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依頼の各種薬草をそれぞれの個数を採取し、次は遺跡に向け前進する。
その途中、様々な魔物と遭遇、戦闘。
その中には依頼の魔獣もいた。
凶悪な魔物だろうとも、俺の手にかかれば赤子の手を捻るくらい容易い。
全ては一刀一弾のもと、殺害可能。
かつての戦場に比べれば、現実は優しく…………脆い。
アレはまさに地獄だった。
地獄の業火すらも生温く感じるくらい―――――――――――――――――――
決して死ぬことも生きることも、、、許されない。
そんな掃き溜めに、俺は少しばかし長居し過ぎたのだろうな。
――――――――――――――――――――そもそも、あの場所において俺こそが弊害だった。
そう考えれば、自然と笑みが浮かぶ。
あまりにくだらなさ過ぎて。
笑ってしまう。
◇
遺跡へは3日ほどの時間を要した。
所々に寄り、依頼以外の収穫物を入手するためだ。
どうせ今このときもギルドに俺宛のいつもの依頼が舞い込んでる最中だろう。
遺跡はかつて国として繁栄を極めた首都の残骸。
ここから当時使用していたと思われるマイクロコンピューターやDVD、CDなど発掘するのが目的。
依頼人である変人が、太古の文化研究に熱心で、アニメや漫画、あるいは当時のアイドルグループの映像などにはまっているのだ。
研究ではなく、個人の趣味での依頼。
金持ちの道楽は凡人には理解できない。
かつて首都だった名は【新東京】
変人の話では文化の混迷が一番激しく、萌えるらしい。
意味がわからん。
まあ、こんなディスク1枚でいい値段で買ってくれるお得意さんだ。
それに俺の持つ刀と呼ばれる剣は、この地で作られていたものだったらしい。
本家の総本山。
ただ美しいまでの武器を作り上げてきた国家が、何故に、このような異文化に変容したのかは、俺には謎すぎてわからない。
それこそが、変人がいう混迷期だというのだろうか。
◆
10日ほど遠征し、最初の地点にまで戻ってきた俺は、ギルドへと戻る。
「お疲れ様です、ジンさん」といつもの受付嬢が、いつもと同じ微笑みを浮かべ出迎えてくれる。
「一括精算頼む」
俺はギルドカードと各種依頼物を手渡した。
「本日も大量ですね。こちらすべて依頼主に譲渡してもよろしいですか?」
「いつも通りだ」
「かしこまりました。少々お時間がかかりますのでお掛けしてお待ちください」
近くの自販機から缶コーヒーを買い、喫煙所で一服。
受付嬢に呼ばれるまでの間、様々な同業者から声を掛けられる。
十数年もギルドに居座っていれば、俺もお山の大将の一角に見られるわけだ。
ランクの上下に関わらず。
向こうは必ず俺を見かければ会釈するなりする。
偶に生きのいい馬鹿が俺に突っかかって来るのを除き、俺はそこそこに同業者からの信頼もあるようだ。
4本目の煙草が吸い終わったとき、丁度よくお呼びが掛かる。
「お待たせしました。計15件の依頼完了を確認が取れましたので、計265万円の支払いとなりますが、お間違いないでしょうか。………はい、それではいつも通りに全額カードの方へ振り込みます。
――――――――こちらカードのお返しと、大変申し訳ありませんが、副長が呼んでおりますので、二階の会議室へお越しください」
「どういった用件だ?」
「……多分、先日王国からの指名依頼がありまして、その件かもしれません」
と声を潜めて、そう告げる。
俺は思わず眉を顰める。
王国に睨まれないよう、これまで王国の依頼はすべて受けてはいなかったはずだが………。
まあいい。
「フィリア」
「は、はい」
俺に突然名前を呼ばれて、少し焦る受付嬢。
「誕生日おめでとう」
俺はポケットから小さめの木箱を彼女に手渡し、副ギルド長であるトーマスが待つ会議室へ向かう。
「へ? ええええっ??」
フィーはまだ事態に追いつかないのか、素っ頓狂な声をあげ、若干頬を赤らめる。
◇
「わざわざ、すまないね」
「手短に頼む」
「次の月のはじまりに王立魔法学校の講師を勤めてもらう」
「……………王国からの勅命か?」
「剣聖アルト君が、君を師として仰ぎ絶賛しているからね。剣聖アルトを育てた師を見逃すほど王国も愚鈍ではないのさ」
「…………こんな教養も糞もない男を、将来を担う子供達の世話をさせるってのか?」
そもそもなぜ今更王国から俺の名が上がる?
「…………勅命、か」
「その通り。断ることはできない」
俺は大きくため息一つ吐き、煙草を吸う。
「君が下界へ行ってるとき、病気療養中だったSランク魔導士が死亡しその席を補完するため、剣聖アルトが抜擢され、最年少ながらもSランクの座についたのが真相だ」
「ご苦労なこった」
ただ――――――――――――――――
「まだあいつには荷が重すぎる」
「と思ってるのは君だけ。彼の評価は間違いなく次世代を導くSランカーのそれだ」
「今をときめく男を御輿に上げて、王国は何が狙いだ」
「色々と重要案件があるのさ、たとえば……増税とかね。
負の連鎖を断ち切るための、ちょっとしたショックアブソーバーみたいなものさ」
「ますます貧困層は拡大するな」
「そのためのギルド(ダストステーション)さ」