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男が愛用する武器がある。
遥か昔に造られた剣。
3つの時代を跨ぎ、なお己を維持してきた片刃の両手剣。
装飾は一切ない。
無骨にただ刃を輝かせる。
銘はない。
戦国の世、職人が【殺】の一つで叩き上げた太古の剣は、兵器的な価値は一切ない。
魔の一つも組み込まれてないアンティークは、現代においては観賞用にコアの層が購入するくらいだろう。
刀という剣は、非常に薄刃だ。普通に硬いものを斬ればすぐに折れてしまうほど脆弱で、現代において使い手は皆無である。
しかし男は意味を見出だす。
この刀の一つの目的を叶えるため。
そしてもう一つの武器【銃】というカテゴリーされるアンティークと出会った。
◆
【ギルド】
「おはようございます、ジンさん」
といつも通りフィーが挨拶をするので、挨拶を返す。
「昨日今日とジンさん宛に指名依頼が5件ほどありますが、いかがなさいますか?」
「とりあえず確認させてくれ」
「はい、どうぞ」と映像端末を指でクルッと回し、俺の方へ向ける。
………薬草探しに、魔獣の皮と、お宝探しか。
「期限は?」
「できるだけ早くらしいです」
「随分とまあ曖昧なこって」と苦笑をもらす。
「ジンさんの仕事の多さは各依頼人わかっていらっしゃるので、複数依頼を同時に、最速でクリアするジンさんの手腕にお任せですね」
それと―――――
「この間の冒険者なのですが、アルトさん達の耳に入りまして、キツいお灸を据えたらしいですよ」
「………アルトか」
ギルドランクA 剣聖 アルト
アルトが新人時代、古参な俺がギルドのお願いによりしばらく面倒を見た少年だった。俺の庇護から去った後、みるみるうちに実力をつけ、順調にギルドランクを上げていき、今ではもっともSランクに近いAランクとして王国から期待されている。
新人時代から面倒を見ているせいか、Aランクだというのに、遥か格下の俺にうだつが上がず、子犬のような奴だ。
ちなみに現在は、似たような人間を複数集めてパーティーを組んでいるとか。【聖銀の鎖】とかそんなような名前だったはず。
――――――暇でもないのによくやるな。
「今度会ったら一杯やろう。と伝えておいてくれ」
「はい、かしこまりました」
◇
ギルドの奥に進むと転移装置がある。
魔方陣の中央に機械があり、その機械に行き先を入力するだけ。
決定ボタンを一度押し、再確認表示が現れる。再度決定を押すと、指定したポイントに移動できるシステムとなっている。
転移は一瞬。強力なG(重量)と560°フル回転したような 三半規 管へのダメージが一瞬に凝縮され襲い掛かる。
新人なんかはよくぶっ倒れたり、胃の中のものを吐き散らす。
移動前は絶対に飯は食わない。
寝不足では絶対に乗らない。
それが新人のうちの暗黙の掟。
転移先も一応 気配遮断や複雑怪奇な強力な結界によって守られ、転移先に魔物と鉢合わせという状況は少ない。
そう少ないのだ。
絶対ないとはありえない。
三年に数回は、強力な魔物によって結界が破壊され、そこを餌場とした賢しい魔物に転移した無防備な状態を狙われ、人生を終了したものが5年ほど前、流行った。
だから、絶対はない。
ギルドからこちら側に転移した瞬間、戦いははじまる。
俺の場合お陰さまで、普段の行いがいいせいか、年に三回ほど転移した瞬間、戦闘がはじまる。
一番思い出に残ってるのは、七年前、特大の魔物が転移装置ごと飲み込んだらしく、転移した瞬間、魔物の胃の中だ。
強力な酸で全身ゼリーマンになる前に、内臓を切り裂き、外側へ脱出したが臭いがとれず飛び込んだ川でも魔物とやり合った。
ストレスの絶頂だったな。
・・・
今回は無事のようだ。
周囲に魔物の様子は見られない。
この結界に不都合があるとすれば気配遮断とうの結界のせいで外・内関係なく気配が読めなくなることだろう。
もしかすれば狡猾な魔物がその辺に待機しているかもしれない。
まあ、考え過ぎ・心配性はある程度ーーーあまり考え過ぎると、冒険者の仕事自体否定することになる。
まずは薬草採取から行きますかね。
◆
薬草での依頼件数は2件。
太陽草と魔力草を各100株
月光草を50株
地形を知らない新人には難しく、
生息場所を分布できない玄人には難しい依頼内容だ。
現在地点から南西へ100キロメートルほど進む箇所に薬草の聖地がある。
これは俺以外しらない隠れスポットの一つだ。
そして余談になるが、さらにそこから10キロメートルほど離れた地に、俺が栽培している希少の薬草だけ生息する場所がある。
月光草はそこで採取する予定だ。
100キロメートルの距離は最速で半日は掛かる。
道中、同じく依頼された魔獣【ブラックタイガー】【パワーベアー】が入れば狩りたいところだが、そんな都合よく現れれば恩の字だろう。
――――――さて、行きますか。
◆
森の中を駆け抜ける。
ろくに整備もされていない太古の森は壮観だ。
この森で大量の家木を仕入れようとするならば、the end ギルドランクAの精鋭達が集まろうとも数分で全滅するだろう。
この付近一帯は、不可侵であると同時に聖域の一つに部類される。
さすがの俺も草木の一本頂くときも許可をとらねば、決戦になりかねない。
そもそもこの転移ポイントは、使用できないのだ。
とある昔に、地上の行き来を楽にするために役所の人間と冒険者で転移装置を増設した。
ろくに実地調査せずに。
まあ、実地調査していれば皆殺しの憂き目に遭っていただろうが。
偶然にも転移装置や結界に都合の良い箇所が見つかったため、設置。
彼らは転移し、空中都市へと帰還した。
その後、太古の森は貴重な資源で溢れていたことが判明。多くの冒険者がこの地へ転移し、好き勝手に略奪した。
ーーー禁忌に触れた。
決して触れてはならないものに馬鹿が触れてしまった結果ーーー冒険者は全滅。
ご丁寧に生首だけ転移装置の周りに集積される有り様。
しかも、だ。
その後、王国全土に竜種が出現。
瞬く間に火の海となった。
悪夢のような出来事。
竜種という最強種族の本気。
王国は討伐隊を組織。最大の装備・人員で討伐を図ろうとしたが、保守派の猛追もあり断念。
竜種襲撃の調査を実施。
そして、この森の転移装置を封印することに決めた。
1世紀前の話になるのか。
偶然にも発見した俺は、色々と装置を弄り、俺しか転移できないよう設定した。
――――――――今日は起きてたか。