第38話 隷属の首輪
えっちゃんとネロはグレンハルトの町へ急いでいた。森の中を風のように走って行く。
『えっちゃん、はやいねー!』
『なるべく早くリアのところに戻りたいんだ。リア、なんか怒ってただろ?』
『うん。おこってた。たぶん、あのくびわ』
『そうだな、あの首輪を外すとき、すごく怒ってた。だから、俺に付いてくるのはノルだと思ったんだけど』
『どうして?』
『だって、リアは嫌なことがあるとモフモフさせろって言ってくるだろ?ネロは平気だけど、ノルはよく逃げてるからさぁ』
『あっ!』
『なんだ、そこまで考えてなかったのか?じゃあやっぱり早く戻ってリアを慰めないとな!』
『うん!はやくもどる!』
***
えっちゃんとネロを見送ったオーレリアは、おもむろにノルを抱き上げた。
「ノル~!ちょっと慰めて~!」
『あぁ~!は~な~せ~!』
「いいじゃん!ちょっとぐらい!」
オーレリアは、ノルのお腹に顔を埋めた。
「すーはーすーはー」
『やめろ~!』
「ノル、無駄な抵抗だよ。ネロとえっちゃんはもっとモフらせてくれるのに!」
『ムムム。もう!ちょっとだけだぞ!』
ノルは、悟りを開いたかのような無表情でただ時が過ぎるのを待つえっちゃんの姿を思い出し、ひたすら耐え忍んだ。
***
急いで走ったえっちゃんとネロは、わずか2時間ほどでグレンハルトの町に到着した。えっちゃんは大きなフェンリルの姿のままなので、門にいる人々は騒然としたが、以前魔の森の調査隊の一員として同行していた騎士がいたため、すぐに副団長のフリードリヒ・ハーゲンが呼ばれた。
フリードリヒは報告を受けてすぐに大門へやって来た。
「エルディオール様、どうされましたか?オーレリア殿は?」
えっちゃんは、オーレリアの手紙をバッグからポイっと出した。
「手紙?拝見しても?」
フンッ!と頷き、フリードリヒに手紙を読ませる。フリードリヒは手紙を読むと厳しい表情で顔をあげた。
「すぐに向かいます!」
えっちゃんはその言葉を聞いてすぐに、オーレリアの元へと戻っていった。
***
オーレリアの手紙を読んだフリードリヒは、すぐに指示を出した。
「騎士を6名選抜!馬車を用意しろ!」
フリードリヒは、騎士団本部と冒険者ギルドに報告を入れ、6名の騎士を引き連れて町を出た。
オーレリアの手紙には、魔の森の東の端で子供8名を保護したこと、誘拐犯を拘束したこと、隷属の首輪をされていたがすでに壊したこと、馬車が壊れているから迎えに来てほしい、などのことが書かれていた。
フリードリヒたちグレンハルトの騎士団は、以前から帝国の人身売買組織を追っていた。この組織は、獣人の子供やエルフの子供を狙っていて、誘拐するにはヴァルクレスト王国を通ることになる。ヴァルクレスト王国の中でも辺境にあるグレンハルトは中継地点として、犯罪組織に利用されていた。
グレンハルトの町でも、獣人の子供が攫われる事件が度々おこり、辺境伯が調査を命じていた。さらに騎士団だけでなく、冒険者ギルドにも協力を要請していた。
オーレリアの誘拐未遂事件も、この組織が関わっているとみられている。
今までの調査でこの犯罪組織は、商人に偽装していることや、馬車になにかの魔道具を使って、子供の気配を分からなくしていると言われていたが、なかなか証拠が掴めずにいた。おそらく、内通者がいるのだ。そのせいで調査も慎重になっていた。
そこへきたのが、オーレリアからのこの手紙である。うまくやれば、町にある拠点も一気に叩ける。だが内通者をどうやって炙りだすか。失敗すれば、元の木阿弥だ。拘束した者たちから情報が得られればいいのだが……。
***
えっちゃんとネロがオーレリアの元に戻ったころ、ノルはぐったりとしていた。
「ネロ!えっちゃん!おかえりー!」
