、私は走り出した。
正確には、走り出したつもりだった。
最初にガリッとした感じがあって、ウエストからブツッて音がして、足に布がからまって。ガクンとしたと思ったら、「ビタン!!」という音と同時に顔面から廊下に沈んでいた。
「~~~~~ッ」
あまりの痛みに言葉も出ない。漫画とかで何かにぶつかった時、星のイラストで衝撃を表現してあったりするけど、どうやらあれは虚構ではないらしい。だって実際に今、私の目の前で花火みたいな星がパチパチ散ってるし。
とにかく痛い。特に鼻が。ただでさえ低い私のささやかな鼻がこれ以上低くなったら悲しい。だんだん膝も痛みだしてきた。
「木村さん、大丈夫?!」
あれ。
我にかえった私はギギギ、と首から音がするくらい、ゆっくりと振り返った。
じわりと出てきた涙でうるんだ視界に、焦った様子で寄ってくる山本くんが映った。
そういや、山本くんもいたんだった。
全然大丈夫じゃないけど、とりあえず「大丈夫」と言いながら起き上がろうとしたら、生温い感触と鉄の味。
私の顔を見て、山本くんは顔をしかめた。そして私を立ち上がらせてくれようと、手を差しのべてくれた。
「ありがと…」
鼻と膝は痛むけど、山本くんの手を握っちゃったよ~ラッキー♪
と思ったら。
「早くスカートはいて鼻血拭いた方がいいよ」
な・ん・で・す・と。
さっきから足元がスースーする気がしてたんだよねー。そうですか。鉄臭いのは鼻血かぁ。
色々と一度に押し寄せると、脳ミソの情報処理が猛烈に遅くなる模様。ぼんやりと鼻血を確かめようと鼻の下に指をのばしたその時。
「千香ー?すぐ来るって言ったのに遅いよ……て、千香?!」
あまりにも遅い私を留衣ちゃんが探しに来てくれたらしい。
「千香、何で下着丸出し?!早くスカートはいて!しかも酷い鼻血じゃない!」
私は慌ててスカートを足元から引きずり上げて、またウエスト部分を手で押さえた。さっきお手洗いで、スカートのウエストを留めてるホックが取れかけてたのにきづいたんだよね。ファスナーも前から甘かったし。応急処置で教室に置いてるソーイングセットの安全ピンで留めとこうとしてたんだけど、さっき多分釘に引っかけて無理な力が入ったためか、ファスナー・ホック共に見事にご臨終。
留衣ちゃんは山本くんに詰め寄っていた。こんな大声出す留衣ちゃんなんて、初めて見た。
「あんたが千香にこんなことしたんじゃないでしょうね!!」
「するわけないし!」
「じゃあ何で千香はこんなことになってるの?!」
「とにかく、俺のせいじゃないし」
留衣ちゃんに押されて、山本くんがたじたじしつつも弁解を続けてる。
そんな二人を見てるうちに、私も少し冷静になってきた。
今日は一体なんて日だ!(お笑い芸人風に)
山本くんからヒゲを指摘され(この目で見てないから信じられないけど)、山本くんの目の前で見事にスッ転び、パンツは丸見え、鼻血ブー。
繰り返したい。よりによって、山本くんの目の前で。
穴があったら入りたい。入ってそのまま埋まって引きこもりたい。羞恥で人が死ねるんだったら、今日の私はもう瀕死だ。間違いない。明日からどんな顔で山本くんの隣の席で過ごせばいいのやら。憂鬱だ。早く次の席替えがあればいいのに。てか、クラス替えしたい。もういっそ卒業したい。
目の前で留衣ちゃんと山本くんはまだやりあってる。二人ともヒートアップしてきたようで、やたらと声がでかい。二人の声を聞きつけて周りに人がちらほらと集まってきた。今まで廊下が無人だったのが不思議なくらいだし。
そして、皆隣に立ってる私を見てギョッとしている。なんだよ、一体。人の顔見て失礼な。なんでそんなにドン引いてんの。ちょっと、人の顔に指差さないでよ。
とは言ってみたものの。留衣ちゃんいわく「酷い鼻血」らしいから…て、ドン引かれるくらい酷いのか!留衣ちゃん、もういいから私は早く保健室に行くなり洗面所で顔を洗うなりしたいんだけど。早くこの場を立ち去りたい。
集まってきたギャラリーの中に学校で一番イケメンと名高い香月先輩発見。今日ももちろんイケメン。近くで見るとさらにイケメン!
あ、目があった。
ちょっと先輩、なんで目があった瞬間に腹かかえて涙目で大爆笑してるんですか。
乙女になんたる仕打ち。
あーもうヤダ。
こっ恥ずかしすぎる…
★後書きという名のお断り★
読了ありがとうございます。
「生きていれば人前で恥ずかしい思いをすることだってあるさ!それでも負けずに強く、楽しく一生懸命生きて行こーぜ!!」という気持ちを込めて作品をつくりました。本作品は、人の身体的特徴をあげつらったり馬鹿にする意図は全くありませんので、ご了承いただければとおもいます。あくまでフィクションであり、架空の人物です。
★こぼれ話★
フィクションとはいったものの…
作者(♀)もある日、ヒゲが生えてきてビビりました。産毛じゃなく、眉毛くらいの太さのが。千香と同じ場所ですね。首の上の方で、アゴのかげになってて、正面から全然見えないんですよ!ちびっこなので、どうやら誰にもバレていない様子。気がけて毛抜きで抜いてます。あれ。フィクションじゃなくない?
後は彼氏から「鼻毛出てるぞ」と言われ、鼻毛を引っこ抜かれました。恥辱。痛かった…え?毛の話はもういい?そうですよねー
★そして★
山本くん目線を考え中。
こんなくだらない話に別バージョンは必要なのか?