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空中都市【ディバース】
その都心部から少し離れた住宅街が建ち並ぶ場所に男の住み家はある。
珈琲喫茶【MEG】
三階建の古くも新しくもない家の一角を10年くらい前から間借りしている。
家賃は当初1万円と安くして貰っていたが、男の収入が比較的安定するころには、20万円ほど月々支払う。
この額も比較的高い家賃になるが、それには一つ二つ訳がある。
◆
正午過ぎ、男は目が覚める。
昨夜はトラース(ギルドの副代表)が酒代を全て持つと言うことで夜通し明け方まで飲みまくり、千鳥足で家までたどり着き、そのままベッドにダイブ、就寝した。
「……酒くせ」
男は衣服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
少し熱いお湯で、アルコールと眠気を落とし、無精髭を剃る。
鏡に映る自分の髪に触れ「髪も少し伸びたな」と感じる。
Tシャツに下ジャージを穿き、1階へ降りる。
「ようやく起きたね、寝坊助」
「久しぶりに飲んできた」
おはよう。といってカウンターの席に着く。
「どうする?」
「濃いめのコーヒーと軽いものくれ」
「あいよ」
返事をする女はアンナと言い、男が世話になる家主の娘で20いくつにもなって、独り身。サバサバとし面倒見の良い美女だ。
「メグは?」
「裏で勉強してるよ」と続け「いつものかい?」
「ああ」
「あんたもいい加減、自分の世話くらいしてくれる奥さんぐらい掴まえなよ」
「お前もいつまでも高嶺の花を演じてたら嫁ぎ遅れるぞ」
「私は別………なんなら私が良い娘紹介してあげようか?」
はい、お待ちどうさん。
コーヒーとフレンチトーストが出される。
アンナは一仕事終わると、男の隣に座り、煙草を吸う。
静かな時は流れる。
お互いに言葉はない。
ただ、落ち着いたもの。
男が食事を終えたとき、ちょうどよく裏からメグが姿を現す。
「あ、おじさん。おはよう」
「おはよう」と男も返す。
「メグ。食器片付けて」
姉の言葉にメグは「はいはい」といって男の食器を片付ける。
「コーヒーは?」
「頼む」
「はい」とコーヒーのおかわりを差し出す。
「あとメグ。ジンがいつものだって」
「はいさー」と食器を手際よく荒い、男のもとへ寄る。
「ちっと酒臭いけど頼む」
男は財布から数枚札を渡すと、メグは「毎度あり~♪」と受け取り、鼻歌混じりで階段を上がって行く。
「ありがとね」
「別に…………礼を言うなら俺の方だろ」
「まあね」
メグは、アンズの少し年の離れた妹だ。今年で16才になるメグは来春からは高校生になる。
公にまだバイトなどの稼ぎもできず、収入があるとすればお店のお手伝いをしたときと、男が依頼する部屋の清掃と洗濯のときにお金が貰える。
あるいは、学校の行事などで旅行へ行くときも、密かに多額の小遣いを頂くのだか、それはアンナも黙認ーーーアンナ自身、学生時代男からけっこうな額を頂いていた。
「お前の両親には世話になりっぱなしだからな」と男は仏頂面で答える。
◇
愛しい人だ。
アンナは思う。
不器用だけど、私たちを家族だと思ってくれて、困ったことがあればすぐに解決してくれる。
冒険者ってこともあって、すごく心配した時期もあったけど………今でも心配してるけど、少しは安心して見られるようになった。
気付いてくれると嬉しい。
だけど、今のままが続けばいい。
男は冒険者だ。
いつかは去っていくのかもしれない。
ーーー1つだけ我が儘が叶うならば、ずっと隣にいて欲しい。