前編
アホ展開・ご都合主義です。広く、深い心の準備ができましたら、お読み下さい。
「ねぇ、千香は今好きな人いないの?」
「うーん、好きっていうかー、ちょっと気になってる?ていうレベルかな。そういう留衣ちゃんはどうなのさー?」
いちごオレを飲みながら、向かいの席でりんごジュースを飲んでいる留衣ちゃんに聞き返す。
留衣ちゃんは色白で目元がパッチリしてて、かなり可愛い。この学年で可愛い女子ランキングをしたら、間違いなくトップを争える。今も飲みかけのジュースのパックを置いて、長い髪をかきあげただけなのに、見とれている男子の多いこと!
平凡が制服を着ているような私からしたら羨ましい容姿だけど、こればかりは仕方がない。私は現実をしっかり受け止めて生きるのだ。
じゃなくて。
留衣ちゃんの好きな人だよ!
「今のところ、特にいないかな」
「マジで?信じられん…」
なんと!彼氏がいないのが不思議なくらいなのに、好きな人もいないとは。留衣ちゃん、花の命は短いのだよ。若いうちに楽しまねば!
てか、そっくりそのまま自分にも当てはまるけど。私もトキメキが欲しい。
彼氏じゃなくても、好きな人がいるっていうだけで毎日がこう、キラキラしているように感じるのは私だけじゃないはず。些細なことで嬉しくなったり、悲しくなったり。日常が色づいて見えるから驚きだ。
そんなワタクシ、千香が気になってる人、それが右隣の席の山本くん。
山本くんを一言で表現するなら「さわやか」だ。すっごいイケメンって感じじゃないけど、なんていうか、清涼飲料水が似合う。そんなさわやかさ。しかもテニス部。これをさわやかと言わず何とする。皆さん、イメージで察して下さい。
その山本くんなんだけど、最近妙に彼からの視線を感じる。最初は気のせいだって思ってた。でもどうやら気のせいではないらしい。
ふと気がつくと、山本くんが座っている右側からの視線(主に授業中)。あれ、と思って私が山本くんの方を見ると、目をそらされてしまう。私から顔をそむけて教科書に目を向けるようだけど、しばらくするとやっぱり私を見てる。
山本くんの隣の席になって一月くらい経つけど、なんだか徐々に見られてる回数が増えてる気がする。最近私は寝不足気味で(某テニス漫画にハマってて、毎日寝る前に二冊ずつ読んでいるので、いつもより睡眠時間が短いのだ。)うっかり居眠りをしてしまうから、そんな時も見られてるかと思うと恥ずかしいんだけど。でも古典担当の先生、通称・和尚は、本当にお経を読むように授業を進めていくから、ついつい寝てしまう。漢文なんて寝るなっつう方が無理だよ。
私も一応、花も恥じらう乙女であるからして、居眠り中にヨダレが垂れていないか、こっそり制服の袖で拭いてみたり。もちろんその時は山本くんの視線がこちらを向いていないかチェック済みだ。
授業中を警戒していたら、授業中だけでなく休み時間にもなんとなく山本くんからの視線を感じるし。
私はガン見されるほど美人じゃないし。(自分で言ってて若干傷ついた……)見られるのはどっちかといえば、いつも一緒にいる留衣ちゃんの方だ。
これはもしかしてあれですか。
山本くん、もしかして私を好き、とか…?
いやいや、彼のようなさわやか好青年が私を好きだなんて、そんな馬鹿な。どれだけ自意識過剰なんだよ。
でもそしたら、彼はなんであんなに私を見てるんだろう。彼からの視線の意味は?
私もそこまで鈍くはないつもりだ。そして私の中で彼のランクは結構高い。
もし彼から好意を向けられているのなら、もちろん嬉しいに決まっている。意識されてるのかも、と思ったら、なんか私まで彼を意識しちゃって。
つい私も山本くんを頻繁に見るようになってしまった。
そんなこんなで、定期試験目前で部活動も休みになった、ある日の放課後。お手洗いに行ったとき、私は重大なことに気がついた。
「留衣ちゃん、ごめん、先に図書室行ってて~」
「いいけど…なんで?」
「ちょっとね、教室に忘れ物したみたい。すぐ行くから。ね?」
「わかった。じゃ、あとで」
留衣ちゃんと別れて、制服のウェスト部分を手で押さえ、私はきびすを返した。さっきお手洗いで気づいて良かった!このままだったら何時エライことになっていたか。
「木村さん?」
呼ばれて振り向くと、山本くんがいた。隣の席になってかなり経つけど、そしてしょっちゅう視線は合うけど、実はマトモに会話をしたことがないんだよね。
こう見えて私はシャイなタイプなのです。
「あの、さ……」
そう言ったまま、山本くんは黙ってしまった。視線をさ迷わせ、口を開けては閉じ、何か言いたげだけど、なかなか言葉にならない。
廊下で山本くんと差し向かい。ちょうど周りには誰もいない。
「木村さん」
意を決したように山本くんは私の顔を見た。おそらく、初めて、真正面から。
山本くんが一歩私に近づいた。
つられるように私は一歩後ろに下がった。その拍子に廊下の掲示板に背中を預ける、なる。ふと腰の辺りに違和感を感じてちらりと見ると、紐のついた掲示物をひっかけるための釘が飛び出ていた。
山本くんがさらに一歩進んで、私との距離を詰める。
「ずっと、木村さんに伝えたいことがあって」