オーレリアがむぎゅーっと二匹を抱きしめる。そのまましばらくくっついていたが、何とか満足して離れていった。
『ふぅ。ノル、大丈夫か?』
『ん~、だいじょうぶ。おれ、ちょっとかりにいきたい!』
『俺も行くよ!リア、ノルと一緒に狩りに行ってくるね!』
「うん。いってらっしゃい!」
『りあ!ぼくは、りあといっしょにいるからね?』
「ありがとう!ネロは優しぃねぇ!」
『おれも、やさしかったでしょ!もぅ!』
「ごめん、ごめん。ノルも優しいよ!もちろんえっちゃんも!」
えへへと言って、ノルとえっちゃんは狩りに出かけて行った。ネロはオーレリアの肩にのって、頬っぺたにスリスリしている。
「助けが来るのは明日か明後日になるかな?早く来てくれるといいんだけど」
フリードリヒたち騎士団は次の日の昼過ぎには到着した。近くに街道が通っているので早く駆けつけることが出来たのだそうだ。
騎士団の人たちは、洞窟の周辺や中を調査したり、壊れた馬車を確認していた。
「オーレリア殿、感謝する!」
「うん。えっちゃんが見つけてね、ちょっと様子を見に来たら、なんか嫌な感じがしたから……」
「隷属の首輪か。あれは、ゼノスガイア帝国が使う魔道具だな。あの国では奴隷は合法なのだ。貴族の間では、獣人やエルフの子供の奴隷が人気で、高値で取引されているのだとか……」
「嫌な話だね……」
「申し訳ない。……ここの調査には改めて人員を派遣する。今日はじきに日が暮れる。ここで野営して、明日の朝町に向けて出発しようと思う」
「わかった」
「オーレリア殿にも改めて話を聞きたい。町まで同行してもらえるかな?」
「うん、行くよ」
そうなるかなと思っていたので、素直に町まで同行することにする。本当は早く家に帰って、お風呂に入って、ノルとネロとえっちゃんと一緒に寝たかった。
でも、助け出した子供たちはオーレリアになついていて、騎士団が来てからも、オーレリアの側を離れない。たぶんあれだ、カルガモの雛のような、すりこみのようなものだと思う。家に帰って親に会うまでは不安なのだろう。まだ10歳にも満たない小さな子供たちだ。心に傷が残らないといいのだけど。
その日の夜は、ノルとえっちゃんがストレス発散で狩ってきたオーク肉で、焼肉パーティーとなった。
今までオークにはあまり出会わなかったけど、奴らは森の東側にいたようだ。こんなに美味しいなら、たまにはこっちの方まで狩に来ようと、ノルとえっちゃんは話していた。
子供たちも、お肉がたくさん食べられるとあって、嬉しそうだった。草食系なのかなと心配したけど、問題なさそうだ。
オーレリアがいつも使っているお肉のタレを数種類出して、いろいろな味で楽しむ。騎士団の人たちは、お酒が飲めなくて残念だと言っていた。
夜は、オーレリアのテントの空間を広げて子供たちとノルとネロとえっちゃんとみんなで寝た。いつもは、モフモフに包まれてゆったりと寝ているが、こんなにたくさんの人と一緒に寝たのは初めてだった。小さな兎獣人の姉妹と、エルフの少女ライラはオーレリアにぴったりとくっついて眠っていたし、他の子もぎゅうぎゅうと身を寄せ合って眠っていた。
翌朝、簡単な朝食を済ませてから、グレンハルトの町に向けて出発した。
子供たちを馬車に乗せ、犯人たちは全員鎖で繋がれて、上半身には拘束の魔道具をされ、馬車の後ろを歩かせる。喋れないようになっているようで静かではあったが、時折、騎士やオーレリアを睨みつけては逆にえっちゃんに睨まれて、すくみ上るということを何度かやっていた。
オーレリアは、子供たちに一緒に馬車に乗ってほしいと言われたが、街道とはいえ魔の森の近くなので、えっちゃんに乗って移動することにした。
子供たちのことを考え、何度も休憩を挟んだので、グレンハルトの町に着いたのは次の日の夕方だった。




